表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/305

迷宮への誘い

 

 レルヒッポとの食事から5日経った。

 毎日迷宮の地下4階で狩りをする生活かと思いきや、3日目にしてカインとネーナが音を上げたので、その日からは荷運びと清掃の仕事もした。

 どうやら毎日同じような場所に行き、体躯の大小あれど同じような魔物ばかり相手にするのが嫌になったそうだ。

 日中は陽の光を浴びながら伸び伸びと戦いたいとカインが言っていた。

 ネーナは薄暗いところに居続けるのと、狭い通路で息が詰まるらしい。


 ・・・ウチは特に気にならんけどな。何もせずじっとするのは眠くなるから嫌やけど、外か迷宮の中を歩いたりできれば十分やわ。あ、昼寝は別な。休日の昼寝は最高や。甘いものがあれば天井知らずになる。


 そんな事を考えながら古びた家具をピカピカにして組合に帰ると、いつもの倍以上の人たちで賑わっていた。

 聞こえてくる内容から察するに、新階層の調査に向かった集団が帰ってきたようだ。

 ということは。


「エル、新階層に行こう」


 ・・・ほらな。帰ってきたら言うと思ったわ。ハロルドなんて止めようとした手を額に持っていって「あちゃー」って言いそうなポーズになってるやん。こんな人混みの中で見習いを新階層に連れて行こうとしたら正義感のある人が……。


「おいおいアンリ!子供を連れて行く場所じゃないだろ!何考えてんだ!」

「エルなら大丈夫」

「そんなはずないだろうが!見ろ!この小ささを!道中のスライムより小さいだろ!飲み込まれたら終わりぐらいの小ささだ!こんな小さな子を新階層に連れて行くわけにはいかない!」


 小さいと言うたびにウチを指差す割り込んできた男の人。

 急所を守りつつも素早さは殺さないように部分鎧を着ていて、2振りの剣を左右に1本ずつ下げている。

 切長の青い目と、短く切り揃えられた金髪から爽やかな印象を受ける。

 迷宮帰りのせいで全体的に汚れているのが残念ポイントではある。


「アンリ!君の実力は認めているが、この子を連れて行く判断は間違っている!こんなに小さいんだぞ!」

「小さい小さいうるさいわ!親しくないのに指差すな!」

「ぐっ……す、すまない……」


 何度も指される指にイラついて、思わず鎧に守られていないところをバトンで殴ってしまった。

 少しの距離があるとはいえ勢いよく目の前に指が何度も出てくるのだ。

 どう考えても危ない。

 殴られたのは自業自得と割り切ってもらおう。

 周りの人たちも仕方ないとウチに同意してくれているし。


「それはそれとして、アンリさんは説明してないん?」

「わたしからする事じゃない。しかも不特定多数がいるところでは絶対しない」

「まぁ、せやな」


 手の内をいつの間にか明かされることになる。

 その結果、弱点を知られて襲われるかもしれない。

 うちに限っては襲われても大丈夫なはずだが。

 保護者枠の間で話される分には仕方がないし、ウチが行動した結果知れ渡ったとしたら受け入れられる。

 でも、全く面識もない人から固有魔法について聞かれるのは嫌だ。

 聞かれるとしてもせめて組合内で見かけたことがあるか、話したことがある程度でいいからウチが認識してる人がいい。


「エルよ、会議室を借りたら話してもいいか?」

「んー。これだけの人に注目されとるし、ウチが動いたらどうせ噂になるんやろ?ここでええけど、アンリさんとこの人をハロルドから叱っといてな」

「あー……、わかった。後で注意しておく」

「おおきに」


 こんなに人がいる場所でウチに声をかけたアンリにも責任があるというか、発端はアンリだ。

 会話の内容から考えると、迷宮に潜ってる時にも話題に出たんだろう。

 恐らく「エルがいれば魔石取り放題」「エルとは誰だ?」みたいなやりとりが。

 魔石欲しさに森へ連れて行かれた事を考えれば、衝動で動いてしまったことは想像できる。

 でも、注意は必要だからウチではなくハロルドにお願いした。


「それじゃあ話についてなんだが」

「ちょい待って、2人は今日の依頼報告してくれへん?こっちは長なるやろうし」

「そうだな」

「エルちゃん頑張ってください」


 話を始める前に2人を送り出す。

 依頼書を提出するだけなのに、ずっと待ってもらうのは申し訳ない。

 報酬は後で分ければいいし、話が聞きたいなら受付側でも聞ける。

 わざわざ真ん中に立って目立たなくてもいいのだ。

 ウチの近くに居ただけで目をつけられる事は避けたい。


「それじゃああらためて話を」

「待ちぃ!」

「まだ何かやることが?」

「ちゃうよ。ウチはエル。請負人見習いや」

「あぁ、俺はワトス。普段はパーティで中迷宮に潜ってるんだが、護衛依頼でこの街に来た時に迷宮振動があった縁で調査に参加したんだ」

「はー。中迷宮」


 この街にある小迷宮よりも難易度が高く、洞窟ではなく草原や山岳などの外と同じようなフィールドタイプだったはず。

 そこをメインにしているということは、この街基準だと上位の実力になるのだろうか。

 弱くはないのはわかるけど、どれだけ強いのかはわからない。

 そんなウチを見兼ねたのか、ハロルドが補足してくれた。


「中迷宮を主にしている奴は装備の性能もさることながら経験が違うんだ。小迷宮は前後で分かれ道の時だけ左右も加わるが、中迷宮は全方位に頭上も警戒しなければならない。魔物の乱入もざらにあるな。単純な戦闘能力だけでは測れないようなところもあるが、この街基準だと確実にトップクラスだ」

