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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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98/305

新階層の報告

 

 結局宝箱ごと持ち帰ることになった。

 個別に瓶を運ぶと傷ついたり割れそうなのと、宝箱は一本ずつ仕切りがあったからだ。

 外に出たら魔道具屋を呼んで、箱に魔力認証型の鍵を付けてもらうことにもなっている。

 全部捌けたら、ウチの大事な物を入れるのもいい使い方だと思う。


 ・・・大事なものが宝箱に入ってるってええやん。今のところ入れるもんないけど。頑張って魔石でいっぱいにしてもええかもな。


 魔石といえば、巨大スライムの魔石をアンリが見たことで新しいことがわかった。

 手に入れた魔石は、透明な魔石の中に火や水といった各属性の魔力が閉じ込められている物だった。

 通常複数属性の魔石は色を混ぜたものか、混ざっている途中のマーブルカラーになっている。

 中に内包されているパターンはかなり変わっているのだけど、理由としては巨大スライムをある程度分割すると、魔石も分けて大きな属性スライムを生み出すのだろうと分析された。

 魔石の中が火、水、風、土、雷、無しの6つに分られるよう亀裂が入っていたことから考えられている。

 魔石として魔力を抽出するのに問題はないため、大型の魔道具に使えるいい魔石となった。

 ちなみに、分割して検証するのは誰もやりたがらなかったので、別途依頼を出すらしい。


「それじゃあ俺たちは戻る」

「これまでの情報はこれだ。一次報告頼んだぞ」


 ワトスからガドルフに数枚の羊皮紙が渡される。

 地上に戻るのはワトスのパーティを除いたメンバーで、ワトスたちは転移魔法陣のある部屋で巨大スライムが復活するまでの期間を調べるため残る。

 魔物がスライムじゃなければ数日は狩りをして素材集めができるけど、今回は大人しくトレーニングに費やすそうだ。

 およそ10日間の苦行になるが、その分報酬と組合からの評価はいい。

 ウチは残っていた食糧を全て渡し、水袋に入るだけの水を入れてから転移魔法陣で帰還した。


「外やー!って暗い!」

「夜だからな。ひとまず今日は休んで明日の朝に情報の整理と報酬を渡すことになる」

「宝箱や液体のアレどうしたらいい?」

「そうだな……。一旦組合で預ろう。寮に置いておくよりはいいだろう。組合長にも見せる必要がある」

「わかった。とりあえず組合やね」


 小迷宮と街を区切る門を通り、組合に戻る。

 開いているお店は酒場や宿屋ぐらい、すれ違うのは酔っ払った人や巡回している兵士がほとんどで、ウチと同じような子供は見当たらない。

 いくら治安がいいとはいえ、こんな時間に子供が出歩くのは危ない。


「それじゃあ組合長に預けておく。明日の朝イチに魔道具職人を呼んでおくから、魔力認証の鍵をつけてもらおう。費用は報酬から引くがいいか?」

「うん。それでええで」

「わかった。それじゃあお疲れさん」


 宝箱を担いだハロルドを見送って、組合内の食事処でスープと焼いた肉を食べてからそれぞれの宿に戻る。

 ちなみに液体ミスリルは、宝箱の空いたスペースに入れている。

 ワインの瓶より小さい5本の瓶は、問題なく入った。


「カインとネーナは……もう寝てるか。ウチも体拭いてから寝よ」


 2人は既に寝ていた。

 お腹も膨れて程よく眠気もあったから、パパッと拭いて2段ベッドに潜り込む。

 よほど疲れていたのか、気がついたら朝だった。


「ふぁ〜……おふぁよ……」

「おはようエルちゃん。帰ってきてたんですね」

「うん。昨日の夜に。2人とも寝てた時間やね」

「そうか。これからどうするんだ?」

「報告とかあるなー。2人は?」

「俺たちはレルヒッポさんと一緒に外で狩りをする予定だ。行商をするだけあって強いし、外で活動するときの注意点とか教えてくれるんだ!」

「ええなぁ。ウチがおらんから迷宮に潜れなくてどうしてるか気になってたけど、やることあってよかったわ」


 詳しく聞くと、迷宮に潜らず街中の配達依頼を受けている時に出会ったそうで、迷宮は息が詰まると言ったら盛り上がった。

 それならとレルヒッポが外に狩りに行く手伝いや、採取をして過ごしていたそうだ。

 自分達だけでは行かないような場所にある素材や、連携について指導をしてもらったりと勉強になっているみたい。

 一通りお互いの話をしてから朝食を取って2人と分かれ、ウチは組合の中でしばらく待機する。

 少しするとガドルフたちやアンリ、ハロルドがやって来たので、合流して組合長の部屋に行く。


「組合長、ハロルドです。報告に来ました」

「入りなさい」


 ノックしてハロルドが名乗る。

