ヘビは美味しい
地下26階からはヘビが魔物化したビッグスネークが出てくる。
普通のヒョロヒョロとしたヘビが大蛇と呼ばれるぐらいまで大きくなった魔物で頭付近に毒腺などがある。
頭を落とせば体の肉が食べられて、結構美味しいらしい。
ちなみに、大蛇が魔物化した場合は人を丸呑みできるぐらいになるそうだ。
ここの階層主がそんなサイズだと聞いているので、ちょっと見るのが楽しみではある。
食べ応えもあり、階層主だけでなくビッグスネークも素材として持ち帰ったら、屋台や食事を出しているお店の人たちが殺到するそうだ。
しっかり頭を落として毒が回っていないのが前提だけど。
「なぁなぁ。ふと思ってんけど、階層主って無視できへんの?階層主の部屋に入るところも、魔法陣がある小部屋に向かうところも扉があるわけやないし……」
「後ろからホーンボアに突っ込まれたり、スパイダーの糸に絡め取られてもいいならできるわよ。今のところそれができるのはエルぐらいじゃないかしら」
「大迷宮に嬉々として潜るような奴らもできると思うぞ。俺たちみたいに中迷宮ぐらいの実力だとアントまでか、上手くいってムカデまでだな。メイズスパイダーは無理だ」
「へぇ〜。できる人もおるんやな」
「力押しだけどな」
キュークスと話していると、普段は中迷宮に挑戦しているワトスも加わり、知っていることを話してくれた。
力押しとは強力な装備による回避や突破で、それをするぐらいなら倒した方が早い可能性もあるそうだ。
説明された結果、大迷宮に挑戦している人たちの強さがよくわからなくなった。
「これがビッグスネークか。太くて長いなぁ」
「こいつらは音を消して近づいてくるから感知しづらいのよ。そして、壁や天井を這って飛びかかり、首を絞めたり噛みついて毒を流してくるの」
「見つけづらいんか、こっわ」
通路に落ちているのは先行パーティが倒した死体だけで、今のところ遭遇していない。
索敵を慎重にしているので、先行パーティとの間もあまり空けずに移動しているのもある。
耳をすませば戦闘音がかすかに聞こえるぐらいの距離だけど、見つけてから倒すまでの時間が短いので、実際には見れていない。
そんなこんなで歩行速度を上げる都合上ベアロに背負われたまま、地下23階まで進めた。
「ここからはビッグスネークの数が一気に増える。さらに岩に隠れていたりもするから注意だ」
地下23階からは、洞窟の壁付近にウチがしゃがめば隠れることができそうな岩がところどころにある。
そこにビッグスネークが隠れていると、動いていない分発見が難しくなる。
岩の周囲を見たり、隙間に剣を突き刺すことである程度見つけることができるけど、それも十分ではない。
場合によっては天井にある小さな岩に隠れていることもあるそうで、今までよりも注意が必要だ。
そんな話をしたからか、しばらく進むと天井から何かがウチに向かって降ってきた。
「おー。落ちてきたで」
「冷静すぎるだろ!近過ぎて斧が振れない!誰か頼む!」
「任せろ!」
ウチを噛もうと降ってきたビッグスネークは、弾かれてぼとりと落ちた。
ただ、ほぼ真上からの攻撃だったため、落ちた場所はベアロの足元だ。
むしろ、一度跳ねたあと固有魔法に沿ってずるずると滑り落ちたようにも見えた。
そんなビッグスネークを倒したのは、いつでも戦えるように剣を抜いていたワトスのパーティメンバーだ。
素早く地面との間に剣を差し込むとビッグスネークを跳ね上げ、空中でスパッと頭を落とした。
こうすることで、死んだ後に毒腺から体へと毒が回らないようになる。
後続パーティは頭が落とされていたら丸ごと回収、体で切られている場合魔石だけ回収する。
ちなみに魔石は頭から少し体側にある。
「エル、せっかくだから上を見とけ。後は自然と目に入るだろうからそっちもついでにな」
「ええけど、上はともかく後はみんなでほとんど見えへんで」
「それでいいさ。曲がり角から来るやつとか、壁を這ってくるやつに気をつけとけば。注意してみる経験が大事なんだ。俺は苦手だけどな!」
