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110/132

110、島に戻ると

「ジュリ、これは一体どういうことだい?」


 海辺の集落に戻ると、オバサンが仁王立ちで待っていた。大陸とは時差があるのか、海岸はもう夜になっている。ダークスライムだったオジサンも、普通に入ることができたね。


(キララ、クローズ。ネイルも腕輪に戻って)


 私はこっそりと指示をした。気球のキララと、人の姿をしたネイルは、ほぼ同時にスッと消えた。



「ちょっと大陸に行ってきたよ」


「なぜ、私に何も言わないで、山の中の集落から直接行ったんだい?」


「だって、村長さんは心配するから〜」


 クゥゥゥッ


 パンの焼ける匂いが、海岸にまで流れてきてる。今の音は、アルくんね。恥ずかしそうにしてる。


「はぁ、さっさと家に入りな。話は、晩ごはんを食べながら聞くよ。ブラック、悪いけどスライムの見張りを頼めるかい?」


(知ってるみたい)


「あぁ、いや、村長、ちょっと待ってください」


 黒い髪の人化したスライムは、スライム神の祠のある方へ視線を向けた。


(あっ、スライム神が来ちゃった)



「遠くまで出掛けていたらしいのぅ」


「爺ちゃん、大陸に行ってきたんだ。旧王城跡に、青の王国の生き残りがいた。俺は、スライム神と話したいんだ。ジュリちゃんの考えと俺の考えは、少し違う。どちらが正しいか、聞きたいんだ!」


 アルくんは、お爺さんの素性を知らないから、変なことを言ってるように聞こえる。でも、私は知らんぷりをしておかないとね。


「ふむ。アルは、ジュリとケンカでもしたのかの? 人間の揉め事には、スライムは深く関わらない決まりじゃ。村長に相談すると良いぞ」


「あ、そっか。わかった。じゃあ、爺ちゃんは、なぜ祠から出てきたんだ?」


「大陸から連れ帰ったスライムと、少し話そうと思ってのぅ。ふむ、この二体がいずれも、ダークスライムと呼ばれておったのじゃな?」


(あっ、確かに、そうね)


 アルくんも、忘れていたみたい。少し、返事に時間がかかってる。


「白い髪の女の子は、クイーンホワイトの分身なんだ。ただ、人間の悪意を吸収してしまってダークスライム化していた。黒と白の髪のオジサンが、本来のダークスライムだ。浄化は効かなくて、ジュリちゃんの不思議な知識で、ダークスライムになる前の個体に戻ったけど、ブラックスライムの変異種なのに、クイーンホワイトの分身を喰ったから、黒と白のまだら模様の巨大なスライムだよ」


 アルくんは、一気にしゃべった。


「ふむ、そうか。クイーンホワイトの分身は、自分で人化したわけではないようじゃの。人間の姿に固定されておる。ブラックスライムの変異種は、下手くそな人化をしているようじゃな」


「爺ちゃん、すごいな。そんなサーチができるのか」


「ワシは、すごいか? ホッホッ。アルとジュリは、晩ごはんを食べなさい。今夜は、このスライム二体は、祠で預かろう。ブラックも来るかの?」


「ブラックさん! 爺ちゃんの護衛で、居てあげてほしい」


 アルくんは、黒い髪の子に、深々と頭を下げてる。たぶんアルくんにとって、お爺さんは、亡きお爺様のような存在なのね。


「じゃあ、私も祠へ行きますよ。アル、ジュリちゃん、また明日な」


 お爺さん達は、祠の方へ歩いていった……けど……。



「やだっ! ぼくは、ジュリエッタといっしょがいいっ!」


(あちゃ)


 私の胸元に、白い髪の小さな女の子が、飛び込んできた。目に涙を溜めて、ぎゅーっと抱きついてる。


「ジュリに懐いておるのじゃな。ワシは、話を聞きたいのじゃがな」


 お爺さんは、強制するつもりはなさそうだけど、たぶんクイーンホワイトさんと話したいんだよね。


「私が見ていたので、クイーンホワイトの分身のことは説明できますよ」


「そうか? では、ブラックから話を聞くとするかな。村長、その子は、クイーンホワイトがジュリに託したようじゃ。人化した状態で固定されておるから、人間と同じように扱ってやってくれるか」


「わかったよ、爺さん。人化したスライムが女の子の姿をしているのは、初めて見たよ。クリアスライムには雄雌がいるとは聞いていたけどね」


「そうじゃな。クリアスライムは、あまり人間を好まぬから、見たことがないのも当然じゃ。では、よろしく頼むぞ」


 スライム神はそう言うと、黒い髪の子とグレー髪のオジサンを連れて、祠へと離れて行った。



 ◇◇◇



「ジュリエッタ、ぼくも、にんげんのごはんをたべたい」


 オバサンの家に入ると、漁師の何人かが食事をしていた。他の人間と関わるとまたダークスライムになると思っているのか、小さな女の子は、降ろそうとしても私の腕にしがみついてて、降りてくれない。


 そういえば、クイーンホワイトさんも、空中に浮かんでたっけ。床を歩くという感覚がわからないのかも。



「ジュリちゃん、妹がいたのか?」


「人間のごはんって言ったから、スライムなんじゃないの? でも、サーチしてもスライムの反応がないな。子供のスライムは人化できないか」


(えっ? そうなの?)


 私の目には、小さな頭の上に、小さな白い帽子を被っているように見えるから、スライムなんだけどな。


「この子は、大陸で預かったんだよ。明日、また連れて行くけど」


「へ? 大陸に行くのか? じゃあ、ジュリちゃんは、しばらくは戻って来ないんだな。しかし、大型船は来てないはずだけど」


「キララがすごいから、大丈夫だよ」


「まぁ、そうだな。十日くらいで戻ってくるか」


(わかってないよね)



「ジュリ、しゃべってないで、手を洗ってきな。アルはもう手を洗ってきたよ。その子の手も洗うんだよ」


「はーい、わかったの」


 私が手を洗いにいってると、食堂から大きな驚きの声が聞こえてきた。私達が、半日で大陸と往復してきたことを、オバサンが話したみたい。


(キララは、すごいのよ)




 晩ごはんは、ちょっと大変だった。小さな女の子は、今日、初めて人化したから、好奇心旺盛なんだけど……。


「ふわしろスライムさん、スープは、バシャンってしちゃダメだよ。パンは、こうやってちぎると……あー、どうして放り投げるかな」


(アルくんが、ママしてる)


 向かいに座ったアルくんは、ずっと、小さな女の子に食事のマナーを教えてる。でも、お上品すぎるのよね。


 アルくんの指示が難しいから、パンを放り投げたわけじゃないけど飛んでいったみたい。


 結局、私が食べさせることになった。アルくんが食べさせようとしても、口を開けてくれないからね。


「ふわしろスライムさんは、反抗期だよね」


(あーあ、アルくんが拗ねちゃったよ)


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