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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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66/305

ライテ小迷宮 地下2階 スライスバット

 

 地下1階を彷徨った翌日。

 昼食に我慢できなかったウチは、朝から迷宮へ潜る請負人向けにやっている屋台で、串焼きを買い、パン屋で焼きたてのパンを買った。

 迷宮を移動している間に冷めてしまうけど、保存を目的としたカチカチのパンを水や唾液でふやかすよりよほどいい。

 生野菜はドレッシングにつけて食べるので、まだマシだけど。


「ほな行こか!」

「おう!今日は昨日の続きからだな!」


 レオンと別れた最初の分岐を逆側に行くという案も出たけれど、続きを書きたいというネーナの意見を採用した。

 全容がわからないので、どっちに行こうとも階段を見つけるまではどうしようもないのだ。

 後悔するのはその時でいい。


「ここが昨日ウチが力尽きたところやな」

「まぁな。今日は戦闘をこっちに任せた分余裕はあるだろ?」

「休憩もとったしまだ大丈夫や」

「無理すんなよ」


 2日目の今日は、最初に壁として攻撃する以降は2人に任せる戦法を取った。

 一度に複数の注意をひけば、固有魔法に弾かれた大ネズミを刺すだけなので簡単に数を減らすことができる。

 後は2人の連携やそれぞれ倒せばいい。

 最初以外動かない分疲れもなく、念のためにとった休憩で足の疲れも回復したので、今日はまだまだいける。


「よし!出発や!」


 昨日の続きを進む。

 時には行き止まり、時には通った道と合流したので違う道へと進む。

 そんなことを繰り返しながら大ネズミと戦い、そろそろ昼食かと思ったタイミングで、下へと続く石造りの階段を見つけた。


「階段や!」

「入り口から左上の方か」

「分かれ道を左に進んだわたし達が正解ってことですね」

「レオン達は右に行ったもんな」


 どう進んだかは分からないけど、左に進んだウチらがだいぶ迷った上で着いたぐらいだ。

 右に行って迷ったら、階段を見つけるまで相当時間がかかるだろう。

 そんなことを考えながら、ふとアンリを見ると微妙な表情を浮かべていた。


「アンリさんどうしたん?」

「何か起きました?」

「何も起きてない。……問題なく階段を見つけたなら見せてもいい」


 そう言ったアンリが渡してきたのは、地下1階の地図だった。

 そこには入り口を基点に四隅が階段になっている地図が書かれている。


「つまり、階段は1つじゃないってことやな」

「そういえば誰も1つだとは言ってないな」

「そうですね」

「そういうこと」


 アンリが見せてくれた地図を見るに、どう迷ってもどこかの階段にはたどり着けそうな図だった。

 階段が真ん中に書かれた地図を渡されたのにもヒントがあったようだ。


「もしかして、地下2階から4階までは複数の階段があって、地下5階は1箇所しかないのかもな」

「なんで?」

「ハロルドさんは1人しかいないから、複数階段があったら困るだろ」

「確かに!」

「正解。地下4階から地下5階に向かう階段は1つだけ」

「おぉ〜」


 カインの考えが合っていたので、小さく拍手を送った。

 話もひと段落したので階段を降り始めたけど、ウチには1段の高さが微妙に大きくて、一歩ずつゆっくり降りることになった。

 カインとネーナも降りづらそうにしていたので、大人向けの階段なんだと思う。


 ・・・子供向けの迷宮もあっていいと思うで!!


