液体ミスリルの価値と白い魔石
液体ミスリルなどの話は一旦後にして、探索を続けた。
しばらく彷徨ったけど階段は見つからず、地下32階に戻って会議が開かれた。
その内容は『液体ミスリル』をどうするか、ミスリルスライムが出る場所を自由に出入りさせていいかというものだった。
ウチには関係ないと思い、いそいそと魔石弾きの準備を進めていたらハロルドに呼ばれた。
「ウチもいるん?」
「ああ。というかエルの嬢ちゃんが話の中心みたいなもんだ」
「なんで?」
「おいおい、倒した本人を無視して進めるわけにはいかねぇよ」
「そういうもんか」
「そういうもんだ」
素材が恐ろしく高価だということはわかったけど、どれだけ希少で何に使うのかはわかっていないため興味がない。
その事に関して話すと言われても、好きにしてほしいと言いたくなる。
「まず、これの所有権だが……全てエルの嬢ちゃんのものだ」
「ん?集めたのはみんなやん。何に使えるか分からん高いものは欲しくないなぁ」
「あー……そこからか……」
ガックリとしたハロルドから、ミスリルと液体ミスリルについて説明を受けた。
ミスリルは魔力を通しやすい金属なので、武器や防具を作る際に魔石を埋め込んで効果を引き出しやすくなる。
また、魔力を込めることで強化する際に他の金属よりもはるかに硬くできるため、騎士や熟練の請負人などお金を持っていて危険と隣り合わせな人たちに人気がある。
液体ミスリルは鉱石のミスリルと同じ特性に加えて、魔力を込めると好きな形にすることができ、慣れれば操作も可能になる。
また、魔力を通しやすい液体なので、高度な魔道具を作る時の材料として非常に求められている。
それなら普通のミスリルを液体にすればいいのだけど、その手法は明らかになっておらずミスリルスライムなどのミスリルの体をした魔法生物からしか取れない。
さらに見つけづらく倒しづらいことで常に品薄状態だった。
「ウチ以外も倒せるんちゃうの?」
「俺たちは無理だ」
「ガドルフたちはあかんのか、アンリさんは?」
「無理」
「ハロルドさんは?」
「無理だな。あんな密度で刺されたら簡単に死ぬ」
「じゃあワトスさんたちは?」
「良くてパーティ半壊、装備全損で何とか倒せるかもしれない。最悪はもちろん全滅だ」
「そんなに強いんか……」
この中で倒せる可能性があるのはワトスのパーティのみ。
しかも良くての条件が悲惨だ。
固有魔法の相性が良かったからだけど、普通なら逃げる場面だったようだ。
「魔法生物の魔力でミスリルを操られるんだぞ。こっちの物理攻撃なんてほぼ効かない。魔法耐性も高い。そのくせ触手をあんなに生やして刺してくるんだ。全部防げるわけがない」
「えぇ〜。じゃあ普通はどうやって倒すん」
「ミスリルさえ砕く力を持ってして一撃だな。後は周囲を盾で囲んで触手を制限したら時間をかけて削るぐらいしか思いつかない」
「そうなんや……。でも、やっぱり価値はわからんわ」
「ふむ。ミスリルのロングソードで金貨4、5枚だ。この瓶全部で5本は作れる。それだけで金貨25枚になり、それを100倍したら大金貨25枚だな」
「金貨で言われてもわからんなぁ」
「王都で庭付きの屋敷が買えるぐらいか?」
「少なくとも田舎なら遊んで暮らせるんじゃないか」
「大金貨数枚かかる装備もあるからわからんぞ」
「俺たちはそんな金額考えたこともないからわからん」
金額が凄すぎて誰も適切な例が出せなかった。
それでもさっきよりは多少理解できたと思う。
大金だということが。
見習いなのに庭付きの屋敷や、恐ろしく高価な装備が買えるようになっても仕方ない。
実感がないのだ。
ただの銀色の液体にしか見えないし。
「みんなはいらんの?ウチがそんなん持ってたら襲われてまうやろ」
「さすがに貰えないな。協力して倒したなら別だが、エル1人で倒したからな」
「それに、ミスリルスライムの攻撃を弾くなら、襲ってくる相手の攻撃も弾くだろ」
「でも、ずっと持ってるわけにもいかんやん」
「それもそうなんだが……。組合預かりにしたら誰の口から漏れるかわからん。エルの嬢ちゃんが持つべきだと思うぞ。幸い瓶はそんなに大きくないから、荷物の下の方に入れておけばいい。お金が必要になったら売ればいいし、貴族に献上して名を売ってもいい。とりあえず俺たち全員それを受け取らないからな」
この話は終わりだとばかりにウチの前に瓶が寄せられた。
ウチも欲しくはないけど、捨てていくわけにはいかないので受け取って軽量袋の中に入れた。
鍵のかかる箱を買って入れるべきだと満場一致で決まったから、外に出たら魔道具屋で高価な保存道具を買う。
念のため、調査の一環だから組合に提出する必要があるのではないかと聞いたら、支部のお金が消し飛ぶからやめてくれと返された。
収集した素材や魔石は買い取って分配できるけど、液体ミスリルを買い取るお金はないし、売るにしても簡単に売れないのでお金を用意するまで結構な時間がかかる。
その間の警備費や各所からの問い合わせなどを考えると、ここにいる全員の秘密にして見なかった事にする方が圧倒的に良い。
・・・よく考えたら、それって全部ウチに押し付けただけやん!持つのは怖い。情報が漏れるしお金がないから買い取れない。貴族への伝手も無いから献上するのも面倒。大人はずるいなぁ!