ガハハと豪快に笑うベアロは、直感で敵を察知するタイプ。
このタイプは獣人に多いようだけど、普通の人にも一定数いるらしい。
ちなみにキュークスとガドルフは嗅覚と聴覚で索敵するけど、直感で察知する方が気楽らしい。
「ん?いま壁の方でなんか動いた?」
「どれどれ……おぉ、お嬢ちゃん上手く見つけれたな!パパッと倒してくるわ!」
背負われたまま天井やみんなの後ろを注意しながら見ていると、壁際で何かが動いたような気がした。
間違っていても良いので、気になったら声に出してくれと言われていたのもあって、後ろを歩く請負人に伝えた。
彼が振り返って目を凝らすとビッグスネークが壁と床のぎりぎりをゆっくりと這っているところだった。
姿をはっきり見ると大丈夫だという固有魔法の感覚があったので、見つけれたのはウチの実力かもしれない。
実際のところは、偶然赤い何かがチラッと見えたからで、正体は魔物の目だったけど。
「いいぞエル。俺の代わりに索敵する目をやしなってくれ!」
「頑張るわ!」
ベアロは努力するつもりがないようだ。
それからも色々視線を彷徨わせていたけど、途中からワトスのパーティメンバーが変なポーズを取ったり、キュークスが棍を立ててその上で逆立ちのようなポーズを取ったりと、ウチの集中を乱すことをし始めた。
臨機応変に対応できるようにとか言われたけど、ウチをからかって遊んでるだけなのは明らかだ。
緊張しっぱなしの空気が程よく和んだし、ウチも身体能力の高さから繰り出される謎な動きを楽しんだからええけど。
「ようやく25階だ。ここの階層主を超えたら新階層のスライムフロアだぞ」
「魔石……」
「スライムを魔石って言うのは可哀想やろ……」
アンリの呟きに思わず言ってしまった。
そんなアンリを放置して、ワトスがあらためて説明する地下25階の階層主の話を聞いた。
階層主はジャイアントロックスネークで、体表が岩みたいにゴツゴツしている。
実際に岩じゃなくて岩みたいになった鱗なのがポイントらしい。
魔力を通すことで岩みたいに硬く隆起する性質があり、同じサイズの岩と比べると軽いので盾に使われる。
防具に使わないのか聞いたところ、隆起することで動きを阻害する可能性があるから、使うとしても慎重に場所を選ばないといけないそうだ。
その点盾なら正面に対して隆起するので、硬い壁としてしっかり守れる。
体長は馬が引く馬車10台分ほどで、大人を丸呑みできるぐらい太い。
攻撃方法は牙の生えた口による噛みつき、頭を持ち上げて叩きつける振り下ろし、頭や尻尾を横に振る薙ぎ払い、毒液と溶解液の噴射がある。
もちろん壁や天井を這い回るし、部屋には大小さまざまな岩があるので、飛び出してくるのにも注意が必要だ。
「作戦は前回と同じだ。誰かが足止めしたところに集中攻撃。もしも口を開けることができたらアンリの魔法で体内を攻撃」
「ウチは?」
「あー……攻撃を受けないなら壁役か?いや、誰かが背負うべきか?」
「相手の大きさと速さ的に背負っても対処しづらいんじゃねぇか?」
「攻撃を受けないなら足止め要員としてジャイアントロックスネークを追い詰められるかもしれないわよ」
「そうなのか?」
「えぇ」
悩むワトスに対してベアロとキュークスが話しかける。
そして、キュークスの提案はこうだ。
ウチに対して害のある行動をしようとすると弾かれる特性を利用して魔物に近づき、攻撃を弾きながらどんどん壁際や人がいるところへ追い込む。
追い込んだら後ろや横から他のみんなが一斉に攻撃し、暴れ出しそうならウチを壁にして退避する。
普通に考えると見習いのウチを壁にするなんて、とても了承されそうにない作戦だけど、全員固有魔法の力を見ているので問題なく了承される。
使えるものを使わずに苦戦するより、多少パッと見た感じが悪くても効率良くするべきだといろんな人から言われた。
・・・ウチを壁にすることが見た目に悪い時間はあるんやな。まぁ、6歳のウチを大きな蛇の前に出すんやから、生贄にしか見えへんわな。