「降りたけど見た目は一緒やな」

「そうだな」

「この階からはスライスコウモリという、羽で切り裂いてくるコウモリが出てきます」

「切って血を吸うん?」

「いえ、スライスコウモリは果物や花の蜜を吸うそうで、吸血種ではないそうです」

「ただ切るだけか。厄介やな」

「俺たちにはな。エルは前方の防御よろしく」

「了解や!」


 地下1階と変わらず、ウチが先頭になって進む。

 最初は大ネズミばかり出てきたけれど、昼食を挟んだ後にスライスコウモリに遭遇した。

 ウチの両掌を広げたぐらいの大きさで、体は黒い。

 羽の外周が薄くなっていて、羽先は刃物のように鋭い。

 そんなスライスコウモリが10羽以上向かってくる。


「多いしちっさいな!」

「エルはハンマーじゃなくてナイフを!」

「わかった!」


 ハンマーを捨てて、腰につけたナイフを抜く。

 普段使っていないから当てられるかわからないけど、ハンマーより軽いので振り回すぐらいならできる。

 カインとネーナは剣を構えて静かに狙いっていて、ウチが振り回したナイフを避けたスライスコウモリを的確に切っていく。


「羽に注意だ!固くて弾かれる!」

「体を狙いましょう!」


 2人が振った剣が羽に当たり、スライスコウモリが大きく弾かれる。

 羽の一部が欠けているので、何度か切れば倒せるかもしれない。

 しかし、その間に他のスライスコウモリに襲われてしまうので、手早く倒せる体を狙うことにしたようだ。

 ウチは素早く飛び回るスライスコウモリを的確に狙うことはできないので、とりあえずナイフを振り回している。

 ウチの場合は羽に当ててもスライスコウモリが弾かれるだけなので、気にせずぶんぶんと振っている。


「そこだ!」

「はっ!やっぱりエルちゃんに当たってバランスを崩していると狙いやすいです」


 カインは自分で弾いたコウモリに追撃を与え、ネーナはウチが弾いたりウチに当たって弾かれたコウモリを狙っている。

 前に出ている分ウチがよく狙われていて、分担することで着実に数を減らせている。


「おわったぁ……腕がしんどいわ……」

「攻撃は少し切る程度だからそこまで痛くはないけど、数が多いと面倒だな」

「あの数だと少し切られます」

「だな」


 ネーナを見ると、腕の部分が少し裂けて白い肌が見える部分があった。

 幸い肌は切られていないけど、戻ったら繕わなければならない。

 カインは腕にうっすらとした切り傷がいくつかできていて、すでに血は止まっているようだ。


「傷薬を塗っておくこと」

「わかりました」


 アンリに言われて傷薬を塗るカイン。

 放置しておくと傷が膿むこともあり、場合によっては病気にもなるからだ。

 採取訓練の報酬でもらった傷薬が役に立つ。

 塗り終わったら素材を取る。

 魔石と羽が素材だけど、魔石は草原ウサギよりも小さく、羽も切れ味が良いけどすぐに壊れる刃物程度の扱いなので、数打ちのナイフよりも需要がないそうだ。

 とりあえず素材を集めたら、昼食休憩を挟んで探索を再開する。


「地下2階しんどない?」

「だなー。スライスコウモリは集団で襲ってくるから面倒……」

「ですね……」


 少しすると地下3階への階段を見つけることができたけど、その間にスライスコウモリに3回襲われた。

 そのどれもが10羽以上いるため、カインとネーナは傷が増えて服がボロくなった。

 ウチは固有魔法のおかげで服すら傷つかないので問題ないが、どうにか簡単に倒す方法を考えないといけない。

 大ネズミと一緒に出てきた時はてんやわんやで、足元からは大ネズミ、頭上には大量のスライスコウモリと散々だった。

 なんとか倒し切ったけど、大変だった。

 そんなふうに3人で感想を言い合っていると、アンリが口を開いた。


「毎回戦う必要はない」

「……たしかに。外では獲物以外と極力戦わないようにして体力を温存しているな」

「狭いので戦うしかないと思っていました」

「武器振りながら通り過ぎてもええんかぁ〜」

「道を変えてもいいんじゃないでしょうか。この階段もいくつかの道につながっています」

「せやな〜」


 地下1階の階段も突き当たりにあっても道は一つじゃなかった。

 ここに至っては三又に分かれた道が交わる場所にあるぐらいだ。

 他の道を通ってもたどり着くことはできるはずなので、魔物を避けて別の道を進むことも選択肢に入れるべきだった。


「それじゃあ戻るか」

「地下3階の情報を仕入れなあかんな」

「ですね」


 地下3階へと続く階段を後ろに、来た道を戻る。

 途中スライスコウモリと大ネズミの集団がいたので道を変えた。

 それでも問題なく外に出ることができたし、少しだけ迂回路がわかった。

 夕食を食べた後は先輩請負人に話を聞いて、明日のために早めに休む。


 ・・・体力温存のためなら大ネズミも無視してええかもな。ウチの足で逃げ切れるかは分からんけど。


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