100、赤い丘
「あっ、私……」
アルくんに抱きかかえられていることに気づいたクイーンホワイトさんは、再び空中に浮かんだ。
「ふわしろスライムさん! 無理をしすぎだよ! 分身にチカラを与えすぎて本体が消滅したら、分身も消滅するだろ!」
アルくんが、強い言葉で彼女を叱った。
「アルフレッド、ごめんなさいね。ジュリエッタ、ありがとう。ふふっ、アルフレッドは、亡き王に似ていますね。私が意地を張っていたときに、彼にも怒鳴られたことがあったわ」
クイーンホワイトさんは、懐かしそうに目を細めていた。そして、何かに気づいたように口を開く。
「私は消滅することはないの。ただ、悪意を弾けなくなるかもしれないわね。私は、庭園に戻るわ」
クイーンホワイトさんは、スッと姿を消した。
去り際に、頑張ってなどの励ましの言葉を何も言われなかったのは、彼女に全く余裕がなかったのだと思う。信頼の証だという気もするけど。
「ジュリさん、行きましょう」
「そうだね。お兄さんも、キララの気球に乗って」
私がそう言うと、お兄さんはしっかりと頷き、キララの気球に乗り込んだ。
「アル、剣を抜いておけよ。一撃目は、アルの剣技でビビらせるぞ」
「はい、ブラックさん!」
アルくんは、鮮やかな青い剣を抜いた。鞘も綺麗だけど、剣身は、さらに鮮やかな輝きがある。
お兄さんは、その剣を見て驚いたみたい。アルくんを、山の中の集落に迎えに行ったときは、剣は抜けなかったって言ってたから、初めて見たんだよね。
「じゃあ、キララ、行くよ〜」
私がそう声をかけた瞬間、キララの転移魔法の光に包まれた。
◇◇◇
「えっ? もう着いたのか」
キララの気球は、真っ赤な丘の上空に浮かんでいる。お兄さんは驚いた顔をしていたけど、キララがすごいことを知っている私達には、そこまでの感動はなかった。
「アル! あの花畑を狙え!」
黒い髪の人化したスライムがそう言うとすぐに、アルくんは、風のような剣技を飛ばした。
私の目には、赤い血が飛び散ったように見えた。たぶん、アルくんの剣技が当たったレッドスライムが、バラバラになったのだと思うけど。
「皆さん、キララは白い石灰の平原に着地します。ジュリさん、オレとキララをすぐに腕輪と指輪に戻してください。この状態では魔力補給に時間がかかるので」
「ネイル、ちょっと待って。レッドスライムの棲み家でしょ?」
私は慌てたけど、漁師のお兄さんが大きく頷いてる。
「了解だ。ジュリちゃん、白い石灰の平原にはレッドスライムは立ち入らないぜ。スライムの墓地だからな」
「ええっ? 墓地?」
私が叫んでしまったため、腕の中で眠っているクイーンホワイトさんの分身が目を覚ましたみたい。眩しそうに目を開けて、キョロキョロしてる。
「あれ? ぼくは、あれ〜?」
不思議そうな顔をしていたけど、ぽふっと私の胸に顔を埋めて、また、スースーと眠ってしまったみたい。まだ眠いのね。
(あら?)
私の手の爪が淡く輝くと、使って無くなっていた色が戻っていた。ネイルが塗り直しをしてくれたみたい。
キララの気球は、ゆっくりと白い砂地に降りた。
「ジュリさん!」
「あ、うん。キララ、クローズ。ネイルも戻って」
私がそう言うと、気球はパッと消えた。そして、ネイルの姿も同時に消えていた。
「アル、この場所を利用するぞ」
漁師のお兄さんがそう言うと、アルくんは力強く頷いた。ここって、スライムの墓地なんだよね? 黒い髪の人化したスライムは平気な顔をしてるけど。利用するって、どういう意味なんだろう。
(わっ、集まってきた)
赤い髪の人化したスライムが、次々と転移してくる。確かに、白い砂地には入って来ないけど。
「人間が、何をしに来た!?」
(異常に怒ってる)
赤い髪のスライム達は、皆、すっごい形相だった。だけど、怒りたいのはこっちだよ!
「レッドスライム! おまえ達こそ、何をしている? 大陸は、人間の領土だ。人化するスライムが棲むことを許されてはいない!」
アルくんが、青い剣を空に掲げて、強い口調で叫んだ。その行動の意味はわからないけど、赤い髪のスライム達が、ちょっと怯んだみたい。
すると、黒い髪の子が、何かの術を使った。私達の周りに、黒い霧が出たけど、私の目線よりも低い位置だから、視界は妨げられない。
(えっ? 何?)
黒い霧の中から、黒いスライムが出てきた。ダークスライムは、スライムの形をしてないって言ってたから、ダークスライムじゃなくて、ブラックスライム?
赤い髪のスライム達は、黒いスライムを見て、ジワジワと後退している。一方で、黒いスライムは、ポヨンポヨンと跳ねて、白い砂地の外へ出て、赤い髪のスライム達に近寄っていく。
「うわぁ! や、やめろ! 青い髪、青の王国の亡霊か! そうか、赤の王国の英雄は死んだのだな? それで、報復に来たのだな」
(何を言ってるの?)
黒いスライムが近寄っていくと、赤い髪のスライム達は、黒いスライムに触れないように飛び退いてる。
「レッドスライムに告ぐ! この大陸は、人間の領土だ。人化するスライムが棲むことを認めない! 人間同士をぶつけて滅亡へ向かわせようとする行為は、断じて許されることではない!」
(アルくん、かっこいい)
『何もしていない人間を殺したな?』
『人間の子供も、たくさん殺したな。そんなことは望んでないのに、我らを利用して殺したな。我らも殺したな』
(誰の声?)
『人間を騙して、望まぬ改造をさせた。人間を騙して、人間に寄生させた。我々は踏みにじられた。レッドスライムに踏みにじられた』
恨めしそうな声が聞こえる。黒い髪の子の方を見ると、つまらなさそうな顔をしてるけど。
「幻術だ! 白い髪の子供が二人いるじゃないか!」
(えっ? 私?)
赤い髪のスライム達が、私を指差してる。そして、次々と剣を抜くと、こっちに駆け寄ってくる。
「おっ! アル、これは暴れてもいいってことだな?」
「そうですね。ブラックさん、始めましょうか」
(何を始めるの?)
アルくんがまた剣技を飛ばすと、黒い髪の子は、両手に剣を持って、楽しそうに駆け出した。
そして、黒い髪の子に従うように、黒い霧からは、一気に黒いスライムが飛び出して行った。
「俺は、ジュリちゃんの護衛かな?」
お兄さんは、大きな槍を手に持って、私のすぐ後ろに立ってる。
(ん? 起きた?)
私の腕の中の小さな女の子が、ふわぁっと可愛らしいあくびをして、目をぱちぱちしていた。
わぁい♪ 100話!
皆様、いつも読んでくださってありがとうございます。おかげさまで100話です。物語は終盤ですが、もうしばらく続きます。どうぞ、よろしくお願いします。
月曜日は、お休み。
次回は、12月16日(火)に更新予定です。




