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  作者: VISIA
15/15

そして…

どこかで…


ああ、思い出した


あの遠足当日の、朝の雨


悲しい雨を

─雨が降り始めた。


 ようやく減らした池の酒が薄められ、水量が戻されていく。


 自分は、茫然と空を見上げていた。


………。


 酒を飲み続けているのは、先客のみになってしまった。上半身が池に沈み逆さになっても、飲む勢いは変わらない。


 だが彼だけでは、残りの時間で飲み干すのは無理に思えた。


…典子。…先輩。


 婆さんが、自分の前に立った。

「閉じかけていた門が、動きを止めた。あの二人は、意識を失ったまま、もうすぐそこを通り過ぎる。」

「………」


「あの世に引っ張られる前に、最後の手段を使うぞ。」

「……?」


「少し荒っぽいが、あの雨乞いの儀式を逆に利用して、この池に雷を落とす。」

「…どうなるのですか?」


「門が破壊され、二度と開かなくなる。あの二人も、ただではすまないないが、もう救う方法は他にはない。」

「……死ぬこともある、と覚悟しろと?」



「……うむ。」

「ちなみに、本当に死んだら、どうやってあの世へ逝くんですか?」


「門の正面左の受付、三番窓口…じゃなくて、時間がないから下がっていろ。」

「…はい。」


 婆さんから、六歩下がって正座し、様子をみることにした。


 婆さんは、両手を高く挙げて、何か呪文のようなものを唱え始める。


《世、始、光、地、由、雨、下、通、到、脱、絶……》


《……与、無、伝、来、令、提、荒、我、到…》《…爆雷どおおおおおおおんっ》


 婆さんが、両手を振り下ろし絶叫した時、一瞬先客を直撃したように思えた。


 自分は、その閃光と衝撃で意識が薄れてい…




───そして、



「…………た」


……?


「……な…た」


…ん…んん?


「…あ…な…た」


…誰かが呼んでいる?


「あなたっ、あなたっ、しっかりしてっ!」


………?


 自分を呼ぶ声が聞こえたが、酷く眠い感じがして、目が開けられない。

 仰向けに寝かされているらしい。体は、特に痛い所はなかった。


 少し背中が痒くて、もぞもぞしてみる。


「…よかった。」

 声の主も、少し緊張が解けた感じになったようだ。


「あなた、起きられますか?」

「…んん?」


 強引に、自分の閉じられた瞼をゆっくりと開いてみる。

 少し明るいなか、こちらの顔をのぞき込んでいる、女性がいた。


「私、わかる?大丈夫?」

「……大丈夫だよ、…典子?先輩?……え?」



「「ふふ。気がついたら私たち、一つになってたの」」

「……。」


「「あなたから見て、左側が私、右側が先輩。」」

「……。」


「「それで、私達の名前どうするかなんだけど、典子、琴実、利夫で¨のりこ¨にしました。って変わってないかあ。」」「……じゃあ、¨のりこ¨さん。利夫って誰?」



「「「ふふふ。真ん中に挟まっているじゃない?」」」

「……。」

 ¨のりこ¨さんの話によると、


「二人が一つになる時、目を輝かせた利夫が合体してきた」

と、婆さんが解説していたそうだ。


…利夫=あの少年か…


 その婆さんも、


「孫を頼む」

と、消えてしまったそうだ。


 池は水量を取り戻し、何事も無かったような、普通の風景にもどっていた。




…ただ、黒こげた先客が見える以外は。

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