104、旧王城の地下庭園
「キララ、ここはどこ? 洞窟の近く?」
私達が到着した場所は、青い空の下だった。空気も澄んでいて、とても心地よい草原。
「ジュリちゃん、この子が居るから直接入ることができたよ。ここが、クイーンホワイトが管理している青の王国の旧王城の地下庭園だよ」
「どうしてこんなに明るいの? さっきの場所よりも、空気が美味しいよ」
「クリアスライムの能力だよ。ここにはクイーンホワイトの分身がいるはずだけど、迎撃に出てしまったのかな」
キララは、白い髪の小さな女の子に視線を向けた。この子も、クイーンホワイトさんの分身の一人だけど、ゴミを吸収しないようにと、クイーンホワイトさんが人化させたんだよね。
「ジュリエッタ、ここは、にんげんがいたよ。あぶないから、いまは、ちかしつにかくれてる。にんげんのいえも、なくなってるよ」
クイーンホワイトさんの分身の小さな女の子が、不安そうな顔をしてオロオロしてる。
「この草原に、青の王国の生き残りが住んでいたの?」
「うん、でも、にんげんのいえがなくなってる。だれもいないように、けしたんだよ」
(消した?)
「ジュリちゃん、とりあえず、地下室に行ってみないか? 俺としては、青の王国の生き残りに会っておきたい」
アルくんの気持ちはわかるけど、地下室へ行くのは、マズイ気がする。きっと、クイーンホワイトさんが守っているはずだもの。
「でも、入り口がわからないし、人間がダークスライムを連れて洞窟の中を進んでいるなら、この草原に来てしまうんだよね?」
「その前に、俺は……」
「アル、焦るな。ジュリちゃんが正しいよ。クイーンホワイトは、通路を突破されたときに、ここでダークスライムを止めるつもりだろ。アルが地下室へ行くと、入り口がバレるぞ。スライムの探知能力を舐めるなよ」
「ブラックさん、すみません」
黒い髪の人化したスライムは、アルくんに厳しい言葉を使った。たぶん、余裕がないのね。
おそらく、彼が一番、この場所に居ることが怖いはず。ダークスライムは、人間はすぐには殺さないけど、スライムは溶かすんだから。
「ブラック、おまえは小川のスライムだったよな? 俺もアルもジュリちゃんも人間だ。無理するなよ」
漁師のお兄さんは、黒い髪の子の恐怖心がわかっているのね。
「カール、俺は、特殊な個体だから大丈夫だ」
(強がってる)
「カールは、ブラックを心配してくれてるんだよ。ジュリちゃん、ネイルも呼び出して」
「うん、わかった。ネイル、出てきて」
キララの催促に応じて呼び出すと、ネイルは人の姿で現れた。もう、魔力を補充できたのかな。
「ジュリさん、オレは、腕輪に戻ればすぐに補充できます。念のために、ストックもあります!」
ネイルがドヤ顔をして、左腕を見せてくれた。
「ネイルが腕輪してる?」
「はい! これに触れると予備魔力を補充できます」
「へぇ、すごいね。ネイル、かしこい」
私が褒めると頬が赤くなるのは、いつものネイルね。
「ジュリエッタ、ほかのぶんしんが、どうしようっていってる。にんげんは、にげたのに、ダークスライムをおいていったよ。ダークスライムがつうろにいると、にわにいるにんげんが、そとにいけないよ」
「ダークスライムが通路に居座ってるの?」
「うん、にわにいたぶんしんが、ふさいでるけど、このままだと、ぶんしんもダークスライムになるから、にわに、もどれなくなるよ。ぼくと、こうたいする? っていってるけど、ぼくには、にんげんのおせわはできないよ」
(えー、どうしよう)
「ジュリちゃん、ボク達は、ここに商売に来たんだよね?」
「えっ? キララ、うん?」
キララは、なぜか、屋台のワゴンに姿を変えた。私が首を傾げていると、ネイルが口を開く。
「ジュリさん、ワゴンに売り物がありませんよ。何を出しますか。ここは、人間の小さな集落です」
「ええっ? とりあえず、サラダセット?」
私がそう言うと、ワゴンにサラダセットが現れた。だけど、お客さんは地下室だよね?
「ふわしろスライムさん、分身さんに伝えてください。人間の集落でジュリちゃんが出店したので、買い物に来てくださいと」
(ネイルは、何を言ってるの?)
「うん、わかった。みんなにいうね」
しばらくすると、身体の一部が汚れた白いスライムが転移してきた。
『ジュリエッタ、にんげんのたべものがあるの?』
「ふわしろスライムさん、人間の食べ物は、たくさんあるよ。地底湖の水もあるけど……あっ、キララ、水の樽も出して」
ワゴンに、地底湖の水が入った樽が出てきた。私は、水をコップに入れて、白いスライムに近寄っていく。
「キングホワイトさんが浄化した水なの。ちょっと、かけてみるね」
白いスライムに、コップの水をかけると、汚れたように見えた部分が、真っ白に変わった。
『わっ! すごい! まりょくも、かいふくしてるよ』
「ふわしろスライムさん、クイーンホワイトさんにも、この水を飲みに来てほしいけど、難しいかな」
『いまは、むりだよ。にんげんをまもってる。ダークスライムがうごきだすと……あっ、こっちにくる』
「どこから来るの? 通路なんて見えないよ」
(あれ? 曇った?)
突然、空が暗くなったように見えたけど、もしかして、空じゃなくて、洞窟の天井だから……。
ポトッと、黒い雨が落ちた。
「上から来た? キングシルバーの盾!」
私の手から放たれた光が、透明な盾に変わる。
ポトポトと空から黒い物が落ちてくる。透過魔法が得意なキララにも、当たった!?
「商売の邪魔をされた!」
(ええっ!?)
キララがそう叫ぶと、キララのワゴンが強い光を放った。その光は、ワゴンに落ちた黒い雨を一瞬で消し去ってる。
「ジュリさんの店の邪魔をしたな!」
(ネイルも!?)
ネイルの身体も、強い光を放ち始めた。
「なるほど、考えたな」
「お兄さん、何? どういうこと?」
「ふっ、俺の物質スライムは、敵襲のときには強度が上がるんだよ。出店の物質スライムは、商売の邪魔が敵襲に相当するらしい」
(敵襲?)
ビシャンと大きな音がした。私の周り数メール以外は、草原が真っ黒な水に覆われてる?
『出店していたのに、邪魔された! 排除する!』
ドドドドッ!
キララが念話でそう言うと同時に、ネイルが、真っ黒な水に、機関銃のような音がする術を使った。水の中にいる何かを狙って撃っているみたい。
(おお〜! すごい)
真っ黒な水は、一気に蒸気に変わり、消えていく。泥だらけの草原に、黒いスライムが数体、転がっていた。




