110、島に戻ると
「ジュリ、これは一体どういうことだい?」
海辺の集落に戻ると、オバサンが仁王立ちで待っていた。大陸とは時差があるのか、海岸はもう夜になっている。ダークスライムだったオジサンも、普通に入ることができたね。
(キララ、クローズ。ネイルも腕輪に戻って)
私はこっそりと指示をした。気球のキララと、人の姿をしたネイルは、ほぼ同時にスッと消えた。
「ちょっと大陸に行ってきたよ」
「なぜ、私に何も言わないで、山の中の集落から直接行ったんだい?」
「だって、村長さんは心配するから〜」
クゥゥゥッ
パンの焼ける匂いが、海岸にまで流れてきてる。今の音は、アルくんね。恥ずかしそうにしてる。
「はぁ、さっさと家に入りな。話は、晩ごはんを食べながら聞くよ。ブラック、悪いけどスライムの見張りを頼めるかい?」
(知ってるみたい)
「あぁ、いや、村長、ちょっと待ってください」
黒い髪の人化したスライムは、スライム神の祠のある方へ視線を向けた。
(あっ、スライム神が来ちゃった)
「遠くまで出掛けていたらしいのぅ」
「爺ちゃん、大陸に行ってきたんだ。旧王城跡に、青の王国の生き残りがいた。俺は、スライム神と話したいんだ。ジュリちゃんの考えと俺の考えは、少し違う。どちらが正しいか、聞きたいんだ!」
アルくんは、お爺さんの素性を知らないから、変なことを言ってるように聞こえる。でも、私は知らんぷりをしておかないとね。
「ふむ。アルは、ジュリとケンカでもしたのかの? 人間の揉め事には、スライムは深く関わらない決まりじゃ。村長に相談すると良いぞ」
「あ、そっか。わかった。じゃあ、爺ちゃんは、なぜ祠から出てきたんだ?」
「大陸から連れ帰ったスライムと、少し話そうと思ってのぅ。ふむ、この二体がいずれも、ダークスライムと呼ばれておったのじゃな?」
(あっ、確かに、そうね)
アルくんも、忘れていたみたい。少し、返事に時間がかかってる。
「白い髪の女の子は、クイーンホワイトの分身なんだ。ただ、人間の悪意を吸収してしまってダークスライム化していた。黒と白の髪のオジサンが、本来のダークスライムだ。浄化は効かなくて、ジュリちゃんの不思議な知識で、ダークスライムになる前の個体に戻ったけど、ブラックスライムの変異種なのに、クイーンホワイトの分身を喰ったから、黒と白のまだら模様の巨大なスライムだよ」
アルくんは、一気にしゃべった。
「ふむ、そうか。クイーンホワイトの分身は、自分で人化したわけではないようじゃの。人間の姿に固定されておる。ブラックスライムの変異種は、下手くそな人化をしているようじゃな」
「爺ちゃん、すごいな。そんなサーチができるのか」
「ワシは、すごいか? ホッホッ。アルとジュリは、晩ごはんを食べなさい。今夜は、このスライム二体は、祠で預かろう。ブラックも来るかの?」
「ブラックさん! 爺ちゃんの護衛で、居てあげてほしい」
アルくんは、黒い髪の子に、深々と頭を下げてる。たぶんアルくんにとって、お爺さんは、亡きお爺様のような存在なのね。
「じゃあ、私も祠へ行きますよ。アル、ジュリちゃん、また明日な」
お爺さん達は、祠の方へ歩いていった……けど……。
「やだっ! ぼくは、ジュリエッタといっしょがいいっ!」
(あちゃ)
私の胸元に、白い髪の小さな女の子が、飛び込んできた。目に涙を溜めて、ぎゅーっと抱きついてる。
「ジュリに懐いておるのじゃな。ワシは、話を聞きたいのじゃがな」
お爺さんは、強制するつもりはなさそうだけど、たぶんクイーンホワイトさんと話したいんだよね。
「私が見ていたので、クイーンホワイトの分身のことは説明できますよ」
「そうか? では、ブラックから話を聞くとするかな。村長、その子は、クイーンホワイトがジュリに託したようじゃ。人化した状態で固定されておるから、人間と同じように扱ってやってくれるか」
「わかったよ、爺さん。人化したスライムが女の子の姿をしているのは、初めて見たよ。クリアスライムには雄雌がいるとは聞いていたけどね」
「そうじゃな。クリアスライムは、あまり人間を好まぬから、見たことがないのも当然じゃ。では、よろしく頼むぞ」
スライム神はそう言うと、黒い髪の子とグレー髪のオジサンを連れて、祠へと離れて行った。
◇◇◇
「ジュリエッタ、ぼくも、にんげんのごはんをたべたい」
オバサンの家に入ると、漁師の何人かが食事をしていた。他の人間と関わるとまたダークスライムになると思っているのか、小さな女の子は、降ろそうとしても私の腕にしがみついてて、降りてくれない。
そういえば、クイーンホワイトさんも、空中に浮かんでたっけ。床を歩くという感覚がわからないのかも。
「ジュリちゃん、妹がいたのか?」
「人間のごはんって言ったから、スライムなんじゃないの? でも、サーチしてもスライムの反応がないな。子供のスライムは人化できないか」
(えっ? そうなの?)
私の目には、小さな頭の上に、小さな白い帽子を被っているように見えるから、スライムなんだけどな。
「この子は、大陸で預かったんだよ。明日、また連れて行くけど」
「へ? 大陸に行くのか? じゃあ、ジュリちゃんは、しばらくは戻って来ないんだな。しかし、大型船は来てないはずだけど」
「キララがすごいから、大丈夫だよ」
「まぁ、そうだな。十日くらいで戻ってくるか」
(わかってないよね)
「ジュリ、しゃべってないで、手を洗ってきな。アルはもう手を洗ってきたよ。その子の手も洗うんだよ」
「はーい、わかったの」
私が手を洗いにいってると、食堂から大きな驚きの声が聞こえてきた。私達が、半日で大陸と往復してきたことを、オバサンが話したみたい。
(キララは、すごいのよ)
晩ごはんは、ちょっと大変だった。小さな女の子は、今日、初めて人化したから、好奇心旺盛なんだけど……。
「ふわしろスライムさん、スープは、バシャンってしちゃダメだよ。パンは、こうやってちぎると……あー、どうして放り投げるかな」
(アルくんが、ママしてる)
向かいに座ったアルくんは、ずっと、小さな女の子に食事のマナーを教えてる。でも、お上品すぎるのよね。
アルくんの指示が難しいから、パンを放り投げたわけじゃないけど飛んでいったみたい。
結局、私が食べさせることになった。アルくんが食べさせようとしても、口を開けてくれないからね。
「ふわしろスライムさんは、反抗期だよね」
(あーあ、アルくんが拗ねちゃったよ)




