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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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しぶといムカデ

 

 キュークスに抱きしめられて寝た翌朝、アンリが作るスープの匂いで起きた。

 迷宮の中なので正確な時間はわからないけど、お腹の空き具合からして、いつもと変わらない時間ぐらいに起きれていると思う。

 ウチが起きたことでキュークスも体を起こし、軽く身支度を整えてから挨拶を交わし、顔を洗うためにウチから水を採る(最初の休憩シーンでにこの漢字を使用)。

 寝ている間は流石に水を採れないので、寝る前にある程度の量を採取していたのだけど、どうやらたりたようだ。

 だけど、貯めていた水を飲んだ人たちは首を傾げている。


「どしたん?」

「時間経過で普通の水になっている」

「はー。じゃあ美味しい水としては売れへんな」


 世の中思い通りにいかないものだ。

 朝食を取って移動の準備をしている間に検証した結果、それだけでは普通の水にならなかったけど、アンリが見た感じでは少し変化し始めていたそうだ。


 ・・・検証は外に出てからやな。料理に使えるならひとまず問題ないか。


「おー、何もない」

「迷宮に吸収された」

「証拠隠滅に使われそうやなぁ」


 ・・・人とか、事件の証拠とかそういうやつ。


「その通りよ。防ぐ手段は相手より強くなること、自分から恨みを買うようなことをしない。怪しい場所には近づかない。信頼できる人と行動を共にするとかね」

「やっぱあるんやな証拠隠滅」

「えぇ。ただ、人を捨てた場合高確率でアンデットになるから、何かしらの証拠は得られるし、毒殺した物を捨てた場合は呪われた品として宝箱に入ってるらしいわ」

「こっわ」


 昨日の燃やした後が綺麗さっぱりと消えていることからこんな話になるとは思っていなかった。

 思わず身震いしているうちに、地下16階へと足を踏み入れる。

 ここからはムカデの魔物が出てくる。

 名前は洞窟ムカデで、普通のムカデがそのまま大きくなった魔物。

 大きくなった分体力が増えて、節を両断した程度では死なない。

 初めて戦う請負人が、真っ二つにしたからと気を抜いていると、まだ動く方に噛まれて麻痺してそのまま……なんてことが起きるそうだ。


「あー、エル。この先の魔物は見た目がダメな奴が多いらしい。男も女もだ。無理なら無理でいいから悲鳴だけは上げるな。出そうになったら口を押さえてくれ」

「わかった。でも、ムカデやろ?多分大丈夫やと思うねんけど……」

「デカくなるとキツイんだ……」


 教えてくれたガドルフも無理らしく、あまり戦いたくはなさそうだ。

 ベアロとキュークス、アンリは問題なさそうで、それぞれ武器の調子を確かめている。

 ワトスのパーティにも嫌そうな表情をしている人もいるし、先行パーティもそうだ。

 後ろからくるパーティの人たちは楽しそうに笑っているので、全員大丈夫なんだろう。

 ウチは、たぶん大丈夫。

 牙がギチギチ腕がワサワサだろうけど、悲鳴を上げるほどではないと思う。


「これが洞窟ムカデかー。確かに気持ち悪いなぁ」

「だろ?これが素早くカサカサとやってくるし、壁や天井を這うんだ。ゾッとする……」


 地下16階からウチの護衛はガドルフになった。

 そして、少し進むと先行パーティが倒した洞窟ムカデの死体があったんだけど、想像以上に大きい。

 太さはウチぐらいあって、長さは縦にも横にも大きなベアロに巻き付いても余るぐらいだ。

 幸い一度に現れる数は多くて4、5匹らしいので、1人1匹を担当すればそう苦戦することはない。


「お、横からくるぞ!」

「わたしが吹っ飛ばすからベアロトドメ!」

「おうよ!」


 曲がり角から壁を這って出てきた洞窟ムカデを、キュークスが棍に引っ掛けてこちらに飛ばす。

 ガドルフがピクリとしている間に、ベアロが斧を振り下ろして頭から節2つめまでを縦に切る。

 流石に頭を真っ二つにされると息耐えるようで、ピクピクと痙攣した後動かなくなった。

 魔石は頭部にあるらしいけど、魔石まで真っ二つになってないか少し心配だ。


「ここの階層主は連結ムカデ」

「れんけつ?」

「複数の大きなムカデがつながっている」

「よくわからん。アントの時みたいに複数おるってこと?」

「そう」


 死体は後続に任せて放置して先に進む。

 進みながらアンリから階層主について聞いた。

 その結果、連結ムカデ自体は横に長く節が5、6個ぐらいしかない短いムカデだけど、それが複数繋がってとても長いムカデになる。

 複数が繋がっているから、切っても後ろが分離して動くし、攻撃を分離して避けることもある。

 横幅が大人4人分以上あるので突進の威力も高く、鋭い足は革鎧なんかだと簡単に貫かれるそうだ。

 復活ペースは7日、素材は甲殻と痺れ毒、肉は食べれなくはないけどパサパサとしていて美味しくないらしい。


「燃えるムカデが火を吹いたり、風を起こして空中を飛んだり、岩を纏って硬くなったり、水を吹いて奇抜な動きをしたり、なんというか動きが気色悪いな!」

「笑いながら言っても説得力ないぞ……」


 ガドルフに呆れられた。

 ウチを傷つけられないので、変わったものを見て楽しんでいるだけだ。

 本当に嫌なわけではない。

 そんな風に道中を楽しんでいると、問題なく階層主の階である地下20階にたどり着いた。

 今回は余裕のある後続パーティだけで倒すことになっている。

 分離するとはいえアントほど多くないので、2パーティいれば十分なのだ。


「分離するのって側から見てると厄介やな〜」

「実際に戦うと分かっていても驚くぞ。こっちは当たると思って振ってるからな」


 ウチから採れた水を飲みながら階層主部屋を眺める。

 広さはクイーンアントぐらいだけど、所々に岩山があってムカデの動きを立体的にさせている。

 岩山の裏に回ったと思ったら、分離して片方は上から、もう片方はぐるりと回って逆側から襲ってくる。

 誰かが指示を出しているんじゃないかと思うぐらい連携が取れていて、請負人側を翻弄している。

 だけど、苦戦するほどではなく分離で空振りすることもあるけど、着々と連結ムカデの数を減らしていく。

 多少受け損なって傷ついているようだけど、噛まれて痺れている人はいない。


「終わったっぽい?」

「そのようだ。おーい!終わったから搬出を手伝うぞ!」


 中の戦闘が終わり、ムカデたちを足で突いたりして動かないことを確認していた。

 その間にガドルフが残りの人員を呼び、ムカデを広場に移動させてから解体を始める。

 戦闘した人にはウチの水を渡して休憩してもらう。

 この後1パーティは今までの素材を持って帰還することになっているのだ。


「じゃあまた地上で」

「はい!素材は全部鑑定してもらいます!」


 後衛パーティの1つが、ウチの軽量袋から移し替えた素材を持ち、転移魔法陣を使って地上に戻った。

 素材の売却額は全員で頭割りとなり、素材が欲しければ買取額を払えばもらうことができる。

 翌日には買取額+ギルドの管理費などの費用になるので、欲しい場合は今のうちに伝えておく必要があるのだが、今回は特に声が上がらなかったので全て売却する。

 結構な数の魔石が手に入ったけど、アンリが求めているのはスライムの魔石なのでここまでで手に入れた物には興味がない。


 ・・・スライムエリアに入ったらどうなるんやろか。スライム探して彷徨うことになりそうやなぁ。


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