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10、白い髪についての噂

「カール、待たせたね。ちょっといいか?」


 緑の村長さんが食堂に戻ってきて、手紙の返事をお兄さんに渡したよ。村長さんは元気がなくなってる。嫌な手紙だったのかな。


「あぁ、ジュリちゃん、俺はちょっと席を外すけど、気にせず食べていてくれ。ロックス、頼んだぞ?」


(何を頼んだの?)


「カールさん、ジュリちゃんのことは、俺がちゃんと見てますから大丈夫ですよ」



 漁師のお兄さんは、私が料理をこぼしちゃうと思ってるのかな。熱い肉汁が飛び出してきたり、うまくフォークで刺せなくて肉団子が飛んで行ったりするけど、ちゃんと拾ってるもん。


 お兄さんは、緑の村長さんと一緒に、食堂から出て行ったよ。難しいお話をするのかな。




「ジュリちゃん、ここの料理は美味しく食べれてる?」


(あちゃ……)


 炒め物の中に入っていた丸い芋が、ロックスさんの方へ飛んで行ってしまったの。


「うん。美味しいけど、難しいよ」


「あはは、フォークで刺すのは難しいだろうな。スプーンで食べるといいよ。緑の帝国では、こっちの箸という物を使って食べていたな。俺は、箸は上手く使えないから、滑るものはスプーンで飛ばないようにしてるよ」


 ロックスさんは、細い木の棒を指差したの。箸の方がフォークより刺すのは難しそう。


「ふぅん、緑の帝国の料理って不思議ね。オバサンは、こんな料理は作らないよ」


「村長さんは、黄の王国の出身だからな。黄の王国はパンが主食だから、手づかみで食べる料理が多いね」


 ロックスさんは、スプーンを壁にして上手に、つるつる滑る丸い芋にフォークを刺したよ。すごい熟練の技なの。



「ロックスさんは、いろいろな国のことを知ってるね」


「俺は、冒険者だからな。ミッションを受けて他国に行くことも多いんだ。ジュリちゃんは、生まれはどこなんだ?」


「わかんない。赤ん坊の頃に海岸で泣いてたんだって」


「そうか。でも眉は少し黄色っぽいから、黄の王国の生まれかもな」


(これは、描いてるの)


 毎日、オバサンが描いてくれるけど、それは秘密だから話せない。髪にも大きなスカーフを巻いているもの。


(あっ!)


 ロックスさんの真似をして、スプーンで壁を作って、丸い芋にフォークで刺そうとしたら、床に落ちちゃった。


 慌てて椅子から降りて拾ったら、ロックスさんが私の顔を、ジーッと見たの。スカーフが少しズレちゃったけど、たぶん髪は出てないはず。




「お嬢ちゃん、海辺の集落から来たのか?」


(ひゃっ!)


 突然、後ろから声がしたの。ロックスさんは、私じゃなくて、私の後ろを見てたみたい。


「えっと、はい」


 振り返ってみると、大人の男性が3人もいたの。


「そっちのガキとは、どういう関係だ?」


「オバサンの家で一緒に住んでるよ」


 私がそう返事をすると、3人が何か合図をしてるよ。



「お嬢ちゃんも浄化中か。スカーフで隠さなくても、緑の集落では平気だぜ? 逆に隠されると探りたくなるからな」


「でも、オバサンが……あっ!」


 誰かがスカーフを引っ張ったの。ズレていたスカーフは、スルッと外れて、取られちゃった。


(どうしよう……)


 ロックスさんの方を見ると、私の髪色を見て固まってた。ポツリと何か呟いたけど、私には聞こえなかったの。



「ロックスさん、何て言ったの?」


「えっ、あっ、いや……」


 彼は、私から目を逸らしたの。



「なんだ、そっちのガキと一緒かと思ったら、まさかの白髪じゃないか。よく、その歳まで生きていられたな」


 私に声をかけてきた人が、変なことを言ったの。


「白い髪だと、生きていられないの?」


「そりゃそうだろ。王国では、呪われた髪色だと言われてるから、赤ん坊の頃に殺される。緑の帝国では違うけどな。白い髪の子は、前世の記憶を持っていることがあるから、軍事利用できるんだ」


「えっ、呪われてるの? 私……」


(そんな……)


 食堂にいた他の人達も、何かコソコソと話してる。みんなが、こっちを見てるけど、ロックスさんは目を逸らしてる。私は呪われた子……。




「おまえら、何してるんだよ!!」


 漁師のお兄さんの声が聞こえたの。


「いや、この子が髪を隠していたからさ。そっちのガキみたいに、ダークスライムに……」


「こういうことになるから、隠してたんだろ! この子は、スライム神からギフトを与えられている。王国の噂は、デマだぜ。スライムの加護を持つ者なら、それを知っているはずだ」


「緑の帝国では、呪いなんて信じてない。白い髪の子は、稀に前世の記憶を持っているから、利用価値が高いという……」


「白い髪は、異世界からの転生者の証だ。だが、その記憶が戻るタイミングは個人差があるんだよ。死ぬまでに記憶を取り戻さないことも多いからな」


「えっ? 異世界?」


「はぁ……ったく。この子は、まだ何も知らされてないんだ。前世の記憶が戻る前に、嫌な噂のことを知ると、心がむしばまれて記憶は戻らないことが多いからな。おまえら、何をやってくれてんだよ! ここにいるスライムの加護持ちは、何をしてるんだ!」


 お兄さんは、すっごく怒ってる。


(こわい……)



「カール、少し落ち着きなさい。お嬢ちゃん、私の集落の者が、ひどいことをして悪かったね」


 緑の村長さんが、慌ててやってきたの。私にスカーフを返してくれたけど、私はひとりでスカーフを巻けない。


「緑の村長、今は、白い髪の人は居ないのですか? 緑の集落でこれなら、黄の集落や、ましてや赤の集落には連れて行けないな」


「私の妻が白い髪だったけどね。数年前に、前世の記憶を取り戻すことなく、亡くなったよ。前世の記憶が戻れば、スライム神から二つ目のギフトを授かるはずだったんだけどね」


(えっ? そうなの?)


 オバサンは、ギフトを二つもらってる。ロックスさんも、それに気づいたみたい。目を見開いてるよ。



「緑の村長、そういう暴露は止めろと、スライム達に言われたんじゃないんですか。ったく……」


 お兄さんは、大きなため息をいたの。



「ジュリちゃん、帰ろう。村長さん、山の中の集落の野菜は、ターハに言って、海辺の集落に運ばせてください」


「あ、あぁ、わかった。すまない……」


 お兄さんは、私に目配せをしたの。まさか、ここでオープンしなさいって言ってるの?


(あっ……)


 白いテーブルが出てきちゃった。



『ボクは、ジュリちゃんを守る物質スライム。緑の村長、集落の住人に、ちゃんと説明しておきなさい! ロックス、ボクに触れて!』


 私達は、海辺の集落に戻ったの。



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