「なるほどー」


 強いということはわかった。

 でも、やっぱりどのくらい強いのかはわからないままだ。

 そもそもウチの知ってる請負人で強さで順位づけしようにも、本気で戦っているところを見たことがない。

 アンリはウチと一緒に行動することはを多いけど軽くいなしていたそ、キュークス達も苦戦するような相手と戦っていない。


「それで、どうしてエルを連れて行こうと考えたのか教えてもらえるか?」

「ええで。簡単に言うとウチの固有魔法や。それでスライムの攻撃を受けへんから、直接魔石を抜き取って倒すねん」

「固有魔法か。だが、スライムだけだと道中大変だぞ。むしろ道中の方が大変だ」

「あー……言い方が悪かったな。ウチは魔物の攻撃や人の攻撃も受けへんねん。だから、道中も大丈夫……やと思う」

「断言できないのか」

「今まで大丈夫でもこれから先はわからんやん?どこまでが大丈夫か調べる方法もないし」


 固有魔法が効かなければ死ぬだけだ。

 だから、この攻撃は大丈夫という感覚を信じるしかない。

 さすがに溶岩の中や、海の中は無理だろうと思ってはいるけど、実際に目にしないと判断できないので、今のところ恐らく止まりだ。


「なるほど、そっちの事情はわかった。だが、見てみないことにはなぁ」

「試すのはええけど、証明する必要ある?ウチとアンリさんで行けばええんやから、ワトスさんの許可はいらんのちゃうん?」

「残念ながらそうじゃないんだ。調査が終了していないから、調査要員以外は新階層に入れない。そして調査要員を増やす権限は1番実力のある俺にある」

「ワトスさんが納得しない限りウチは調査班に入れんちゅうことか」

「そうだ。ただでさえスライムしか出なくて受けが悪い階層になると予想されている。調査はしっかりしたいから不安要素はできるだけ減らしておきたい」


 見習いのウチを入れるなんて不安以外の何物でもばいだろう。

 ウチがリーダーでも実力を確認してからにする。

 だから、ワトスの言う通り実力を示すしかない。


「じゃあ確かめてもらってもええ?」

「あぁ。訓練場でやろう」


 組合にいた暇な人全員が訓練場に移動した。

 別に付いてこなくていいのだが、面白い見せ物という扱いになっているようで、大人たちは酒やつまみを持って来ているし、食事処から注文を受けに来る人もいる。


 ・・・夕食をサービスしてくれへんかなぁ。後で聞くだけ聞いてみよう。


「それじゃあ行くぞ」

「いつでもええで」

「まずは軽くからだ」


 白いバトンを持ったウチと、訓練用の木の剣を2本持ったワトスが訓練場の中央で対峙する。

 そこから始まるウチが一方的に攻撃される検証は、木の剣が反動に耐えられなくなって折れるまで続いた。


「終わりでええ?」

「ふぅ〜……いや、まだだ。物理防御は大したものだが、魔法に対してはどうかな。小迷宮は一定階層から属性付きの魔物が出てくる。そいつらは魔法攻撃をしてくるから、それに対しても問題ないか確かめる」


 最初は軽く叩く程度だったのに、途中からどんどん攻撃が激しくなり、最後は身体強化を使って高速移動からの突きで終わった。

 そして、今度は魔法に対する防御について確かめるそうだ。

 ワトスは木の剣の残骸を捨て、自分の剣を一本抜いた。

 それを上段に構えると、魔力を流し始めたのか、剣から炎が噴き出た。

 ほんの少しの時間で剣を覆い、刀身の3倍近い火柱になる。

 それをウチにぶつけるつもりのようだが、ウチの固有魔法は問題ないと判断している。


「これを防げるか?」

「大丈夫やで」

「お嬢ちゃんやめとけって!どう考えても無茶だ!」

「そうだそうだ!」

「いや、全く問題ないねん。ほら、早く」

「後悔するなよ!はぁっ!」


 地面を蹴ってウチに近づくワトス。

 その勢いのまま振り下ろされる火柱。

 その火柱はウチに触れるぐらいで2つに分かれて左右の地面を焦がした。

 ワトスは熱のせいか大量の汗をかいているけど、ウチはちょっと暖かいぐらいで済んでいる。

 周囲の熱気からも守られているのだろう。


「すげぇ……」

「なんて見習いだ……」

「あれが効かないとか、ドラゴンブレスも効かないのか?」


 ・・・ドラゴンおるんやな。効かないかどうかは見ないと分からんけど、会わずに済むならその方がええ相手やな。


「これも効かないのか……」

「で、どない?ウチは行ってもええの?」

「防御は申し分ない。攻撃はどうなんだ?」

「まったくもって無理やな!今はこれで殴るだけや!」

「……攻撃は他に任せればいいか」

「せやな!」

「認めよう」


 ワトスの一言の割れんばかりの歓声が上がる。

 しかし、よく聞くと喜んでいる声と、悲しみの雄叫びの2つに分かれている。

 訳がわからないので見回してみると、どうやら賭けをしていたようだ。

 ワトスが勝つことに賭けている人が多かったらしく、ウチに掛けた人の大勝ちだ。


 ・・・ハロルドにアンリ、ウチと一緒にこの街に来た人。え?!カインとネーナにレオンたちまでウチに賭けたんか!その笑顔でわかる!ほくほくやん!ウチもウチに賭けたかったわ!


 請負人集まれば飲み、喧嘩、博打という言葉もあるそうで、この光景は普通だとワトスに教えてもらった。

 肝心の新開層には2日の休息を挟んで3日後に向かうので、必要なものは準備しておくようにと付け加えられる。


 ・・・いる物はハロルドさんかキュークスに聞こう。


 ワトスと話している間に解散となったので食事処へ向かう。

 結果としてウチの分は店の奢りになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