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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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ホーンボアふたたび

 

 買い物を済ませた翌日の朝、早速小迷宮に潜る。

 ウチはハンマーと棒を置いてきて、バトンとボーラとナイフを装備している。

 カインとネーナも買った武器を下げていて、早く試したいのか何度も触っている。

 昼食や水はウチが背負った軽量袋に入れて、いつものスタイルで進む。


「しゃー!行くでぇ!」

「まずは肩慣らしからだぞ」

「せやな!ウチも試さなあかんからな!」


 白いバトンを持つ手に力が入る。

 ハンマーとは違って先端に重りとなる部分がないため、自分の力だけで叩くしかない。

 ハンマーより攻撃力は確実に落ちるけど、狙いは魔物への牽制なので問題ない。

 ただの棒よりも固くて威力はあるし、トドメはナイフでもできるからだ。

 ウチの心情的にできない可能性は置いといて。


「大ネズミや!」

「まずは俺とネーナで行く!」

「エルちゃんは周囲の警戒をお願いします!」

「わかった!」


 カインとネーナが駆け出す。

 いくつか曲がり角を通って来たので、後ろから襲われないように注意する必要がある。

 もちろん前から増援が来ないかも注意する。


「はっ!」

「やぁっ!」


 カインとネーナはいつも通り大ネズミを切り伏せていく。

 ここ数日と違って一撃で倒せる数が増えているように見える。

 2人の表情も嬉しそうなので間違ってないと思う。


「前より切れるし、重心が合ってるのか振り回しやすい!」

「軽くなった分早く振れるようになりました!」


 2人とも感触を確かめるためにブンブン、ヒュンヒュンと素振りをしながら嬉しそうに言った。

 そんな2人に触発されて、ウチもバトンを使いたくなったので急いで移動した。

 結果、バトンはハンマーよりも取り回しやすく、威力も当たれば怯むぐらいはあるので大ネズミの動きを止めやすくなり、地下2階から出るスライスバットは一撃で倒すこともできた。

 当たりどころがよかっただけなのは自分でわかってるけど。


「よっしゃ!地下5階に着いたし休憩や!」

「そうだな。さすがに腹が減った……」

「すぐ準備しましょう」


 ほどほどに戦いつつ進み、地下5階の広間に着いたのは体感でお昼を少し過ぎたころだと思う。

 お腹が減っているので素早く空いている場所へ移動し、マントを敷き布にして座る。

 皮袋から出した水で手を洗ってから、軽量袋に入れていた昼食の硬いパンと柔らかめの干し肉を取り出して食べる。

 スープがないのでパンは薄切りにして、水で流し込むように食べるしかない。

 調理する道具がほしいと切に思った。


「柔らかい干し肉は美味いな。噛めば噛むほど味が出るのは硬いのと一緒やけど、風味が瑞々しいというか、豊かというか、そういう感じ」

「エルちゃんにはそっちの方がいいと思ってわたしの分と一緒に用意しました。あまり日持ちはしませんが、柔らかいので食べやすいですよね」

「おおきに!今度から干し肉はこれにしたいわ」

「日持ちしない分少し高いはずなんですけど、この街ではリトルボアの肉が十分出回っているので安いんです。お得でした」

「美味いな。うん、美味い。身体強化せずに噛み切れるのもいい」

「え?硬い時は身体強化して食べてるん?」

「俺がそうだな。ネーナはエルと一緒でナイフで削って食べてるけど」

「さ、さよか」


 カインは面倒だから身体強化で顎を強化して噛み切っているそうだ。

 食事のために身体強化が必要なことに呆れたらいいのか、面倒だからという理由で身体強化ですます脳筋なレオンに呆れたらいいのかわからない。

 とりあえずウチには影響ないので気にしないことにした。

 獣人は身体強化なしで噛み千切るし、なんとなくのイメージだけど男性の請負人は身体強化して噛み千切りそうだ。

 本当に何となくだけど。


「食休みもしたし、ホーンボアのとこ行こか」

「そうだな。今更だけど、並んでる間に休めばよかったな」

「せやな……。まぁ、お腹いっぱいで動きたくなかったしええんちゃう?」

「ですね。あまり人もいませんし、そこまで変わらないと思います」


 それぞれ忘れ物がないか確認してから階層主のところへ移動する。

 迷宮振動があった翌日だからだろう、あまり並んでおらず、すぐにウチらの番になりそうだ。


「お!お嬢ちゃんたちか!昨日ぶりだな!」

「おっちゃん昨日ぶり!もしかしてずっと狩りっぱなしなん?」

「いやいや、さすがにそこまで若くねぇよ。しっかり休んで今日もホーンボア狩りってだけさ。他の請負人もそんな感じだ。いつも混むホーンボアが混んでないから今のうちに稼ごうって魂胆さ」

