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坂の上から  作者:
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2話

 お盆の帰省で実家に戻ってくると、久しぶりにケンジからメッセージが届いた。


 ”もし今日時間あったら夏祭りの準備手伝って”


 そういえば夏祭りなんてあったなと思い出す。ふう、とため息が漏れる。はっきり言ってめんどうだ。

 だがかつての友人と会いたいという気持ちもあり、実に10年ぶり以上にケンジの家に向かった。


 "着いたよ"とメッセージを送ると、ガチャリとドアが開いてケンジが出てきた。


「おー久しぶり」

「久しぶりだな。成人式以来か」

「いつだっけな。まあ入って」


 久しぶりのケンジの家は変わらず、デカくて綺麗だった。居間に案内され、ソファに座るとケンジの妻のルナが冷たいお茶を持ってきてくれた。


「ひさしぶりー、ヒロくん」

「おお久しぶり。また妊娠してんの?」

「そう! ふたりめ!」


 ルナは大きくなったお腹を撫でながら笑った。

 かつての長かった茶色い髪の毛はショートカットになり、さらに後ろで小さくまとめてある。化粧はしていないようだが、それでも彼女は綺麗だった。


「次は男の子みたい」

「へえ、よかったじゃん。ケンジ、息子欲しいって言ってたもんな」

「そう、私は女だらけでも良かったんだけどねー。ほら、ヒナ、こっちおいで。ヒロおじちゃんがきたよ」

「こんにちは」

「こんにちは、ヒナちゃん」 


 ヒナちゃんは恥ずかしいのかルナの足元にしがみつき、俺と目を合わせようとはしなかった。見知らぬ大人が家にいたら怖いのだろう。そういえば俺も子どものころは大人が怖かった気がする。

「ゆっくりしていってね」とルナがキッチンに移動すると、ヒナちゃんもくっついていった。ヒナちゃんに手を振ると、俺に手を振り返してくれた。バイバイは得意らしい。


「おう、お待たせ。これさ、明日の夏祭りの資料ね」

「うん」


 ケンジが紙束を持って部屋に入ってきて、テーブルの上に置いた。表紙には「夏祭り開催資料」とポップ体で書かれている。


「明日時間あるだろ? 急で申し訳ないんだけど人手不足になっちゃったから、ヒロにはジュース屋をやってほしくて、資料に書いてあるジュースと氷水を用意してほしい。バケツは町内の倉庫から俺が持ってきたからそれ使って。ジュースのお金はレシートくれればその分お金渡すから」

「分かった。明日の17時からだから、16時くらいまでにあればいいか?」

「ジュース冷えるのにも時間かかるだろうから、なる早で」


 俺は資料をめくって自分の担当箇所を確認した。


・ジュース担当 

 バケツに氷水7割くらい。コーラ、サイダー、各10本。ラムネ、15本。各5本ずつバケツに入れておく。1本売れたらバケツに1本入れる。余った場合は終了後みんなで分ける。無くなった場合は売り切れにして良し。※常に冷えているようにすること! 選ばせたら布きんで拭くこと。ラムネを開けられなさそうな子は様子見て手伝う。

 

「これ、あらかじめ冷やしておいて、クーラーボックスに保冷材でも入れておいて渡すのはどうなの?」

「それだと祭りっぽくないじゃん」


 俺の疑問に対して、ケンジは即答した。


「こういうのは雰囲気が大事なんだ、雰囲気が。主役は子どもなんだから、俺たちは楽しちゃダメ」

「そういうもんか」


 確かにそうだなと思いつつ他のページを見ていると出し物の詳細があった。一発目はマジックショー。この文字列を見ると、過去の想い出がよみがえってくる。


「へえ、今年もマジックショーやるんだ」

「今年もやるよ。俺の兄貴がやる」

「え?」


 思わずケンジの顔を見た。ケンジの兄と言えば、俺にとっては不良のイメージだ。


「俺の親父もイイジマさんも亡くなったから、マジックできる人いなくなって、そしたら兄貴がやるってさ」

「へえ、そうなんだ……」


 俺は言葉に詰まり、しばらく沈黙した。イイジマさんとケンジのお父さんは亡くなっていたのか、という衝撃。そして意外にも、ケンジの兄はこういった地域の催しとは無縁の人に思われたが、実際のところそうではなかったらしい。ケンジによると、毎日練習していて結構上達したとのこと。

 何とは無しに次のページを見ると、弾き語りと○×クイズ大会、ビンゴ大会が予定されていた。弾き語りは例によってあの人がやるようだ。○×クイズとビンゴは記憶にないが、ケンジによれば毎年恒例らしい。そういえば俺は最後まで夏祭りに参加したことが無かったかもしれない。クイズとビンゴの景品にはお菓子詰め合わせや性能の良い文房具なんかが用意されていた。


「そういえば、シュウとリョウは来るのか?」

「ああ、お前知らないんだっけ。シュウはエリと離婚してどっか行った。リョウは去年死んだよ」

「え?」

「寝ゲロだって。しょうもねえよな」


 理解が追いつかなかった。シュウはエリと離婚? いつのまにか結婚していたのか。リョウは死んだ? 死んだ……?


「リョウ死んだの? いつ?」

「去年の冬かな。飲み過ぎだって。玄関でゲロ吐いて死んでたんだってさ。あいつ一人暮らしだったから」

「シュウは離婚ってなに? 結婚してたの?」

「ああ、大学卒業くらいで結婚してたよ。シュウが不倫して離婚した後どっかに逃げた。エリは今シンママやってて、息子とふたり暮らし」


 驚いた。ふたりとは小学校を卒業してからほとんど話していなかったが、ショックの一言だ。


「エリはたこ焼き担当だから、明日会えるよ」

「ふうん……」


 それから明日の段取りを確認したが、ケンジの言葉は全然頭に入らなかった。

 資料をもらって、家に帰ることにした。

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