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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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ジャイアントロックスネーク戦

 

「でかいし長いな」

「あの体で薙ぎ払われたら結構な衝撃なんだ。背中を壁や岩山にぶつけると呼吸も止まるし咄嗟の動けなくなる」

「それは危ないな」

「だろ?それで、固有魔法の方がどうだ?」

「問題ないで。ばっちり大丈夫や」

「そうか。なら、作戦に変更なしだ」


 ワトスに見守られながら地下30階の階層主部屋を覗く。

 遠くの方に体表が岩になったような大きな蛇がいて、舌をピロピロと出し入れしている。

 ジャイアントロックスネークの周りには、同じぐらい高い岩山がいくつもあり、体の一部が巻き付いているところもあった。

 メイズスパイダーと違って姿が見えるので、問題ないことがわかるのは作戦を考える上で助かっている。


「よし!行くぞ!」


 ワトスの号令で全員が階層主部屋に入る。

 各パーティごとに散ったけど、ウチは1人でまっすぐ進む。

 チロチロと舌を出し入れしていたジャイアントロックスネークが首を持ち上げ、周囲をキョロキョロと見回した後、ウチを捉えた。

 シャアアアと鳴いて牙を見せてくるが、大丈夫なので怖くはない。

 いや、巨大なヘビに睨まれているので多少の怖さはあるけれど、危害を加えられないならと開き直っているだけかもしれない。


「うわっ!なんか出た!」


 お互い見つめあっていると、急にジャイアントロックスネークが液体を吐き出した。

 それは見事にウチに直撃コースだった。

 真っ直ぐ飛んでくる少し黄色みがかった液体は、ウチに直撃する寸前に弾けて周りに飛び散った。

 しゅうしゅうと音をたてながら白い煙を出す液体は、迷宮の地面を溶かしているかと思いきや、ただ泡立っているだけだった。


「エル、無事?」

「問題ないで。これは?」

「溶解液。触れると溶ける。人体も武具も」

「床は溶けてへんけど……」

「壁や床は破壊不可能。岩山は壊せる」

「へー。まぁ、壁を壊しながら進まれたら迷宮からしたら溜まったもんじゃないわな」

「そう。それより、溶解液から出てきてほしい」

「はーい」


 アンリに言われて溶解液の水溜まりを進む。

 ウチが溶解液に向かって一歩踏み出すと、ウチの足が着くところから液体が避けて空間ができる。

 白い煙もあまり良くないものなのか、踏み出した足を避けるように周囲へと流れていく。

 そのままテクテクと溶解液の水たまりを進み出る。


「わたしは遊撃に戻る」

「ウチはまたジャイアントロックスネークに近づいていくな」

「お願い。ただ、溶解液の中にずっといるのは勘弁して」

「あー、ごめんやで」


 心配をかけたようだ。

 口に向かって魔法を放つ役割のアンリは、どのパーティとも行動を共にしていない。

 場合によっては伝令を行なったりもするので、ウチの動向に気をつけていたのだろう。

 そうしたら溶解液を浴びたまま動かなくなっているのを見て、確認しに来てくれたようだ。

 幸いアンリは溶解液が上げる煙によって、ジャイアントロックスネークから見えない方向から来ているので、今のところ発見されていない。

 アンリに呼ばれたウチも同じくだ。

 そして、溶解液を避けるように大回りでジャイアントロックスネークの前に出ると、驚いたのか動きが止まった。

 舌の動きまで。


「舌を出したまま固まってたら間抜けな顔やで!」

「シャアアアアアアア!!」


 ウチの言葉に反応したわけではなく、溶解液を浴びたのに生きていたから凄い威嚇をされたんだと思う。

 こちらの言葉はわからないはず……。

 少し驚いているうちにジャイアントロックスネークが溶解液を吐いてくる。

 今度はウチから歩いて突っ込み、周囲に飛び散る液体には目もくれず進む。

 何度も吐かれる溶解液と、構わず突き進むウチ。

 歩いているので距離は縮まるはずが、なぜか縮まらない。

 どうやらジャイアントロックスネークが徐々に後退しているようだ。


「作戦通りとはいえ、なんかウチがバケモンみたいやん!釈然とせぇへんわ〜」


 腹いせにバトンをブンブンと振りながら近づく。

 やがて溶解液が効かないことを認めたのか、吐くのをやめて体を縮こまらせた。

 何をするのか分からずそのまま進んでいると、いきなりジャイアントロックスネークの顔が巨大になった。

 咄嗟のことに声も出ず呆然としてしまったけど、どうやら縮んだ力を利用して一気に突進してきたようだ。

 勢いが良すぎてウチには何が起きたか分からなかったけど、大きくはね上げられた頭と割れ砕かれた岩の破片が降り注ぐことで理解できた。

 頭に突進の衝撃が全て跳ね返ったジャイアントロックスネークは、ふらふらとしながらも倒れる様子はない。


「今だ!」

「岩を剥がせ!」

「貫けるならそのままいけ!」


 散って様子を見ていた各パーティが身体強化した足で一気に集まる。

 大剣のような大きな武器を持っている人は、岩の隙間に刃を入れて剥がそうとし、細剣やナイフなどの小さめの武器を持っている人は、岩に覆われていない部分を的確に刺していく。

