ライテで待機
解体が終わった。
この後のことを話し合ったけど、迷宮振動のせいで追加で挑戦する気が無くなったので帰ることにした。
でも、これから階段を上がり続けることを考えると、若干気が滅入る。
帰るためには仕方がないと気合を入れたところ……。
「エル。帰るなら扉の先」
「扉の先?地下6階に行くための扉やんな?」
「そう」
「戻るのに?」
「扉の先に、迷宮の外へ出るための転移魔法陣がある」
「転移魔法陣?魔法の陣?」
「魔力を一定の法則に沿って流すことで効果を発揮するもの。迷宮が作り出す魔道具のすごい物」
「そんなのがあるのか……」
「便利ですね」
カインとネーナの情報収集では転移魔法陣のことは集められなかったようで、2人もウチと同じように驚いていた。
階段を上らずにすむということで、早速おっちゃん達がホーンボアを倒した直後に横を通り、扉の先へ進む。
もちろん通る時に挨拶はした。
おっちゃん達はもう少しホーンボアを狩るそうだ。
「これ?」
「そう」
「ただの石台に丸い魔石がついてるだけやな。魔石は大きいけど」
扉の先には少しの通路と、階層主の部屋よりもさらに小さな小部屋、その先に降り階段があった。
小部屋の中心には石でできたウチぐらいの高さの台があり、大の中心に手のひらを広げたサイズの透明な魔石がはまっていた。
床には何も描いておらず、魔法陣は見当たらない。
「その魔石を押し込むと魔法陣が出る。魔法陣と魔石の色が青くなったらもう一度押し込んで転移」
「それだけ?」
「そう」
「へー。便利やな〜」
青くなるのは転移先に何もないから問題なく転移できるという意味らしい。
何かが残っていれば転移できず、魔石はずっと透明なままになる。
複数の階から同時に転移することもできず、深い階の方が優先度が高いそうだ。
「じゃあ早速戻る?誰がやる?ウチがやる?」
「エルがやればいいよ」
「そうですね」
カインとネーナに確認すると、2人とも笑いながら譲ってくれた。
わかりやすかったんだろう。
・・・だって気になるやん!押したら魔法陣が出てくるところとかめっちゃ見たいし!
「そういえばウチでも使えるん?」
魔力が背中から出ているのだ。
魔力を必要とする魔道具のすごい版なら背中をつけないと使えないのではないだろうか。
背中で魔石を押し込むのは痛そうである。
もしかしたらツボに当たって気持ちいいかもしれないけど。
「問題ない。その魔法陣は魔石に貯まった魔力を使う。エルの魔力は不要」
「そっか〜。ならウチがやる!ポチッとな!」
問題がないなら即行動。
ということで魔石を押し込んだ。
そこまで力を加えてなくてもカコッと奥に沈みこむ。
押し込まれた魔石からいくつもの白く光る線が伸び、台座を伝って床へと広がる。
さらに枝分かれして丸や四角、よくわからない記号を描いていき、少しすると台座を中心に丸い魔法陣ができた。
ライトスティックだけで照らされていた薄暗い小部屋の中は、魔法陣の光で明るく照らされている。
「おぉ……」
「すごいな」
「綺麗……」
ぼうっと魔法陣を見ていると、中心からゆっくりと青い色に変わる。
青い光でも十分明るいけれど、白い光よりは暗くなる。
「今押し込めば魔法陣の上にある物が転移する」
「了解!ポチッとな!」
カッと強く光ったと思ったら、既に外だった。
目の前には転移に使った台座があるけれど魔石ははまってない。
どうやらここからどこかに転移することはできず、出口専用のようだ。
「この円から出る」
「おぉ。ここだけ草が生えてないやん」
「魔法陣の大きさと同じぐらいだな」
「転移する影響で生えないんでしょうか」
台座の周りは土が剥き出しなのに、魔法陣の縁と同じサイズより先は草が生えている。
何度も転移が行われた結果ハゲたのか、元からそういう作りなのかはわからないけど、境界がわかるのはいい。
全員で移動して少しすると、やたらと息切れしている請負人の集団が転移してきた。
「なんかあったんかな?」
「魔物から逃げていて、急いで転移することはある」
「やっぱそういうのもあるんやな」
案外深い階層の転移が優先されるのは、そういったことが想定されているのだろうか。
だとしたら入ってきた者を生かすようなことになるけど、迷宮の仕組みはよくわからないので考えるのはやめた。
不都合がなければいいのだ。
考えるのは、その必要がある人たちに任せる。
いるか知らないけど。
「それじゃあ素材を買い取ってもらうか」
「せやな」
「こっち」
アンリの後を追って転移先から少し歩くと、迷宮の入り口横にでた。
そのまま門を通って組合に行き、素材を買い取ってもらう。
素材が多ければ迷宮を出てすぐのところでも買い取ってもらえるけれど、いつも並んでいるので組合まで行った方が窓口が多くて早い。
軽量袋のおかげでたくさん素材があるから、ウチらにかかる時間も多くなる。
迷宮すぐより組合の方が反感を買わずに済むだろうとアンリに言われたのだ。
「アンリ、ちょっといいか」
「はい」
素材の鑑定を待っていると、ハロルドがアンリを呼びにきた。
全てのパーティが地下5階に到達したようで、片付けたテントなどの荷物を持ったままだった。
「なんかあったんかな?」
「迷宮振動の関係じゃないか?」
「それか、帰還の日程についてでしょうか」
「それもあるな」
アンリが戻るより査定が終わる方が早かった。
ホーンボアは角がいつでも求められていて高く買い取られた。
槍に加工したり、砕いて建材に使われることもあるそうだ。
魔物の素材は魔力を通せば強化されるので、レンガなどの建物に使う物に混ぜることで、混ぜない時より強い物ができる。
槍も魔力を通せばただの鉄槍ぐらいまで硬くなるので、重さが軽い分取り回しがしやすくなる。
威力は少し落ちるけど速さを重視したい場合は有効だし、倒せば手に入るので安価に装備を強くすることができる。
それに、白い槍は格好いい。
「お待たせ。夕食を食べながら話す」
「はーい」
組合に併設されている食事処へ移動する。
それぞれ食べたい物を注文して、水で口を湿らせたら、アンリが話し出す。
「ライテの滞在が延びる」
「明日は帰らんってことやな」
「そう。3人は地下5階まで自由にしていい。観光してもいい」
「アンリさんはどうするん?」
「新階層の調査」
「なるほどな〜」
魔力を見る目があてにされているのだろう。
どうやら他の指導役も協力して迷宮に行くらしく、見習いは地下5階までで経験を積めということになっている。
もちろん無視して地下6階以降に進んでもバレはしないだろうけど、指導役はいないのでいざという時に助けはない完全自己責任だ。
「2人はどうする?」
「明日は観光かな。装備を変えてもいいかもしれないし」
「わたしもです」
「ウチも観光や。美味しいもの探すねん」
「帰る日は未定。危険なことはしないこと」
「「はい」
「はーい」
話がひと段落したら食事が運ばれてきたのでお金を払う。
その後は、アンリから総評を受けて就寝となった。
・・・迷宮産の美味しいものあるとええな。便利な道具もあるかもしれへんし、明日が楽しみやわ。