 扉の先から聞こえてきたのは女性の声だった。


「おじゃましま〜す……」


 ハロルドに続いて入る時に小声で言った。

 誰も何も言わずに入ったから目立ったようで、奥にある重厚な机の向こうに座っていた鋭い目つきの神経質そうな細いお婆さんに見られた。

 歳を感じさせる白い髪は頭の後ろで団子状に纏められ、上等な組合の制服の上から綺麗な青いマントを重ねている。

 マントの留め具やブローチなど、綺麗な小物を付けていておしゃれだ。

 そんなお婆さんが座っている後ろにはカーテンで光を遮られた窓があり、周囲には書類を整理するための本棚。

 机の前にはテーブルと革張りのソファセットが置かれている。

 机の横には昨日持ち込まれた宝箱があって、縁を押さえ込むような留め具が追加されていた。


「新階層の調査お疲れ様でした。わたしがライテの請負人組合長、ベルデローナです。報告の前にまずは魔法鍵の魔力認証をします。該当者はこちらへ」

「はーい」


 ベルデローナが立ち上がって名乗り、宝箱の横まで進んでこちらに声をかけた。

 全員がウチを見たので返答しながら前に進むと、ベルデローナは少し目を見開いた後、何かに納得したように頷いている、


「なぜ見習いをと思っていましたが、あなたが固有魔法でワトスの攻撃を防いだ方なのですね。では、魔力認証をしましょう。開かないように縁を押さえているこの金具に魔力を流しなさい。前に2つ、横に1つずつの合計4つあります」

「えっと……。アンリさん、背中で?」

「背中で」

「わかった」

「なぜ背中なのですか?」


 ベルデローナの疑問にはキュークスが答えてくれるようで、ウチとアンリはその間に背中をつけて魔力認証していく。

 認証すると縁の凹みを咬むように歯のようなものが出て開かなくなる。

 もう一度魔力を流すと歯がなくなって取り外せるようになった。

 つまり、最初の時点では鍵がかかっていなかったということだ。


「問題なく動作するようですね。では、簡単に使い方の説明をします。しっかりと聞きなさい」


 ベルデローナが魔力鍵の使い方を説明してくれた。

 とはいっても難しい物ではなく、登録した魔力を流すことで開閉できる物で、登録者が死んだ場合は体内から取り出した魔石で開けることができるというものだった。

 もちろん鍵以外の部分を壊すことで中身を取り出される可能性はあるため、早めに頑丈な箱に作り替えるなどするよう勧められた。


「これで魔力鍵については終わりです。では、皆さん座りなさい。ハロルド、説明を」

「はい。まず、新階層に出現する魔物についてですが……」


 ベルデローナに促されてウチら全員がソファに座り、6人座るといっぱいになったため本人は執務机の椅子に座る。

 そして始まるハロルドの報告。

 再確認もかねているのかスライムが出てくるという報告から始まり、どのような属性を帯びていたか、階層が増えることで属性が強化されたことや、一度に複数のスライムが出てきて苦戦する可能性が高いことなどを話す。

 その後にミスリルスライム変異種が出たことと、階層主の巨大スライムについて話し、手に入れた魔法薬と液体ミスリルについてどう判断したのかも報告した。

 それに加えてワトスたちが作成したマップや報告資料も渡し、ベルデローナが確認している間、ウチらは何も話さなかった。


「なるほど。まずはハロルド、魔法薬と液体ミスリルの所有権に関する判断は間違っていません。安易に山分けしなくて正解です」

「ありがとうございます」


 ハロルドが座ったまま頭を下げる。

 それから少しの間ベルデローナが考え込む。

 暇になったウチはキョロキョロと全員の顔を見比べたり、部屋を観察するぐらいしかできない。

 それも見る場所がなくなって飽きてきた頃、ようやくベルデローナが口を開いた。


「まず、報告にあったミスリルスライムの魔石と液体ミスリル、階層主の魔石と魔法薬を見せてもらえるかしら」

「エルの嬢ちゃん。頼む」

「わかった」


 せっかく付けた魔力鍵外して宝箱を開け、中から3種類の魔法薬と液体ミスリルの入った瓶を取り出す。

 ウチが運ぶと危ないと判断したキュークスによって、ベルデローナの執務机の上に並べられる。

 その間に軽量袋から分けておいた小さな布袋を取り出して、中から階層主の魔石と白い魔石を取り出して執務机に置いた。

 普通のスライムの魔石は大きな布袋にまとめて入れてあり、変わった魔石を入れると探すのに苦労すると思って分けておいたのだ。


「なるほど。魔法薬は中級の下位。液体ミスリルは上等。階層主の魔石は大型の魔道具に使えます。白い魔石の現物を見たのは初めてですが、効果は分かっています」

「組合長はご存じなんですね。俺たちはわかりませんでした。

「伊達に長く生きていませんから。これは浄化や回復の魔石です。魔道具として魔力を引き出すか、魔力を当てて押し出して使うことで怪我の治療や呪いの浄化、アンデットの殲滅などが行えます」