 打撃武器持ちは体の上を走り、砕けた部分を殴りつけたり、覆われていない腹に対して攻撃している。

 ベアロもお腹に向かって思いっきり斧を叩きつけているし、猛攻の迫力がすごい。


「シャアアアアアッ!」

「離れろ!」


 ジャイアントロックスネークもやられっぱなしではなく、勢いよく頭を横に振ってなぎ払おうとしてくる。

 警告を聞いて後ろに飛び下がる人もいれば、武器を構えて衝撃に備える人もいる。

 受けた勢いを利用して下がるようで、構えている人は全員武器が大きい。

 身体強化で下がることもできるだろうけど、堅実な方法にしたんだろう。

 その証拠に軽々と吹っ飛ばされても危なげなく着地し、攻撃のチャンスを窺っていた。


「全員もっと下がれ!毒がくるぞ!」


 ワトスの声が響くと同時、背中を見せて後退する請負人たち。

 ジャイアントロックスネークは息を吸うように仰け反り、地面に叩きつけるような首の動くと同時に紫色の煙を噴き出した。

 毒液を直接吐くのではなく、霧状にして広範囲を攻撃するブレスだった。


「なんも見えへん……」


 ウチの周りは紫一色だ。

 もちろんウチ自身には届いていないし、煙に手を差し込めばその部分は避けられる。

 毒じゃない空気がどうやって届いているのかは分からないけど、呼吸も問題なくできる。

 とりあえずジャイアントロックスネークのいた方向へ移動しようとしたら、紫の中を黒い影が迫ってきた。


「え?!なに?!なんなん?!」


 迫ってきた黒い影は人形ではなく横に長い。

 見えた距離からすると壁が迫ってきたようにも見えて焦ってしまう。

 とりあえずバトンを構えた瞬間、壁はウチに弾かれて跳ね上がる。

 その結果煙が晴れて、何が迫ってきたのかがわかった。

 それは巨大な尻尾だった。

 どうやってウチの位置を把握したのかはわからないけど、尻尾による薙ぎ払いが行われたようだ。

 横に砕けた岩も散らばっているし。


「大丈夫かー!」

「問題ないでー!ちょっとびっくりしただけやー!」


 遠くから聞こえてきたベアロの声に返事をして、どうするか考える。

 今弾いたのは尻尾なので、最初の時とは違いふらついてはいないはずだ。

 ウチの位置がバレているなら、とりあえずジャイアントロックスネークの位置を把握するため一直線に走ろうと思う。


「今度は上からか!」


 ジャイアントロックスネークが最後にいた場所に向かって駆け出すと、今度は上から天井が降ってくるように影が落ちてきた。

 先輩請負人を真似てバトンを横に持って受け止める体勢を取ったけど、ウチに衝撃はなく周りに岩が散らばるだけで終わった。

 ただ、風圧はすごかったようで、周りに漂っていた紫色の煙はほとんどなくなり、ジャイアントロックスネークの位置もわかるようになっている。


 ・・・ウチが向かってた方向におらんやん。いつの間に移動したんや。煙で見えへんかったから全然分からんわ。斥候の人や獣人なら気配とかでわかるんかなぁ〜。


 ジャイアントロックスネークはというと、近づいてくるウチに向かって毒液を吐いてきた。

 溶解液が効かないから毒液にしたんだろうけど、それも無駄に終わる。

 周囲に飛び散った毒液を踏み越え、ジャイアントロックスネークに向かうと大きく跳び下がる。


 ・・・ヘビって後ろに跳べるんやな。あの大きさで跳んだら周囲への影響凄そうや。幸い迷宮なので、跳んだ先にある岩山が一つ崩れるだけで済んだけど。


「今だ!ここで倒すぞ!」

「おぉ!」


 跳んだ先が壁際だったので、請負人たちが集結して攻撃する。

 対して押しつぶしたり薙ぎ払ったりと応戦するジャイアントロックスネークだが、さっきまでのキレがない。

 ダメージのせいかと思ったけど、どうやらウチを警戒しているようだ。

 少し近づくだけで距離を取ろうと反対側に移動するし、尻尾や頭で攻撃する時にはウチが範囲に入らないようにしている。

 毒液や溶解液を吐くのも止めるぐらいチラチラとウチに視線を向けてくる。


 ・・・残念ながらそんなに警戒してもウチから攻撃することはないで。そんなでかい体に身体強化してないバトンでダメージを与えられるわけないやん。でも、ウチが動くだけで隙ができるなら存分に使わせてもらうで!


 壁から離れているところへ向かって駆け出すと、ウチを避けてさらに壁側に追い詰められる。

 左右に動きながら徐々に追い詰めていくと、請負人たちの攻撃密度が上がり、体の岩が剥がれ落ちて刻まれる傷が増えていく。


「大きく薙ぎ払いがくるぞ!下がれ!」

「シャアアア!」


 さすがにこのままではまずいと考えたのか、ウチがいるにも関わらず体の半分近くを使って薙ぎ払いを放つジャイアントロックスネーク。

 少し距離を空けただけでは避けきれないそれは、数人の請負人を吹っ飛ばしながらウチへと迫る。

 そして、ウチに当たる寸前に固有魔法で弾かれるところまではいつも通りだけど、その後が違った。

 ウチを支点に尻尾が弧を描いて曲がったのだ。

 予想外の軌道変更に驚いた人たちは、後ろからの攻撃に何とか防御するもゴロゴロと吹っ飛ばされる。

 幸い大きな怪我は負っておらず、すぐに立ち上がったけど、心臓に良くない出来事だった。


 ・・・ウチが傷つかないだけで、影響は周りにあるから注意せんと。毒の時もそうや。みんなが近すぎたら逃げきれへんかったかもしれん。過信はよくないな。


 そんなことを考えながらも警戒を解くわけにはいかないので、ジャイアントロックスネークを見ると下半分の口が消えて、頭は何かが貫通したかのように一部が破裂していた。

 どうやら叫んだ時にベアロと大剣持ちの請負人が口を切り裂き、無防備になった口内にアンリの魔法が炸裂したらしい。

 ゆっくり倒れるジャイアントロックスネークを見て、ようやく戦いが終わったことを実感した。


 ・・・なんか色々あってドッと疲れたわ……。


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