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  作者: VISIA
11/15

争う

―池の底


(先輩が生きてるって、どういう事なんだ?)


 少年は首を傾げ、¨分からない¨という表情をする。


(…とにかく、早く典子の所へ行かないと!)


 少年が足を掴んで、それを拒む。


(何故だ。先輩に何か言われてるのか?)


 少年は、身振り手振りで何かを伝えようと、必死になる。


(…つまり、先輩にこき使われている、と?)


 少年は頷く。


(逆らえないんだな?)


 少年は激しく頷いた。


(だったら、自分が何とかするから、典子の所へ行かせてくれないか?)


 少年は迷っていた。


(典子と○○したいんだろ?)


 少年が真面目に頷く。

(よし、典子の所へ早く引っ張っていってくれ)

 池から這い上がると、女性の姿があった。誰か倒れているのも見える。


…立っているのは…先輩か?…じ、じゃあ…


 先輩は、暗く静かな世界の中、その白い肢体を長い黒髪で隠し、こちらを見ていた。


「フフフ。」


……!


「声、出せないでしょ?」


 先輩が、一歩近づく。


「体、動かないでしょ?」


 先輩が、更に近づく。

「私、貴方のことを思い続けて…」


 先輩が、両手を差し伸べる。


「私、生き返ったのよ。」


……!


 先輩に抱きつかれた。その体は温かく、柔らかかった。


「私が生きているの、わかる?」


 耳元で囁く声は、心まで怪しく響いた。

 気持ちが揺らぎ、体の力が抜けそうだった。


「私と二人で、この…」


 先輩がギョロリと目玉を下に向けると、足を掴んでいる手があった。


…典子!


「そう…簡単に…死なないわよ…」

「まだ、生きていたの?私達の邪魔はしないで。」


「貴女こそ、夫婦の邪魔してるじゃないの!」

「あら、私達はこれから夫婦になるのよ。アナタは関係ないわ。」


「うるさい!鴉女」

「なによ、蛙女!」


 女性二人の言い争いが始まった。毒舌や汚い言葉が次々に吐き出されていく。

 そして、お互いの罵声が次第に、高く大きく、早くなっていった。自分は、この場から逃げたかったが、体が動かない。


……。


 やがて、¨言葉¨という弾丸が尽きて、お互いの沈黙に間が持たなくなった二人の女性は、激しい格闘戦に突入した。


 相手の頬を平手で打ったり、髪を引っ張って倒したり鼻血が出る程に遠慮が感じられなかった。


 暫く、二人は上になり下になり争っていたが、お互い掴み合ったまま斜面を転がり出すと、そのまま池へ落ちていった。

 池に落ちても、二人はバシャバシャ争っているようだった。


…子供のけんか。


 二人は暫くすると、お互い力尽き、沈んでいった。


…やれやれ。

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