ライテ小迷宮 地下5階 階層主のフロア
書き溜めが順調に進んでおり、区切りをつけるため章を作成しました。
短剣を手に入れた翌日、昼前に地下5階への階段を見つけることができた。
ネーナが予想していた場所にはなかったので、考え込みながら地図を眺めていると、アンリが種明かしをしてくれた。
「ネーナ。これが地下4階までの地図」
「えっと……地下2階へ続く階段から、地下4階までの階段は予想通りです。でも、地下5階へは中央に一つしかないんですか?」
「そう。理由は行けばわかる」
アンリの開いた地図は、全体を四つの四角で区切ると中央を除いた3隅に階段がある。
それが4つあるので、1階あたり4つの階段があることになる。
しかし、地下5階に続く階段は中央一箇所だけで、今まであった3隅は全て行き止まりの小部屋になっていた。
ちなみに宝袋を見つけたのもこの小部屋である。
どう考えても何かありそうな階段なので、進む前に昼食を取ることにした。
「薄切りのリトルボアはいいな。食べやすい」
「せやろ。すぐ火が通るから焼くのも楽らしいし、たくさん用意したら見栄えもあるからな」
「野菜と挟んでもらってるのもいいです」
「美味しい」
今日の昼食は薄切りリトルボアバーガーにした。
塩を油でトロッとさせたタレをかけているので、野菜も相まってさっぱりしつつも食べ応えのある味になっている。
欲を言えばもっとパンが柔らかければいいんだけど、宿で買えるパンは硬いものしか無かった。
朝からパン屋に行く時間はなかったので仕方がない。
次に作る時は事前に注文しておこう。
「じゃあ行くで」
「あぁ」
「お願いします」
ウチが先頭になって階段を降りる。
相変わらず子供には優しくない段を踏み締めて最後まで降り切ると、大きな広間に出た。
そこには沢山の子供がそれぞれのパーティ単位で休んでいて、大人は子供達に声をかけながら一箇所だけある通路を進んでいた。
子供達は恐らく見習いで、地下4階のリトルボアを倒してから休憩しているのだろう。
よく見ると毛皮を剥いでいたり、肉を切り分けてクリアの葉に包んでいる。
そんな少し血生臭そうな広場の一角にテントが張られていて、その近くに置かれた椅子に座ったハロルドがこっちに向かって手招きしていた。
「お前達か。5日目の昼に到着っと。ペースはゆっくり目だが、カインとネーナが少し汚れてる程度だな。無茶をせず何よりだ。エルが綺麗なのはわかってるからいい」
「綺麗だなんてそんな……」
「そういう意味じゃねぇよ!固有魔法で傷つかないから身綺麗って意味だ!!」
わかっていたけど両頬に手を当てて身を捩る照れたポーズを取ると、ハロルドが狼狽えながら否定した。
そんなハロルドを見てひとしきり笑った後、実習の話に戻る。
「ウチらは遅い方なん?」
「そうだな……。殆どのパーティが3日目の夕方と4日目の朝に到達したな。まぁ、パーティの人数が5、6人のところばかりだな。4人組以下になると、大勢を相手にしづらくなるからどうしてもペースが遅くなる。怪我をしたら治療する時間も必要になるしな」
「ウチら3人やで」
人数の差でペースが変わるなら、一番人数の少ないウチらが不利ではないだろうか。
確か、集まった見習いの中で他に3人パーティはいなかったはずである。
「その分エルの固有魔法があるだろう。他のところにはないぞ。俺ならエルの固有魔法で怯んだところを倒す戦法を取る」
「俺たちもその戦法です」
「ほぅ。ちゃんと考えて進んだようだな。魔物の中に突っ込んで道を作ったか?」
「それはしてない」
「なんなんそれ!怖いやん!ウチは良くても後ろが大変なことになるで!」
ハロルドの戦法で突っ切れたら、一度通った道を進めるので遠回りする必要はなくなる。
でも、ウチは傷つかなかったとしても、後をついてくるカインとネーナが攻撃されるかもしれない。
そんなリスクは取る気にならない。
「だが、いざという時は魔物の群れを突破しないといけない時がくるぞ?」
「そうかもしれんけど、今経験した方がいいこと?」
「エルがいるうちに経験できるに越したことはないだろう」
「そういうもんか……」
