ライテ小迷宮 地下4階 宝袋
リトルボアと戦った翌日、ネーナの示す方向に向かって少しすると階段が見つかった。
ネーナの予想は当たっていた。
なぜわかったのか聞いたところ、四角を描いて四隅に階段があると予想したそうだ。
ウチはなんとなく理解したので、それ以上は聞かないことにした。
「地下4階で新しく魔物は出てこない。その分数が多いらしい」
「上手く抑え込めるか不安やわ」
「場合によっては遠回りでも逃げようぜ。今回もネーナがエルのサポート、俺は1人で対応する」
「はい」
「ええで」
一番体力があるカインが1人で、固有魔法があってもトドメを指すのにもたつくウチのサポートにネーナ。
色々試した結果、これが一番効率が良かった。
「今回はリトルボアと一対一で戦わないから、倒す速度重視で頼む」
「了解や!」
ここで登場するのがウチの新武器『棒』である。
ウチの身長より少し長く、握りのところに布を巻き、全体を研磨して丸くてツルツルした棒は、ウチの固有魔法の範囲を広げるために使う。
要は突進してきたリトルボアの前に棒を突き出すのである。
そうすると固有魔法に覆われた棒にぶつかることになるので、リトルボアが自分の力を受けてひっくり返る。
大ネズミやスライスバットもハンマーより軽くて振り回しやすい棒で牽制できるようになった。
攻撃力は低く、トドメを指すときにはハンマーに持ち替える必要があるけれど、パーティで戦う分にはこれで十分だ。
ナイフでトドメを刺せればいいのだけど、まだ抵抗がある。
倒した魔物を捌くのも2人に任せているのは、体力の問題に加えて、気持ちの問題も大きい。
「ここは行き止まりの部屋だな」
「地図に書くから待ってください」
探索の結果行き着いたのは、結構大きな部屋だった。
4人で走り回って遊べそうなほど広い。
魔物に追われた時に広く場所を使いたいならいい場所かもしれない。
「んー?なんかあるな。忘れもんか?」
ネーナが地図を書いている間、ライトスティックを掲げて光が照らす範囲を広げ、何となく部屋の中を眺めていたら、入り口側の角の片方に盛り上がった何かが見えた。
ここに出てくる魔物にしては小さく、スライムにしては動きがない。
「気をつけろ」
「うん」
近づいたら急に爆発するかもしれないし、噛みついてくるかもしれない。
固有魔法が反応しないので何も起きないだろうけど。
「布袋や。中になんか入ってる」
「それは宝袋。ちょっと良いものが入ってる。ごく稀に罠だったりする」
「袋……箱ちゃうんやな」
「箱は装丁が豪華なほど良いものが入ってる。その分罠が仕掛けられている可能性も高くなる」
「へー」
落ちていたのは布を紐で縛った袋だった。
中の物の分だけ膨らんでいて、それが周囲よりも際立っていたから気付くことができた。
その袋の中身は迷宮が作り出した物やお金が入っているらしく、布袋は価値はそんなに高くない物が入っている。
罠の可能性も低いようなので、手にとって口紐を緩めて開けた。
「んー……短剣やな」
「魔法の短剣か?!」
「魔法はかかってる。でも、微弱。恐らく強化か切れ味上昇程度」
「いい短剣買うような物だな……」
「微妙やな……。どうせなら火が出るとか、勝手に研がれるとかが良かったわ」
「そういうのは最低でも箱になる」
「そうなんか〜」
「でも、初めての宝物ですし、良かったじゃないですか」
「せやな!」
短剣自体がそこまで良い品ではなかったため、魔法がついても良い短剣を買うのと大して変わらない。
それでも、宝物を手に入れたという事実があるのだ。
次に期待することにして、小部屋を後にする。
「これどうする?売れる?」
「あんまり高く売れそうにないし、エルのサブ武器にしたらいいんじゃないか?」
