114、ジャックの役割
黒い髪の人化したスライムが、言いにくいことを、はっきりと言っちゃった。いつもより口調もキツイ。誰かに頼まれて、嫌な役を引き受けてるのかも。
彼を慕っているアルくんが、真っ青な顔をしてる。悪意や恨みの連鎖に関しては、アルくん自身もそうだからだよね。
(どうしよう……)
重苦しい雰囲気になりすぎたから、黒い髪の子も、ちょっと焦ってるみたい。だけど、彼はアルくんのために言ったんだと思う。恨みを抱えたままでは、青の王国を再建したとしても、きっと戦乱に参加する国が増えるだけだよ。
「優しいスライム神に、そこまでの覚悟をさせてしまったのは、大陸を守れなかった私の責任ですね。本当に申し訳ないです」
(ありゃ……)
ふわふわ浮かぶ女の子……クイーンホワイトさんは、チカラなくそう言うと、うつむいてしまった。
『クイーンホワイト、これは貴女だけの問題ではないですよ。スライム神が、異世界から様々な知識を持つ魂をこの世界に呼び寄せて、改善しようとしました。だが、異世界からの転生者の証である白い髪の子供を、気味悪いと言って殺し始めたのは、人間です』
皆は、誰が話しているのか、わからないみたい。キョロキョロしてる。
「今の不思議な声は、この白いスライムだよ」
離れた場所からでも見やすいように、頭に乗せてみた。私の頭には、いろいろなスライムが乗るから慣れてるけど、皆は、すごく驚いた顔をしてる。
「なぜ、スライムが人間の頭に乗るんだ? 人間は不浄だと嫌っているのでは……」
「そうなの?」
私の頭に乗ったことのある、黒い髪の子に尋ねてみると、首を傾げていた。ただの噂なのね。
『それは、直接触れると、体液を吸われることがあるからだろう。ジュリはそれがない。白い髪の特徴だ。スライムの体液の影響を受けないし、影響を与えないですからね』
「でも、黒い髪の子は、私の影響を受けて、ブラックスライムになったんですよね?」
『ジュリに触れたことによる影響ではないよ。ジュリの考えや知識の影響を受けたんだ。だからブラックは、短期間で急成長したんだよ』
(なるほど)
白いスライムが念話で参加したけど、重苦しい雰囲気は変わらない。クイーンホワイトさんも、うつむいたままだ。
あっ、クイーンホワイトさんの回復じゃなくて、彼女を支えるためについてきたのかも。
『ジュリ、話し合いは得意だろう? この雰囲気を何とかしてくれ。ジャックは気が弱いから、自分からは話せないぞ』
(今の声は、私だけが聞いてるの?)
『あぁ、頭に乗っていると、ジュリだけとの念話も、やりやすいな』
(わかったよ)
まず、話を戻さないといけないから、もうひとつの疑問を解消することからだよね。
「まだら模様のスライムさん、ジャックって何なの?」
私がそう尋ねると、グレー髪のオジサンは、少しオドオドしながら口を開く。
「スライム神に仕えるスライムは、キングと呼ばれるのは知っているね? あ、クイーンもいるけど。ジャックとは、召し使いなんだ」
「召し使い? あ、使用人ってこと?」
「人間の世界での適切な呼び方はないと思う。僕は、ジャックの役割を得たから、これから長い時間をかけて、ダークスライムを減らすことを約束した」
「ダークスライムを減らす仕事を与えられた使用人ってこと? なんだか騎士みたいだね」
「上手く説明はできないが、スライム神からジャックの役割を与えられたから、僕は、大陸にいるスライムを統制するクイーンの補助をする。そのために、ジュリさんに許可してほしいことがあるんだ」
「私の許可?」
「そう。僕は、ダークスライムを減らすために、これから大陸を歩き回って、ダークスライムに体液を撒こうと考えているんだ。それが一番効率がいいと、スライム神も言ってくれたから」
「体液を撒く許可? 私は大陸の人間じゃないよ」
「えーっと、人間は知らないのかな。えーっと……」
私が首を傾げてると、黒い髪の子が口を開く。
「ジュリちゃん、ダークスライムのように、ほぼ液体になるスライムは、意思伝達には体液を使うんだよ。大陸のあちこちに、同じような姿のダークスライムが広がっているのは、そういう特性のためだ」
「意思伝達に、体液を使うの?」
「あぁ。だから、ジュリちゃんに叱られる前に、許可をもらおうとしてる。それほど、ジュリちゃんを恐れてるんだよ」
「えっ? 私は、何もできないよ?」
「今、ジュリちゃんが両手に塗ってるマニキュアが怖いんだよ。ダークスライムだった彼を、簡単に殺す手段はいくつもあるだろ? 島にいる大きなスライムとは違って、大陸の普通の人化するスライム程度のチカラしかないぜ」
「ん? あー、闇魔法の反転とか、猛毒とか?」
「ブラックスライムの変異種だが、元はグリーンスライムだから、火魔法にも耐えられないと思うぜ。手を触れて発動されたら、一瞬で消し炭になる」
「ふぅん、そっか」
(あっ……)
何だか、グレー髪のオジサンが、怯えてる。
「ジュリちゃんが使った不思議な魔法のことを情報として伝えるつもりらしいよ」
「そんなことしたら、もう、カビキラーでダークスライムを討てなくなるじゃない」
「それはない。あの魔法の黒カビというものは残ってないから、ダークスライムがその構造を知ることはできない。未知の菌を植え付けられて、わずかな魔力で殺されたという恐怖心だけが、伝達されるはずだ」
「それって、すごく恐ろしく聞こえるんだけど」
「あぁ、それでいいんだ。人間に恐怖すれば、ダークスライムの活動が低下する。人間の悪意に触れなければ、餌がないから身体は縮んでいくよ。どの人間がそのチカラを持っているか、わからないわけだからな」
(なるほどねー)
「それでは、白い髪の人間を避けるだけではありませんか? ジュリさんの髪色は、この洞窟にいるダークスライムにも知られています」
クイーンホワイトさんが、会話に参加してくれた。その表情は、少し明るくなってる。
「それは大丈夫ですよ。ジュリちゃんは、髪色を変えることができるからね」
黒い髪の子はドヤ顔をしてる。ネイルが偉いんだからね。
「人間の髪色は、ダークスライムの体液で黒く染まりますが、ジュリさんには効かないのでは?」
アルくんは知ってるから、クイーンホワイトさんの指摘に、ハッとした顔をしてる。実演しないと他の人は信じないだろうけど、頭の上の白いスライムが……。
『ジュリ、やってみてくれ。俺も染まるのか、試してみたい』
皆様、いつもありがとうございます♪
良いお年を〜(*´ω`*)




