装備品ウチ
パーティを組んだらウチを先頭にして戦ってみたいと言ったところ、試してみることになった。
固有魔法所持者は珍しいので、組んだ時にどんなことになるか体験したいそうだ。
その結果、ウチは30体を超えるアントが迫ってくる最前線にいる。
地下14階は一度に出てくるアントの数が一気に増える場所なので、簡単に終わる戦闘ではなくなり、進行速度が落ちて戦闘回数が増えているためだ。
「行くでぇ!」
「おう!」
「攻撃は任せろ!」
「上手く牽制してくれよ!」
「自信はない!」
初めてなのだから。
そんな想いを胸にアントの群れに向かって走る。
ウチは道の真ん中を突き進み、群れを二手に分断するのが役目だ。
ガドルフたちはウチを挟むように布陣し、ウチを支点に分かれたアントをそれぞれ倒す。
通常なら乱戦になる数だけど、ウチが分断することで2つの出口になるので、順番に処理するだけだ。
「こりゃ戦いやすいな!」
ベアロが斧を振り回してアントを蹴散らしながら叫ぶ。
地下14階の戦闘では、攻撃後の隙を突かれて怪我をする可能性があると説明を受けている。
1人で3体以上を同時に相手しなければならないほどの数でやってくるからだ。
でも、今は1人1体か2体で、これなら地下13階までと変わらない。
ウチの目の前には攻撃しようとしてくるアントが2体に、通り抜けようとしているところをバトンで牽制しているのが2体、さらに奥にうじゃうじゃいる。
「よし!エルもう良いぞ!」
「了解や!」
目の前のアントの数がだいぶ減った時にかけられたガドルフの指示で、一気に後ろへ下がる。
ウチに攻撃できないせいで威嚇するだけの2体は呆気に取られて動かず、バトンで押し留めていた2体はバランスを崩していた。
その隙を逃すガドルフたちではないので、素早く近づいて斧と剣で切り裂いて倒し、そのまま残り少なくなったアントを倒していく。
そんな戦いを繰り返すこと3回。
ベアロから声が上がった。
「なぁエル。お前の背中近くにいたらアントに攻撃されても弾かれたんだが、どういうことだ?」
「ん?んー……あ!あれやあれ!あの……えっと、あれや!」
「あれじゃわからんぞ」
「アンリさん!馬車!馬車を守った件あるやん!あれの説明して!」
「わかった。エルの魔力は背中から出てる。背中を馬車に付けたら馬車も固有魔法の効果範囲になった。ただ、効果は落ちる」
「なるほどな。ほとんどエルの後ろにいたから魔法の効果範囲に入ったわけか」
「ここなら範囲内」
そう言ったアンリの位置は、ウチの背後パン1個分も空いていない。
その位置ならウチから出てる魔力がアンリに影響しているのが見えているのだろう。
「確かにそれぐらいの距離にはいたな。じゃあ、エルを背負って戦えば楽に戦闘できるのか?」
「おそらく。ただ、エルが振り回される」
「しっかり結べば大丈夫だろ。なぁ、やってみないか?自分にできることは把握しておいたほうがいいぞ?」
「うーん……興味はある。とりあえずやってみよか!」
軽量袋をアンリに預ける。
ウチはベアロと背中合わせになり、ロープでしっかりと固定する。
強く結ぼうとしたら、それ以上締められないようになったので、ある意味しっかりと固定されている。
しかも、抜け出そうとすればスルッと抜けれるよくわからない感じだ。
「どうだ?」
「しっかり効果が出てる」
「よし!アントで試すぞ」
アンリのお墨付きをもらったベアロを先頭に進む。
ウチは後ろを向いているので、残りの人たちの動きを見ながら後ろに進んでいることになる。
「色々試すのは良いことだ」
「ワトスさん。せやんな。いざって時に知ってると違うやろうし」
「そうだな。ただし、気をつけるんだぞ」
「はーい」
メインパーティはワトスさんのパーティなので、実はずっと一緒に移動している。