「ナイフも手に合ってないようですし、その短剣の方が小ぶりで持ちやすいと思います」
「確かに持ちやすいな〜」
「じゃあエルのものってことで!」
「おおきに!次に何か出たら2人に譲るわ!」
何らかの微妙な魔法がかかった質の悪い短剣はウチの物になった。
腰につけたナイフより持ち手が細くて握りやすく、小ぶりで沿った刃は思った以上に鋭い。
試し切りをした方がいいと言われたので、リトルボアの肉を取り出して切ってみると、ナイフより扱いやすいことがわかった。
今まで使っていた大きなナイフは軽量袋に入れて、短剣を腰につけた。
鞘ごと出てきたので簡単につけることができる。
「2人は欲しいものあるん?」
「迷宮といえば魔法薬だな」
「魔法薬?」
「魔法が込められた薬です。傷が治るものや病が治るもの。別の生き物に変身できるものなど色々あります」
「そんなものがあるんか……」
「俺は万が一のために怪我が治るやつが欲しい」
「わたしもです」
以前もらった傷薬は、葉っぱのままより使いやすく加工したもので、他の薬草などと掛け合わせて効果も高まっているが、いわゆる自然治癒力を上げるものだ。
なので、使ったらすぐに治るわけではない。
魔法薬は飲んだらすぐ治る反面、体力が消耗するなどデメリットもあるけれど、いざという時のために持っておきたいものになる。
万が一の保険があるどうかで、多少の無茶が許容できるかが決まるのだ。
命をかけて魔物と戦っている身としては欲しいのはわかる。
「魔法薬は作られへんの?」
「遥か昔は作れたそうだけど、今は製法が失われているらしい」
「魔道具も複雑なものは作れなくなっているそうです」
「なんでそんなことになってるん?」
「さぁ?いろんなことが言われてるけど、どれが正しいかわかんねぇ」
「詳しく聞きたいなら教会に行くといいですよ」
「気が向いたら行くわ〜」
気にはなるけど、それは今じゃない。
次の魔物に遭遇するまで、2人がどういった説があるのか話してくれた。
教会は強大な魔物の軍勢に世界が呑まれ、生き残ったのが人類と獣人だったと説いている。
それを信じない者は人同士の戦争で世界が滅んだとも、星が降ってきて何もかもがなくなったとも、迷宮の中に世界中の人々が呑まれて生き残りが今を生きているという説もある。
今は作ることができない物が迷宮から出てくるので、請負人を含めて腕に自信がある者が挑んでいる。
「リトルボアだ!」
「ウチが先行するで!」
「任せた!」
話をしながら進んでいると、リトルボアが3頭現れた。
突進を固有魔法で覆われた棒で弾き返し、その隙にカインとネーナがトドメを刺す。
棒のおかげでウチが守れる範囲が広がっているので、2人が戦いやすくなった。
・・・ウチがトドメ刺すことなくなったけど、役割分担できとるしええか。大ネズミとスライスバットにも牽制できるしいい感じやわ。むしろハンマー要らんかったりするか?短剣で倒せるようになったらハンマーは無しでもええかもなぁ。そのためには……。
「次はウチも解体するで」
「わかった。覚えて損はないからな」
「結構力がいるので柔らかいところをお願いします」
次に出会ったリトルボアの解体を手伝った。
手に入れたばかりの短剣を皮と肉の間に差し込んで剥がす。
ぶちぶちと繊維が切れていく感触が好きじゃないけど、これに慣れなければ生きている相手を切ることなんてできない。
そんな地下4階の探索は、地下5階へ続く階段を見つけることなく終わった。
ちなみに、請負人組合で調べてもらった短剣の魔法は『切れ味上昇(微)』だった。
質のいい短剣に付いていたらちょっとだけ高く売れるのだが、探検自体の質が駆け出しに毛が生えた程度の請負人が使うものなので買取に出しても微妙だそうだ。
微が付与されているだけに。




