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108、アルくんの怒り

 黒と白のまだら模様のスライムは、覚悟を決めたように見える。自分達の進化が大失敗だったことを後悔し、その結果責任を、静かに受け入れるつもりだと感じた。


「まだら模様のスライムさんは、人化できるよね?」


『あ、うん。今の状態ならできるよ。ジュリさんと話していても、全くゴミを吸収してないから』


「じゃあ、人化してみて」


『わかった』



 ウネウネと大きな身体をねじると、ポンと音を立てて、姿が変わった。


(綺麗な目のオジサンだわ)


 髪は、白髪だらけの黒髪だけど、パッと見るとグレー髪ね。おとなしそうなオジサンに見える。こんな落ち着いた雰囲気の人化したスライムなんて、見たことないかも。


「発声できる?」


「あー、うん。できるよ。あれ? ガラガラな声だけど」


「見た目どおりな声だよ。オジサンだもん。人化したスライムの見た目って、もう少し若い感じだけど」


「僕は、長く生きているからかな。人化したら、老いがわかりやすくなるんだね」


「老いというほどでもないけどね。たぶん、人化していると、悪意やゴミは吸収しないんじゃないかな? こっちに来て」


 私は、まだら模様の人化したスライムに背を向け、アルくんの方へと歩いていく。彼はオドオドしながら、ついてくるけど、初めて人化したのか、歩きにくそう。




「ジュリちゃん、ダークスライムを人化させて、どうするんだよ」


「アル、ダークスライムになる前のブラックスライムの変異種だ」


 感情的になったアルくんを、漁師のお兄さんが注意した。アルくんより、お兄さんの方が長い間ダークスライムと戦ってきたから、許せない気持ちは強いと思うけど。



「アルくん、人化したオジサンを見て、どう思った?」


「ジュリちゃんは、さっきの作り話に騙されてるんだよ。ダークスライムは平気で嘘をつくし、国を滅ぼす邪悪な存在だぞ」


「確かに、アルくんのお爺様は、ダークスライムの討伐を失敗して青の王国は滅ぼされたって、あの映像でおっしゃっていたね」


「そうだよ! ダークスライムは、すべて討伐しなきゃいけない。じゃないと、大陸が……」


 アルくんは、そこで言葉を止めた。私の後ろの方を見て、目を見開いてる。


 振り返ってみると、人化したオジサンは、泣いていた。


 そして、その後ろには、青い髪の人間がゆっくりと草原に上がってくるのが見えた。


(クイーンホワイトさんの判断ね)


 草原には、次々と小屋も現れた。クイーンホワイトさんが、壊されないように隠していたみたい。



「アルくん、ダークスライムが憎いのは当然だし、恨む気持ちもわかる。だけど、誰かが断ち切らないと、永遠に憎しみの連鎖が続いてしまうと思うの」


「ジュリちゃんは、まさか、許すと言っているのか!」


「そんなことは言わないよ。許す必要はない。彼が見せた涙は、後悔の涙だと思う。ダークスライムが大陸をめちゃくちゃにしたことを、彼らに償わせるべきじゃないかな?」


「償わせる? もう、死んだ人は戻ってこないんだぞ」


「わかってる。残された人がどれだけ苦しめられているか、ダークスライムに襲われた人の無念も、計り知れない。だからって、このオジサンを殺しても、死んだ人は戻らない。彼には償ってもらおうよ」


 私は、静かに、そう話した。


 アルくんの返事はない。難しい顔をして、黙り込んでしまった。


 たぶん、私が言っていることは、綺麗ごとであり、他人ごとだ。私の親しい人が目の前でダークスライムに襲われたら、復讐しようと考えるはず。


 だけど、まだら模様のスライムは、人間を襲うダークスライムになりたかったわけじゃない。アルくんは、信じてないみたいだけど、さっきの話はすべて真実だと思う。そして、まだら模様のスライムには、すべてを受け入れる覚悟がある。だから、クイーンホワイトさんも、隠していた小屋や人間を戻し始めたんだと思う。




「ジュリエッタ、本当にありがとう」


 白い髪の女の子が、目の前に転移してきた。空中に浮かんでいるから、クイーンホワイトさんの本体ね。


「クイーンホワイトさん、まだ終わってないですよ。その前に、ちょっと商売をしようかな。キララ!」


 私と手を繋いでいたキララは、かわいい屋台ワゴンに姿を変えた。ワゴンは、さっきとは違って、いろいろな物がたくさん乗っている。水を入れた樽も大きくなってる。



 私は、コップに水を入れて、白い髪の女の子に差し出した。


「スライム神の島の地底湖の水です。まずは、これを飲んでください」


「ええっ? まぁ〜っ」


 戸惑いながらも、彼女はコップを受け取ってくれた。そして、コップに口をつけると、ゴクゴクと一気に飲み干した。


「私も飲むから、お兄さんもアルくんも飲んで。黒い子も飲む?」


 私は、次々とコップに水を入れて渡した。



「ジュリちゃん、ここの人達にも……」


「うん、いいよ。順番に受け取ってください。それと、食料を持ってきたので、必要なものは買ってくださいね」


 キララのワゴンに近寄ってきた青い髪の人達は、みんな、すっごく驚いた顔をしてる。


「あー、お金は俺達が出せるから、気にしなくていいぜ。欲しい物を持っていきな。なー? アル」


 お兄さんにそう言われて、アルくんは少し困った顔をしてる。でも、キララは出店の物質スライムだから、やっぱり私としては、タダで渡すのは違うと思う。商売しなきゃね。


 みんな遠慮がちで、一つか二つしか取らない。見たことのない食料だからかも。



「このワゴンに積んであるものは、すべてスライム神の島にある集落で、仕入れたものです。野菜は緑の集落、加工肉は赤の集落のものです。あと、黄の集落の麦粉も大量にあるんですが、パンを焼いたりしますか?」


 私がそう説明すると、キララが、台車のような物を出し、その上に、麦粉の袋をドーンと積み上げた。


「ジュリちゃん、すごい量だな」


 お兄さんも、懐かしそうに眺めてる。彼が島に居た頃は、あちこちの集落にも行っていたのだと思う。


「キララが破産しそうになるくらい、大量に押し付けられたの。戦乱のせいで大型船が来なくなったから、品物が余ってたみたい。黄の集落のコインケースもあるんだけど」


 私の話に合わせて、キララが財布も出した。確か、2000個くらい押し付けられたよね。


「黄の集落の財布か。俺も一つ買おうかな」


「売るほどあるから、たくさん買って」


 私がそう言うと、あちこちでクスッと小さな笑いが起こった。よかった、笑えるようになって。地底湖の水の回復力かな。


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