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109、島に入れるかを試すことにする

「ジュリちゃん、たくさん売れたな」


 漁師のお兄さんは、キララに代金を支払ってくれた。お兄さんは、赤の王国の英雄だから、お金には困ってないって言ってたけど。


「うん、ワゴンは空っぽになったね。だけど、まだまだたくさんあるの。コインケースなんて、2000個くらい押しつけられたんだから」


「黄の集落は、めちゃくちゃするよな。さすがにコインケース2000個は、俺にも厳しいぞ。1個銀貨1枚だろ? キララは、2個買ったら1個おまけに付けてくれたけどな」


「仕入れは、その半額にしてもらったけどね。2個を銀貨2枚で売っておまけを1個つけるなんて、キララは天才ね!」


 私がそう言うと、キララは、ニカッと嬉しそうに笑った。おまけとして渡せば、通常の価格を崩さないから、既存の店にも迷惑にならない。



「ジュリちゃん、大陸で、黄の集落産の財布を買うと、1個銀貨2枚はするぜ。黄の集落で作る工芸品は、スライム神の島の加護が備わっていると言われてるからな」


「そんな加護が付いてるの?」


「いや、ただの噂だよ。だが、実際に長持ちするから、大陸にある黄の王国で作られた量産品よりも、人気が高い。黄の王国は、スライム神の加護のせいだと言い張って、大陸で作る物が売れなくならないように、高値で取り引きをさせている。あっ、ジュリちゃんには、話が難しすぎたか?」


 お兄さんは、私が6〜7歳の頃の印象が強いみたい。私に前世の記憶が戻る前に、大陸に行ってしまったから、当然かも。でも、私から見ても、お兄さんは随分と見た目が変わった。島にいた頃は、お兄さんっぽい感じだったけど、今は、完全に大人だもの。


「大丈夫だよ。話はよくわかった。スライム神の加護というプレミア付きだから、倍の価格設定にしてるのね。大型船が、わざわざ島に来る理由がわかったよ。そんなに高く売れるなら、商売としても十分に成り立つよ」


「へぇ、ジュリちゃんは、まだ9歳だよな? 俺なんて、もう24歳なのに、俺より賢いんじゃないか」


(やっぱり……)


「私は前世では、18歳になる年に事故に遭って、何年も眠ってそのまま20代半ばで死んじゃったから、お兄さんと同じくらいの年かもだよ」


「あっ、そうか。前世の記憶があるということは、感覚も18歳以上なんだよな。じゃあ、話がわかるのは当然だ」


 私がそう説明すると、お兄さんは、やっと納得した顔をしてくれた。アルくんは驚いてるけど。アルくんは私より4つ年上だけど、私の感覚からすれば子供だもんね。




「ジュリエッタ、どうするの?」


 白い髪の小さな女の子が、私の腕を掴んだ。クイーンホワイトさんの分身だから、たぶんクイーンホワイトさんが尋ねているのだと思う。


「あのオジサン……黒と白のまだら模様のスライムは、人化していると、ダークスライムにはならないね」


「うん、ひとのすがただと、ダークスライムのちからは、あまりつかえないみたいだね。ぼくたちとは、ちょっとちがうから」


「スライムを喰うスライムに進化したって言ってたよね。人化した状態だと、スライムを食べられないのかな?」


「うーん? バシャッてするのが、ダークスライムのこうげきだから、ひとのすがただと、バシャッてできないから、たべられないかも」


 クイーンホワイトさんの本体は、青い髪の人間達の間をふわふわと飛び回っている。私が彼女の方に視線を向けると、私に気づいてコクリと頷いた。


 やはり、クイーンホワイトさんも、ダークスライムになる前のスライムを討つことは反対なんだと思う。人化した姿が、あんなに綺麗な目をしているオジサンなんだから、やっぱり悪いスライムじゃないよね。




「まだら模様のスライムさん、その姿を維持できますか」


 私がそう尋ねると、グレー髪のオジサンは、ビクッと怯えた表情をしている。ということは、難しいのね。


「ジュリさん、僕は、この姿になったのは初めてだから、維持できるかはわからない」


(ただの正直者だった!)


 できない、と決まったわけではないのね。


「人化したのは初めてなのね。じゃあ、その姿のまま、スライムを食べられる?」


「それは、難しいよ。包まないと喰えないが、この姿ではスライムを包む方法がわからない」


 スライム神の島にいる人化したスライムは、人の姿をしたまま触手を伸ばすことができる個体もいる。だけど、初めて人化したなら、人の姿の維持だけで必死なのかも。




「アルくん、このオジサンが島にはいれるか試してみようか。スライム神は、ダークスライムを排除するでしょ?」


「は? ジュリちゃんは、何を……」


 アルくんは、咄嗟に反論したけど、私が何を言いたいのか理解してると思う。


「ジュリちゃん、この変異種をスライム神の島に連れていくつもりか? もし弾かれたら、転移事故になるぞ」


「お兄さん、転移事故って?」


「キララを使って、転移魔法で戻るんだろ? 島に入れないモノが含まれていれば、結界に弾かれる。どこに飛ばされるか、わからないぜ」


(ひぇぇえ!)


 私は屋台ワゴンのキララの方を見てみた。すると、キララは、人の姿に変わった。



「カール、その心配はないよ。ボクは大丈夫だと思う。でも心配なら、大型船が着く小島に、このスライムだけ置いておくこともできるよ」


「そうか。俺は、小島に行く方がいいと思うぜ。小島からなら、スライムは島まで転移できるはずだ」



「じゃあ、キララ、このオジサンを連れて、島に戻ってみようか。アルくん、この個体をどうするかは、それから考えようよ」


「そうだな。島に戻れば、コイツの嘘もわかる。村長の物質スライムには、嘘はつけないからな」


 アルくんは、複雑な表情をしているけど、たぶん頭では、まだら模様のスライムが悪いスライムではないことを、理解していると思う。ただ、気持ちがついていかないだけだよね。




「あ、あの! 我々は、また何ヶ月も隠れなければいけないのですね。ジュリさんは、もっと食料があると言っていたが……」


 青い髪の男性が、必死な顔で声をかけてきた。


「心配なら、もう少し置いて行きましょうか? たぶん、明日には戻れると思いますけど」


「明日? スライム神の孤島は、高速の大型船でひと月はかかると聞いています。スライムも、小島を経由して行くと何日も……」


「キララは、すごいんですよ」



 キララは、草原にドサッと食料を出すと、気球に姿を変えた。私が乗り込むと、ネイル、アルくん、黒い髪の子の順に乗り込んだ。


「オジサンも来て」


 私は手を伸ばして、オジサンの腕を掴んだ。すると小さな手が、私の手を掴んでいた。


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