連れて行かれる
私は、その家の一室で布団に横になっていた。
ただ、どれだけ時間が過ぎても眠れそうにない事はわかっていても、目を閉じて横になっていたかった。
暫くして、隣の布団で夫が寝始める。
―その数時間後
私が、なかなか寝付けず色々考え事をしていると、隣の布団で寝ていた夫が起き出す。
…トイレかしら?
暗闇でバランスを崩した夫が、足で私の頭を踏みつけた。
「ぐっ」
「あ、スマン…」
フラフラと、手探りで夫が部屋を出て行き、静かな部屋が、更に静かになった。
同時に、何かの不安が急に心を浸食し始めていく。
…私もトイレ行こうかな
体を起こそうとした瞬間、金縛りになり仰向けのまま、目を閉じることも出来なくなった。
あれ?
ゆっくりと、床を擦る足音が近づいてくる。
嫌な気配、まるで私はここにいるよ、と言っているような何かの存在がゆっくりとゆっくりと、枕元まで来て立ち止まった。
…わああああっ!
青い顔が、私を上から見下ろしていた。
…あの時の少年?
その少年から、あの時と同じ鼻水が、ツツゥと私の顔に垂れ迫る。
ワザと口元を狙っているようだ。
…避けられない!!
だが、鼻水が口にあと数ミリというところで奇跡が起きる。
屋根が吹き飛ぶのではないか、と思うくらいの凄い¨くしゃみ¨が、私から出たのだ。
べひゃぁくしょいっっ
そのくしゃみは鼻水を少年の顔へ飛び散らせただけではなく、風圧と鼻水で、少年の髪さえも逆立ててしまうほどの威力があった。
私は、その少年の姿に笑いが止まらなかった。 そして暫く笑っていると、いつの間にか金縛りはとけていた。
…君、昔のままだね。全く変わってない
「あれから、何年過ぎたのかな?」
「………」
少年は何も答えない。
ただ、こちらをジッと見ているだけだった。
「君のお墓とか、どこにあるの?」
少年は、首を横にふって少し悲しそうな顔をする。
「じゃあ、君の体は今どこにあるの?」
少年は、私の手を掴むと信じられないほどの力で引っ張り、どこかへ連れて行こうとした。
私は、暫く床の上を引きずられながらも、なんとか立ち上がり、少年に引っ張られていった。
夫は、トイレから戻る途中、玄関の戸を体当たりでブチ抜いて行く裸足の妻の姿を見ていた。
妻は他にも、柱や襖、家具家電などを破壊していったみたいだった。
夫は気になって、妻の後を追った。




