異世界で登場する。馬車に乗った助けを求める令嬢の話
☆冒険者ギルド
髭もじゃの冒険者が、黒髪、黒目の男に話しかける。
「おい、新入り。エモノの横取りしたってな?クエスト中に、乱入するのは禁止だぜ。ちょっと話そうや」
すると、黒髪の男は肩にかけていた銃を取り
「はあ、冒険者ギルドのイベントですか?」
何の迷いも無く撃った。
バン!
「ギャ」
弾は男の膝を貫通し、床に、跳ね返り。ドアの側にいた女性冒険者の肩に当たった。
「キャアア」
「ちょっと、弾が当たったよ!」
「ポーションをかければ、治るだろ。お前らは、タクッ」
・・・俺は田中勇気、この世界で現代の武器を出す事が出来る。
しかし、今のところ、獲物を狩るしか出来ない。
新人イジメのイベントを軽く躱し、次のイベントは貴族令嬢を助けるか。どこか、少数民族を助けて、国をとるか。
軍事チートもののゴールって、何になるだっけ?もっと、よく読んでおけば良かった。
まあ、結局、王になるしかないな。
俺は、クエストを受け取り。森に向かう。
そろそろ、俺にぞっこんな貴族令嬢が現われても良い頃だ。
ヒヒ~~~ン
パカ、パカ、パカ、パカ
お、前から、馬車が、貴族のドレスを来たお嬢さんが来た。
貴族令嬢が、御者をしている?
「助けて下さいまし!そこの方、黒髪に黒目、もしかして、異世界から来られた方ですか?」
「ああ、そうだけど」
「実は・・・」
何だと。伯爵家が伯父夫婦に乗っ取られて、命が危ないから、祖父に助けを求めに行く?
祖父は、王国の重臣だと、
「ええ、助けて頂けたのなら、お祖父様からお礼をして頂きます。どうか。護衛をお願いします」
おお、テンプレだ。俺がしがない冒険者から、貴族に出世するイベントだ!
「勿論です。俺は、勇気です」
「私は、ビアンカ・マンチェスと申します」
「分った。俺が御者をするから、道案内をしてよ」
「分りましたわ」
そして、俺は、馬車の御者台に乗り。ビアンカさんは、隣に座った。
「あ、実は、馬車は二回くらいしか運転して無くて」
「まあ、異世界では馬車はございませんの?」
「ええ、そうです。俺は異世界出身で、始め、冒険者のクランに入ったのですが、新人だからって、いきなり馬車の御者をやれって言われたのですよ」
「まあ、勇者様なのに」
「ええ、それで、イベント、いえ、向こうが襲ってきて、やむなく、正当防衛で何人か倒してから、敬遠されて、今はソロでやっています」
「まあ、そうですの。この杖は?武器ですの?」
「ええ、銃という武器でして、さすがに、ビアンカさんにはさわらせません。危険ですから、今度使い方を教えます」
「ええ、是非、教えて下さいませ。ところで、ユウキ様・・・」
ビアンカは、勇気にしなれがかった。
勇気の肩に額をあて、泣き出す。
「グスン、グスン、お父様とお母様が馬車の事故で亡くなってから、皆、私に冷たくなって、頼りになる殿方がいなくて・・・」
「ビアンカさん。俺で良ければ頼れよ」
「ウウウウウウ、グスン、グスン」
「えっ」
ビアンカは、勇気の脇腹をさする。
「まあ、さすが、異世界の方、鎧は着ていないのですか?」
「鎧?防弾チョッキ持っているよ。だけど、それは、クエスト中だよ。普段は重いから着ていないかな。今度、完全武装の俺の姿を見せるよ」
「まあ、そうですの。凜々しいユウキ様を見たいですわ」
ビアンカが更に額を押しつけると、
勇気はバランスを崩し、膝の上に乗せていた銃が地面に落下した。
ガタン、ポロ
「ああ、銃!止めるよ。ドウドウ~ドウドウ・・・・ウグ、ギャア!血が・・・」
田中勇気の脇腹に短刀がグサッと刺さっている。
ビアンカの両手は、短刀を強く握っている。
「先程の話、聞いておりますよ。クランの新人教育で、キレて、「じゅう」で13名殺したのですよね・・」
「ウウ、銃・・銃」
「魂は、せめて、異世界にいかれますように」
ビアンカは、短刀を180度回した。
「グギャ、アアアアアーーーー」
・・・・・・
☆次の日
「お父様、伯父様、お母様、仕事終わりましたわ」
「おお、ご苦労、冒険者ギルドから感状が出ると連絡が来た。もう、何個目かな」