自分から魔物に突っ込んで行っても傷つかず、逆に道を開けるウチがいる方が突破しやすいので、経験するだけならいいかもしれない。
ウチがいない時の経験は積めないけど、そんな事は起きない方がいいので似たことを実践するだけでも十分だろう。
帰りにいい感じの集団がいれば実践することにして、話を次に進める。
「ほんで、ここはなんなん?テント張れるってことは魔物出てけぇへんの?」
「そうだ。ここは階層主がいる階で、奥にある部屋以外に魔物は出てこない。だから、階段を降りたここが休憩場所になってるんだ」
魔物が出てくる場所が限られているから、その場所以外を休憩場所に使っている。
だから、テントを張って数日生活できたというわけだ。
ずっとこんな場所にいるのは気が滅入りそうだけど、訪れる請負人と話ができるので気晴らしは十分らしい。
それよりもよくわからない言葉があった。
「階層主?」
「あー……、次の階に行くための大物って感じだな。次の階から魔物の強さが上がるから、階層主を倒せないと行けないんだ。それがある程度の階層ごとにあるのが小迷宮だな」
「ボスみたいなもんか」
「そうだな。群れのボスのようなものだ」
「俺たちも階層主を倒せばいいのか……」
「いや、ここまで来れば合格だ。もちろん挑んでもいいぞ」
緊張したカインの言葉をハロルドが否定した。
ハロルドと会った時点で実習は終了なので、この後は戻っても階層主に挑んでもいいそうだ。
ウチとしては攻撃力のある2人がいるうちに戦ってみたいところではある。
「どうする?ウチは2人がいるうちに経験しときたいけど」
「階層主の情報がないから判断しづらいな……」
「いざという時は逃げられるんですか?」
「あぁ。小部屋といっても扉があるわけじゃないから逃げられるぞ。階層主は小部屋から出たら追ってこなくなるし、間違って小部屋から階層主が出ても戻ってくるんだ。なぜかはわかってないが、テリトリーが決まってるようなものだろう」
「逃げられるなら戦ってみてもいいかもしれませんね」
ネーナがいざという時の確認をしてくれたことで、カインの緊張が和らいだ気がする。
どこかホッとしたような表情に変わっている。
階層主が小部屋から出てこないのなら、遠くから一方的に攻撃すれば倒せそうだけど、それはできないのだろうか。
ウチらには弓を使う人がいないので、その先方は取れないけれど。
「部屋の外から倒せんの?」
「ん?倒せるぞ。ただ、一度でも攻撃すると敵認定されるから、攻撃するために小部屋から出てくるけどな。そこから逃げても少し追ってきて、そのあと戻るんだ」
「楽はできへんってことか」
「圧倒的な火力で仕留めたら可能だがな」
「なるほどなー。倒さんと次には進めるん?」
「それは無理だ。次に進む階段のところにだけ扉があって、階層主がいる時点で閉まってるんだ。倒したら開く」
「倒さないと進めんのやな〜」
「誰かが倒したところを進んでもいいが、勧めはしない。せめて一度は階層主と戦え」
階層主は倒されたら少しして復活する。
倒されてから復活するまでの間であれば、倒したパーティ以外も扉を通ることができるので、階層主と戦わずに次の階に行くことは可能だった。
でも、その方法は一度階層主に勝っているパーティが急いで通る場合を推奨している。
戦わずに進んだら、次の階から出てくる魔物の強さに驚くからだそうだ。
どうやら今までの魔物と比べると攻撃の鋭さや体力が一気に変わるらしい。
「まぁ、挑むかどうかは自由だ。実習も終わったから、アンリを参戦させてもいいぞ」
「そうなん?」
「アンリさんは戦ってくれるのか?」
「いざという時は」
「積極的には戦わないってことですか……」
「3人なら十分勝てる」
「そうなのか。なら戦ってみるか?」
「ウチはええで」
「戦いましょう。これも経験です」
「よし!なら、俺たちは階層主と戦うぞ!」
階層主と戦うことになった。
アンリは相変わらず様子見に徹するみたいだけど、階層主と戦ったことのあるアンリから勝てると言われたら挑んでみたくなったのだろう。
カインはやる気満々だった。
・・・こういう時、ネーナは意外と積極的なんよな〜。請負人としていきていくって決めてるからやろうか。カインは安全を取る感じがするわ。