「はぁ……。6歳のウチに押し付けるのは間違ってると思う」
「押し付けてはいない。正当な所有者が持っているだけだ」
「さよか……もう開き直るわ。ほんじゃ次はこれや。真っ白な魔石。これはなぜか素材袋に入れずにウチに渡してきたやん。なんで?」
ポケットから白い魔石を取り出して見せる。
討伐後にアンリに見せたら首を傾げられ、最終的にウチの元に戻ってきた。
魔石を入れている素材袋に入れようとしたら待ったをかけられて、ウチのポケットに入れられた。
混ざらないようにするためかと思っていたけど、ミスリルスライムの件もあって怪しく思えるのだ。
「一つは混ざらないようにするためだ」
「それはわかる」
「もう一つは効果がわからないからだな」
「なんで?アンリさんが見たんやろ?」
「わたしは魔力の量や流れは見れる。でも、効果がわかるわけじゃない」
「そうなんか……。でも、白い魔石を使った魔道具とかあるんちゃうん?」
「どこかにはあるかも知れないが、ここにいる全員知らないんだ。魔物から白い魔石が出てきたこともない。特殊個体から出てきていることから考えると、それも恐ろしく高価な物になるだろうな」
「まぁ、そうなんやろな……。ちなみに、組合に持っていったらわかるん?」
「なんとも言えんな。過去に鑑定されたものと同じ魔力なら判別できる。白い魔石が過去に鑑定されていたらわかるかもしれんが……」
「そういう仕組みやったんか」
「そうだ。良い機会だ。あまり聞かれることがないから説明しておくぞ」
組合で使っている素材鑑定用の魔道具は、各地にある同じ魔道具と繋がっていて、どこかで鑑定されたことがあるものは魔力を元に照合して判別できる。
初めて鑑定したものは素材名などを登録することで、以降判定可能になる。
新種の素材などが鑑定された場合、持ち込んだ者と受け付けた者、その支部の組合長で素材名を決める事になっている。
ただ、古くから使われている魔道具なので、詳しい仕組みは誰もわかっておらず、出どころも迷宮なので今ある数から増やすことはできないそうだ。
「とりあえず夕食食べて寝よ……。なんかどっと疲れたわ……」
「そうよね。存分にもふもふしなさいな」
「おおきに。お礼に液体ミスリルあげるわ」
「いらないわ」
慰めてくれていたキュークスも欲しくないと返してきた。
隙を見て全員にもう一度いらないのか聞いたけど、答えは変わらず全員いらないと返ってきた。
分不相応なので売るだけで厄介な事になるそうだ。
ミスリルスライムを倒せる実力があると思われるのも過度な依頼がくる可能性に繋がる。
貴族との付き合い方を知らないのに声がかかる可能性も出てくるため、気が休まらなくなる。
ウチの場合はどうするのかと聞いたら、固有魔法のおかげだと言えばいいらしい。
便利すぎる言葉だけど、固有魔法とは本来そういうものな上に、ウチの固有魔法は証明が簡単だ。
・・・でも、見ないふりは良くないと思うで。ウチは。