「申訳なかった。私の領地に異世界人が転移してくるとは・・・」
「フフフフ、さすが、軍事貴族の娘ですわ。でも、くれぐれも油断は禁物よ」
「はい、お母様」
私はビアンカ・マンチェス、不良異世界人を狩るのが仕事・・・
ユウキは、伯父上が婿で行かれた領地に出現した異世界人だ。
私がこのお役目に選ばれたのには理由がある。
「ケリー、気弱メイクをお願いしますわ」
「畏まりました」
異世界に来る殿方は、馬車に乗った令嬢には優しくなる。あの凶悪凶暴なユウキでさえもだ。
令嬢は、気弱で依存心が強い見た目が望ましい。
あちらの世界では、「チョロイン」との失礼ないい方をされているとの情報がある。
そして、不良異世界人を狩る他に、もう1つの役目もある。
「お父様、お母様、行って来ますわ」
「ああ、よろしく。気を付けてな」
「少し、休みなさい。シフトだから、急には休めないわね。今度、申請を出しておきますわ」
「はい」
行き先は、「始まりの草原」
お役目は、
草原のど真ん中の道を、馬車で通るだけですの。
人がいたら、拾うだけですわ。
草原の名は・・・
あら、御者のトムが、発見しましたわ。
「お嬢様!マルユ、います。未成年です!」
「あら、分ったわ」
マルユとは、勇者の隠語ですの。
パカパカパカ~ヒヒ~~ン
「あの~、如何しましたか?」
キョロ、キョロ、
「あの~、俺、鈴木太郎です。ここは、異世界ですか?」
「まあ、変わったお姿、ここは、フェルナンデス王国よ」
「やりー、ねえ。これ何のゲーム?」
「げーむ?」
そう、マンチェス伯爵領の「始まりの草原」では、異世界人がよく現われます。1年に一回の時もあれば、一月に3人の時もあります。
予測不可能なので、こうして、私が、馬車で見廻りをします。
気弱な見た目の令嬢が選ばれますの。
「へえ、君がちょろいん?よろ~」
あら、勝手に馬車に乗って、隣に座りましたわ。
「オホホホホホ、さあ、屋敷に行きましょう」
☆☆☆屋敷
「さあ、こちらの部屋においで下さいませ」
「おう、ビアンカ」
まあ、勝手に、婚約者扱い。困りますわね。
でも、彼とは、ここでお別れ。
二度と会うことはないでしょう。
こっそり、鑑定したら彼は結界師、
異世界人は、近年、イワシのように沸いて困っておりますの。
「さあ、こちらの部屋ですわ。私はこれで」
ガタン
部屋では、お父様、伯父様と執事が面接をしますの。
「やあ、君、座りたまえ。君は何をしたい?」
「何が出来る?」
「馬車に乗っていた時間、何かプランを考えましたか?いえ、考えて無いですよね」
「え、俺は・・」
「名前は良いよ。ここは、君のセカンドキャリアの相談をするところだよ」
「え、と俺は日本の知識はあります。あ、スマホありますよ」
「いらない。どうせ。電気が切れれば、使えなくなるのだろう?」
「え、そうだけど・・」
「時間がない。早くいいたまえ。君は何がしたい?何もなければ、冒険者だよ」
「はい。ラーメンを異世界で、再現をしたいです」
「もうあるから、ラーメン屋を紹介しよう」
☆王都ラーメン屋「セカンドハンス」
「スズキ君、よろしく」
「へ、異世界にあるの?」
「もう、一代前にあったよ。俺が異世界人から聞いて再現したんだ」
・・・・・・
異世界人多すぎて困りますわ。
たまに、おっさんも来ますが、ほとんどが未成年ですわ。
こちらで、成功する異世界人は、ほんの一握りですわ。
貴族は幼い頃から、使用人に囲まれています。
子供の頃から、マネージメントが身につきますが、
こちらの世界に来る異世界人のほとんどが、自分のことしか考えていません。
こちらの世界でも、他者を思いやれる方が、成功しますわ。
でも、そんな私は異世界の事を題材に小説を書いていますの。
『落ちこぼれ魔道師だった私が、異世界へ転生した。そこは、魔法がない世界、魔法革命を起こして、チヤホヤされて困っています!』
ビアンカは、今日も、馬車で「始まりの草原」を回っている。
それだけ、異世界人が、星の数ほど来ているからかもしれない。
最後までお読み頂き有難うございました。