「へー。新階層様様やな」


 ニヤリと笑うウチらに色々教えてくれたおっちゃん。

 さすがにぶっ続けで狩りはしていないとのことなので、空元気でないことに安心した。


「そうだな。そういえばその新階層なんだが、何が出るか聞いたか?」

「うーん、調査する集団が出発したぐらいしか知らんなぁ」

「あー、見習いじゃあ酒飲んで騒ぐことがないもんな。昨日の食事処は新階層の魔物の話で盛り上がったんだ」

「おぉ〜、何が出るん?」


 組合に併設されている食事処ではお酒も注文できる。

 その結果、一仕事を終えた請負人たちが酒盛りすること毎日である。

 組合員が監督しているため、他人に迷惑をかけるような酔い方をする者はおらず、盛り上がりつつも節度が守られたいい飲み場と化しているそうで、未成年の見習いが成人したらまずは組合の食事処で飲むのが通例になっている。

 そんな場所なので請負人に関する話が飛び交い、小迷宮のあるこの街では迷宮について話すことが非常に多い。

 昨日は新階層についての話題で持ちきりだったようだ。


「それがな、スライムなんだよ。しかも、お嬢ちゃんたちなら丸呑みにするぐらいでかいらしい」

「えぇ!めっちゃデカいやん!」

「なんで目をキラキラさせてんだ……。っと、お嬢ちゃんたちの番だぞ。危なくなったら助けてやるからしっかりやれよ!」

「おおきに!行ってくるわ!」


 大きなスライムということは、大きな魔石が手に入るということだ。

 目もキラキラする。

 調査にアンリが加わってるから「新階層に行こう」とか言われそうやな。

 言われたとしても道中が大変やろうから無理やけど。

 そんなことを考えながら階層主の小部屋に入り、少し待つとホーンボアが現れた。


「まずがこれや!」


 先手必勝とばかりに、振り回して準備していたボーラを投げる。

 ウチの狙いは足なので低めに投げたけれど、角が掬い上げるように動き、全てが角に巻きついた。

 角に異物が巻き付いたことが嫌なようで、その場でブンブンと振り回すホーンボア。

 しかし、複雑に巻き付いたボーラはとれることはなかった。


「チャンス……なん?」

「エルを先頭に行けばたぶん……」

「じゃあ行こか!」


 隙なのかわからなかったけれど攻めることにした。

 バトンを大きく振りかぶり、走った勢いを利用して叩きつけるように振り下ろす。

 遠くで「危ねぇ!!」と聞こえたような気がするけど、目の前では振り回した角がバトンに当たって弾かれたホーンボアがいるだけだ。

 ウチは固有魔法のおかげで反動すらなく無傷。

 そこにカインとネーナが足を狙って切り込み、体勢を立て直すまでにさらに何度か攻撃を加える。

 ウチがバトンで角を押さえ込むようにすると、ビクともしないことにホーンボアが驚いたような気がした。

 その隙にカインは後ろ足を切り付け、ネーナはお腹に向けて何度も突きを放つ。

 買い替えたことで刺しやすくなった剣は、何度か目の突きで心臓を捉えてホーンボアの息の根を止めた。


「エルすげぇな」

「まさか押さえ込めるなんて思いませんでした」

「ウチも何となくいける気がした程度やねん。跳ね上げられたらウチに害が及んだことになるから、動かせないんやと思う」

「引くならいけたのか?」

「うん。そっちに関しては逃げられると思う。捕まえる魔法やないし」

「そういうもんか。なんにせよ戦法が増えるのはいいことだ」

「せやな!」


 喋りながらホーンボアを入り口まで移動させる。

 ウチは申し訳程度に角を持つだけで、実質2人で持ち上げてるのだが。


「すごい戦い方だったが、見てる側が心配するような動きはやめてほしいぜ……。心臓に悪い……」

「なんかごめんなおっちゃん」

「あぁ、こっちが心配しただけだからな。気にすんな」


 おっちゃんに頭を撫でられた。

 戦闘中に聞こえた声はおっちゃんだったようで、急いで駆けつけようにも間に合う距離じゃなかったことに肝を冷やしたそうだ。


 ・・・何も知らん人から見たら無謀な突っ込みに見えるもんな。ほんまごめんやでおっちゃん。


 おっちゃんに順番を譲り、ホーンボアを解体する。

 無事に終わったので、戦闘が終わったおっちゃんに挨拶をしてから魔法陣で帰還した。

 ホーンボアの一部の肉以外を売り払って、今日の仕事は終わりだ。

 明日はレルヒッポとの約束に間に合うよう軽く迷宮に潜ることになった。


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