105、弱点属性のないダークスライム
泥だらけの草原に、ネイルはさらに魔法を使った。ネイルは、盾に手を付けて、発動してる。
ビュンと強い風が吹いて、私達の近くの粘着質な泥が、風に弾き飛ばされるように動いていく。
(変な動きだな)
「ジュリちゃん、これは泥じゃないよ。ダークスライムの本体だ。転がっている黒いスライムは、偽物だからね」
屋台ワゴンのキララはそう言うと、人の姿に変わって、私の手を握った。何かあれば、すぐに透過魔法を使うつもりみたい。
私達が立っている草原が汚れてないのは、キングシルバーの盾が防いでくれたんだと思う。イヤリングを通じて、キングシルバーさんが操っているのかな。
「キララ、俺は炎が使えるし、ダークスライムに触れても、多少は大丈夫だ」
漁師のお兄さんは、槍を手に持ってる。
「カールは、動かないで。アルもね。クリアスライム、ここの空気の浄化はすぐにできる?」
「ぼくたちが、ちからをあわせれば、くうきはきれいにできるよ。でも、すぐにはできないよ。じかんがかかるよ」
「そうか。ブラックは、わかってると思うけど、今、キングシルバーの結界の外に出ると、一瞬で蒸発するよ」
(蒸発?)
「あぁ、わかってる。奴らの体液が気体化したからな。結界からは出ない」
そういえば泥だらけの草原は、薄暗くて黒い霧が発生しているように見える。
「キララ、キングシルバーの盾の外は、気化したダークスライムがいるってこと?」
「うん。結界の外は、この庭園すべてがダークスライムの身体だよ。ネイルが水分を蒸発させたけど、やはりそれではダメージがないみたい。今、ネイルが必死にサーチしてるけど、弱点属性がないんだ」
「転がってる黒いスライムが、こっちを見てるよ。向こうも、サーチを使ってるの?」
「うん。ボク達が、結界から出てくるのを待っているのかもしれない」
『ジュリちゃん、今はどういう状況〜?』
(あっ、イケメンさん。今、地下庭園にいて、黒いスライムがこっちを見てて、黒い霧みたいなもので青空が見えないよ)
『完全に、ダークスライムの体内にいるんだね〜』
(うーむ。食べられたわけじゃないし、ネイルが黒い水を水蒸気に変えたから、勝ったと思ったんだけど、草原が泥だらけになってる。それが本体だって)
『ネイルに、水分を蒸発させるように言ったのは、アタシなのよ〜。でも泥が動いてるなら、ネイルの魔法を利用して、形を変えただけだね〜』
(どうすればいいの?)
『気体に変わったってことは、洞窟内の戦い方に慣れてるのね〜。だけど、大陸には居ないスライムには対抗できないわよ〜。アタシの盾をこじ開けようともしないもの〜』
(闇魔法を使えば、反転するかな?)
『たぶん効かないわよ〜。大陸にも、ブラックのような変異種はいるはずよ〜。あらら、ネイルが、すでに闇魔法は使ったみたいよ〜』
キングシルバーさんとの念話は、物質スライムには聞こえるのね。あっ、みんな聞いてるみたい。そっか、結界内のスライムには聞こえてるのね。お兄さんやアルくんも、物質スライムを経由して聞いてるみたい。少し遅れて頷いてる。
『青の国王だった彼が使えた魔法は、火水風土だよ〜。それでは倒せなかったのよ〜』
(魔法のある世界からの転生者だったから、かな? 物質スライムは持ってなかったよね)
『そうだね〜。ジュリちゃんは面白い異世界から来たから、他の魔法を知ってるんじゃない〜?』
(ん〜? 氷とか雷とか?)
『スライムが一番困るのは、何かしら〜?』
(そんなの、わかんないよ。でも、草原がすごい湿度になってるなら、早くしないとマズイよね?)
『何がマズイの〜?』
(だって、カビだらけになりそうだもん)
『カビって何〜?』
(よく知らないけど、菌類だったかな? すぐにお風呂場に黒カビが生えるから、お風呂掃除担当の私は大変だったよ。って、関係ないね。うーむ……)
「ジュリちゃん! ネイルが錬成するって言ってる」
「えっ? キララ、何を?」
「ジュリちゃんの記憶から、黒カビと、カビを殺す薬を作るって」
「そんなことできるの?」
「キングパープルの毒を構成し直すみたいだよ。キングから預かった色は、組み替えができるんだって」
「えー? でも……」
黒カビやカビ取り剤を作って、どうするんだろう? 草原で撒くなんて、言わないよね?
「ジュリさん、できました! ジュリさんが発動してください。ダークスライムを黒カビに変えて、殺します!」
(あっ……)
ネイルが私の右手を持った瞬間、赤紫色と青紫色のマニキュアが塗られてる。
「上手くいくのかなぁ? キングパープルの猛毒改・黒カビ!」
キングシルバーの盾に触れてそう叫ぶと、青紫色のマニキュアが消え、薄暗い草原に青紫色の光が飛んでいった。そしてパッと弾けると、その場所から一気に、黒い胞子がウニョ〜ッと空中に広がっていく。
(ひぇ〜、気持ち悪い)
まさかのカビ菌の大増殖に、背筋がゾゾッと冷たくなる。不気味すぎる。
しばらく待つと、草原が真っ黒に染まってしまった。でもウネウネしてて、もう助けてって叫びたくなるくらい気持ち悪い。
結界の中にいる黒い髪の人化したスライムやクイーンホワイトさんの分身たちは、不思議そうにしてるけど、無事ね。
「ジュリさん、ダークスライムは完全に黒カビと結合したようです」
「じゃあ、次だね。キングパープルの猛毒改・カビキラー!」
再び、キングシルバーの盾に触れてそう叫ぶと、今度は赤紫色のマニキュアが消えた。でも、草原は天井まで真っ黒だから、よくわからない。カビが消えるだけだったりして。
(あっ! 白い泡だ)
真っ黒な中から、白いモコモコな泡が見えてきた。白いモコモコはどんどん広がり、やがて、スーッと消えていく。
しばらく経つと、結界の外は、何もない土壌が広がっていた。
「ジュリさん! 成功です!」
冷静なネイルが珍しく、興奮気味に飛び跳ねている。
「成功したのかな? 草原も消えてるよ。結界の外は、ツーンとした臭いが残ってるかも」
「それは、ないはずです。キングパープルの毒は無臭だと思いますよ」
(あっ、そっか。魔法だった)
ネイルは、また魔法を使った。クリアスライムの毒消しかな?
「ジュリさん、違います。トップコートを使いました。キングライムの樹木の再生魔法です」
「えっ? そんな術、あったっけ?」
私が驚くと、ネイルは照れて赤くなった。また、作り替えたのかも。
茶色の土壌から草が生え始めると、あっという間に、元の草原に戻った。