「浄化に回復ですか……」


 ハロルドたちは効果を聞いて呆然としている。

 それよりウチは呪いやアンデットという言葉の方が気になっている。


 ・・・呪いはなんかこう人の恨みとかの悪い部分があかん感じになるやつやな。どうなるかは知らん。アンデットは死んだ人や動物、魔物が動くんやっけ。生き返ったわけじゃなくて死んだまま動くのは魔石が体内に残ってるからやと、カインたちが先輩から集めた話しの中にあった気がする。死体が動くなんて出会いたくないけど。腐ってたりで汚いらしいし。


「まずは液体ミスリルからだ。これは買い取れない。扱いに困るからね。次に魔法薬だが、これは組合で1本金貨2枚で3種5本までなら買い取れる。それ以上は過剰だね。次に階層主の魔石は領主に献上した方がいい。報奨金も出るし、自分の領地にある迷宮からこれが取れるとわかれば色々いい動きにつながるだろう」

「領主ですか……」

「あぁ。献上するなら渡りはわたしから付けとくよ。それで、白い魔石だが、これはしばらく持ってな。これを買い取るわけにはいかないし、領主に献上もダメだ」

「それはどうしてですか?」

「白い魔石を使うのは教会だからだ。そもそも加工できるのが教会しかないから、組合は買い取っても仕方がない。教会に近い貴族なら寄進するだろうけど、あいにくここの領主はそこまでじゃないんだ。だから、教会と何かあった時のために保険として持っておくほうがいい」

「なんで教会がでてくるん?」


 ハロルドとベルデローナの会話は難しくてよくわからないところがある。

 その中でも急に出てきた教会についてウチが知ってるのは、魔物が攻めてきて生き残ったのが人間と獣人だと言ってるのと、神話を語り聞かせてくれるところぐらいだ。


「教会は神の教えを説く場所で、さらに領主のいない街で孤児院を開いたりしている。後は教会にしかない魔道具で呪いを解いたり、大怪我を治してくれるのさ」

「その魔道具に白い魔石使うん?」

「そうだ。だから、それは必要になるまで持っておきな」

「わかった」


 教会で使う魔道具は一般では手に入らない。

 欲しければ教会の人間になって出世しなければならない。

 それは嫌だから、ベルデローナに言われた通りいざという時のために持っておくことにした。

 このやり取りの後も難しい話が続く。

 液体ミスリルは魔道具の製作に使えるから、何か作って欲しいものができるまで取っておく方がいいとか、魔法薬は手元に10本残しておけとかいろいろ言われた。

 話がひと段落したら、一息ついた後&ベルデローナが確認してくる。


「それで、階層主の魔石は領主に献上するのでいいのかい?」

「どうする?」

「あんたの物なんだ。自分で決めな。とは言ってもまだ子供だからね。助言もしよう。今後ここの迷宮でスライムを狩るなら、他の請負人と揉めた時に助けてもらえるように渡しておく方が得策さ」

「そういうもんなん?」

「そういうもんだ。目をかけてもらっていた方が守られやすいのさ」

「わかった。じゃあ渡す」


 ガドルフたちに聞いたらベルデローナから自分で決めろと言われた。

 そう言いながらも助言はしてくれているので、考えた結果今すぐ必要な物ではないから渡すことにした。

 必要であればもう一度取りに行ってもいい。

 今度はベアロが傷つかないよう対策を練ってからになるけれど。


「いい子だ。付き添いはハロルド、後もう1人だ」

「わたしが行くわ」

「なら決まりだね。日取りが決まったらハロルドを通じて連絡するから、魔法薬を買い取って解散でいいよ」


 ウチと一緒に領主に会うのは、ハロルドとキュークスになった。

 話がまとまったことを確認したベルデローナに促され、魔法薬を各5本渡してお金を受け取り、解散する。

 売った魔法薬のうちの1本は、新階層の参加者に小分けにした小瓶入りの魔法薬を配ることに使うそうだ。

 残りの4本は組合で管理して、適切に販売する。


 ・・・難しい話ばかりで疲れたわ。後でハニービーのハチミツ付けたパンでも食べよ。


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