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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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82/305

給水器ウチ

 

 休養日を挟んで2日後、調査隊は朝食後に迷宮入り口に集合した。

 ガドルフのパーティ、ワトスのパーティ、アンリとハロルド、ライテの地元パーティ2つ、ウアームからの護衛パーティ2つの大所帯だ。


「問題ないな。出発!」

「エル!無茶すんなよ!」

「エルちゃん無事に帰ってきてください!」

「了解や!そっち気をつけてな!」


 ワトスの合図で迷宮へと進む。

 それを見送りにきた請負人の中にカインとネーナがいる。

 2人の声に応えるようにブンブンと手を振り、中に入った瞬間、ベアロに持ち上げられる。

 ウチの足に合わせたら移動速度が落ちてしまうため、体力のある獣人がウチを運ぶことになっているのだ。


「ベアロ、よろしゅう」

「おう。任せろ。休憩の時に美味しい水を頼むぜ!」

「そっちは任せとき!」


 昨日の休養日に色々と打ち合わせがあり、その中でいくつかウチに役割が与えられている。

 まずは給水係。

 ウチの背中に水生み関連の魔石を付けて、綺麗で美味しい水を生み出す。

 次に大物への囮係。

 階層主などの大物に対して問題ないと判断できれば、ウチが挑発をして攻撃を受ける。

 固有魔法で跳ね返って隙だらけになったところを、残りのメンバーでボコボコにするという効率重視の戦い方だ。

 最後に運搬係。

 軽量袋を持っているのはウチだけなので、貴重なアイテムが出た場合はウチが運ぶことになった。

 さすがに道中全ての素材を取る余裕はないため、その日の食事に使える肉と、あまり納品されない素材、希少な素材が対象になる。

 軽量袋が満パンになったとしてもウチが持てるので、ウチごと持つベアロの負担は小さい。

 ちなみに軽量袋の仕組みを今回知った。

 風の魔石で袋自体を浮かせて重さを軽減しているそうだ。


「お、お嬢ちゃんじゃないか。頑張れよ!」

「今日もホーンボアなんやなおっちゃん!気をつけてな!」

「そっちこそな!」


 地下5階の階層主部屋では、いつものおっちゃん達がホーンボアを倒したところだった。

 その横を通りながら声をかけられたので返事をして、運ばれるまま初めての地下6階へ。

 地下6階からはビッグバットと呼ばれるウチよりも大きなコウモリの魔物が出てくる。

 そして、地下7階からはビッグバットが属性を帯びて魔法を放つようになり、地下10階の階層主はジャイアントバットで大人数人分の巨大なコウモリが出てくる。

 地下11〜15がアリ、16〜20がムカデ、21〜25が蜘蛛、26〜30が蛇という風に5階毎に出る魔物が変わる作りになる。


 ・・・同時に色んな種類の魔物と戦わんでええのは楽やな。アリは酸で溶かしてくるし、ムカデは麻痺で痺れさせてくる。蜘蛛は糸で動きを封じた上に毒を流し込んでくるらしいし、ヘビも酸と毒を出すやろ。それに加えて火を吹いたり風で勢いを増して飛び込んできたりするんや。そんなんが入り乱れて襲ってきたらひとたまりもないわ。


「どうした?トイレか?」

「ちゃうわ!ちょっと緊張しただけや!」

「エルでも緊張するのか……」


 この先を想像してぶるりと震えてしまった。

 腕の上で震えたのでベアロからからかわれる結果になったけれど、ウチだって緊張はする。

 初めて会う人や、初めて行く場所、怖いと言われている場所や、強い魔物のいる場所など色々だ。


「よし!この先で一旦休憩だ!」


 ワトスが合図を出したのは地下10階に降りる階段前。

 つまり、今は地下9階で休憩は地下10階にある階層主前の広場でとるということだ。

 ここまで来る間、ウチがいるメインパーティは移動のみで戦闘なし。

 前を先行しているパーティが倒した魔物の死体を見るだけで終わっている。

 ウチより大きいジャイアントバットは、上手くすればうちを包み込めそうだった。


「これが成果だ」

「食いやすい肉はリトルボアだけ。魔石は全部取ってきた」


 広場に集到着したのでマントの上に座り休憩していると、後方の警戒を担当するパーティが布袋片手にやってきた。

 片方には食事用の肉、もう片方には道中の魔物から取り出した魔石が入っている。

 先行する2つのパーティが通り道の魔物を倒し、メインパーティとその護衛パーティが戦闘なしで進み、後続の後方警戒パーティが魔石を抜き取ったり素材を剥いだりしながら追いかけてくる。

 前後だけの警戒なので分かれ道の横から出てくることもあるだろう。

 それを想定してのメインパーティの護衛としてガドルフたちがいるのだけど、今のところ出番はない。


「嬢ちゃん開けるぞ」

「ええで」

「よし、肉入れた。……魔石も入れたから取り外すぞ」

「よろしゅ〜」


 荷物を入れた軽量袋を下ろされた。

 これでウチの背中は丸見えである。

 つまり、役割の一つを果たす時がきたのだ。


「エルの美味しい水はここやで〜」


 ウチの言葉を皮切りに、各自の水生み魔道具を持った請負人たちが一列に並んだ。

 痛くならないよう軽く付けてもらい、水が貯まったら元の場所に戻る。

 それを繰り返して全員が水を手にしたら、予定通り進んでいることを祝して乾杯だ。


「うっま!」

「なんだこれ?!」

「この水で作ったワインが飲みたい……」

「わたしはお茶でいいわ……」

「おかわり!」

「はいよ〜」


 と言っても背中に当ててもらうだけなのdw、ウチがすることはないのだが。

 それよりも一部の人が良いこと言ってくれた。

 この水を使った酒やお茶を飲みたいそうだ。

 これは新しい商品のチャンスではないだろうか。

 どうやって売るのかわからないけど、覚えておいて損はないだろう。


「いつもの干し肉だが、美味い水と一緒に食うと違うな」

「違いない。なんというか、毎回口と喉が洗われて新鮮な感じになるよな」

「こりゃあ夕食が楽しみだ」


 朝は街で食べ、昼は今の生干し肉と水とパン。

 夕食は調理の時間をとってスープを作る。

 その時の水はウチから採れる水を使うのだ。

 ウチも今から楽しみになってきた。


 ・・・おっと、涎が……。


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