しかし、それぞれのパーティで固まっていたのであまり話していないのだ。
キュークスの要望通り経費を払ってくれたことに対してお礼は言ったけど、仲が悪くなってないか気になっている。
休憩時に軽口を叩き合っていたので問題ないだろうけど。
「アントだ!」
「俺が先に行くぜ!」
ガドルフの発見報告に対して、ベアロが先行。
曲がり角の先からアントが現れ、脳天に斧が落ちる。
いつもなら後ろに下がって次の攻撃に備えるけど、今回はそのまま突撃する。
アントの攻撃を無視して斧を振るうベアロ。
周囲を囲まれているので横や後ろから、手や岩でできた剣で攻撃されている。
だけど、そのどれもが弾かれて隙を作り、暴風のように振り回される斧の餌食となった。
「ははは!こいつは凄い!おらおらおらぁ!」
飛び散るアントだったもの。
笑いながら斧を振り回す熊の獣人のベアロ。
その背中に縛り付けられているウチ。
見様によっては熊に囚われたウチをアリのへいたいが助けに来ているようにも見えなくもない。
いや、やはり見えない。
「ふぅ。楽しかったぜ!クイーンに通用するかも試してみたいな。上手くいけば簡単に倒せるぜ」
「そのためにはエルがクイーンの攻撃を弾ける必要があるわ。あんたはどうとでもなるから好きにしなさい」
「おぅ。まずはクイーンを見せて、その後防御しながら弾けるか判断するわ」
キュークスはウチの安全が大事だときっぱり言い切った。
むしろベアロに対しては、これくらいの相手にやられないわよねと言うような目線で訴えかけているように見える。
結果としてこのまま進み、ウチがクイーンアントを見て大丈夫か判断。
問題なければ防御しながらベアロが近づき、攻撃を防いでみて弾けるか確認するということになった。
なったけど、一つ誤算があった。
それは……。
「俺もエルを装備したい」
「できれば俺も」
ガドルフとワトスがウチを背負いたいと言い出したことだ。
ベアロの暴れ具合を見て、同じように相手の攻撃を気にせず戦ってみたくなったらしい。
弱いとはいえ攻撃されたら傷はつく、金属鎧で守っていれば衝撃だけだが、それでも面倒なのには変わりはない。
それを気にせず戦えるのはよほど魅力的なことになるそうだ。
ちなみに残りの人たちは機会があればやってみたいけど、今は遠慮するというものだった。
アンリはそもそもやるつもりはないけど、キュークスもやりたがったのは意外だ。
「凄いが、慣れが必要だな。それに、これに慣れたらエルがいない時に怪我をしそうだ」
「確かにそうだな。突っ込む戦い方をする奴には合うかもしれないが、居なくなった時に戻れるかどうかだ」
ガドルフとワトスの評価は微妙なところに落ち着いた。
2人とも効果は凄いと認めてくれているのだけど、これに慣れたら元の戦い方を忘れてしまいそうで、あまり積極的に使いたくないとのこと。
ベアロのような突撃する戦い方の人か、盾で複数の魔物と相対する人なら活かせるかもしれないけれど、普段はやめておいたほうがいいという結論になった。
使い所としては、怪我をして動けない人を背負い、その上にウチを乗せて運ぶ方法だ。
他には効果が発揮されるとしたら、状態異常が起きやすい魔物の生息域を抜ける時に背負うなどだ。
「上手くいかんもんやな〜」
「ずっと効果が続くならいいんだけどな!」
自分に合ってるなら問題なしとばかりに笑顔なベアロ。
ウチにとっても色々わかったので、いい経験になった。
まず、動き回るガドルフの背中にいても、軽い振動はあったけど気分が悪くなるようなことはなかった。
ワトスはガドルフのような動きに加えて、2本の剣で回転しながら切ることもあった。
それでも目は回らなかったので、恐らく固有魔法がいい感じにしてくれているのだと思う。
本当に便利だ。




