ライテ小迷宮 地下1階 大ネズミ
「思ったより明るくなるんやな」
「周りの苔がライトスティックの光に反応しているみたいだな」
「正解」
小迷宮の中は思ったよりも明るかった。
外でつけたライトスティックはうっすら光る程度だったけど、中でつけると結構な範囲に光が届く。
さらに壁に当たった光を蓄えるのか、光が届かなくなってもしばらくの間壁がうっすらと光り続ける。
光苔という吸収した光をしばらく放つ苔がところどころに生えているためだ。
「戦闘になったらライトスティックを壁際に投げる。その光で十分戦える」
「投げたら壊れへん?」
「放る程度なら問題ない。叩きつけたら流石に壊れる」
「あとは投げた時にスイッチが押されないかどうかだな。横向きに投げれば大丈夫そうだけど」
それぞれでライトスティックをいじりながら話し合う。
試しにスイッチ部分を床に押し込むと消えたので、投げ方によっては光がなくなってしまう。
カインの言う通り横に投げた方が良さそうだ。
本体部分は半透明の鉱石で衝撃に強く、よっぽど雑に扱わない限り壊れないそうだ。
「予備があった方がいいですね。今はエルちゃんのライトスティックだけで十分ですけど、わたし達の分は予備なんでしょうか?」
「違う。それぞれ点けて移動する。横投げは正解。可能なら鎧の前方邪魔にならない場所につける。無理なら戦闘時に投げる」
「今回は投げる練習?」
「そう。付けるための道具は持ってきていない」
それぞれ持つのは自分の周囲を照らすためなのと、はぐれた時に光源がなくなることを防ぐためだった。
装備に取り付けないのは、手に持ったまま移動する練習と、その状態で戦闘になった時の訓練でもある。
アンリの装備には取り付ける場所があったので見させてもらうと、少し太くなっているスイッチ部分を引っ掛ける輪が付いた紐をぶら下げているだけだった。
装備には紐で着けて、輪っかにスティックを通せば、太くなっている部分で止まる造りだ。
「次はこれ。地図用の羊皮紙と木炭」
「ん?入り口のところしか書いてへんで」
受け取った羊皮紙には真ん中よりやや下に四角で囲まれた入り口という言葉と、その資格から続く壁を表す線しかなかった。
迷宮の中心より少し下に入り口があるのは、回り道をすると裏に回れるという示唆なのだろうか。
それとも、念のためこの位置に書いただけかもしれない。
「埋めるのも練習」
「なるほどな〜。書き方は?」
「主に2つ。一定数歩いたら壁を書くのと、変化があるところまで歩いて、歩いた歩数と方向と内容書く」
「よくわからん!」
「俺はわかった!」
「わたしはなんとなくです……」
わかったカインに説明してもらったところようやくわかった。
ひとつは30歩と決めて、その歩数歩いた時点で周囲の壁を線で描く方法。
もうひとつは壁や分かれ道に階段、小部屋などの変化がある場所まで移動して、その歩数を数値、方向を矢印、そして内容を書くという物だった。
前者は羊皮紙の枚数が多くなる分、誰が見てもわかりやすい物となる。
後者は情報が多くなるけれど、羊皮紙を節約することができる。
どちらも魔物と戦闘になった時に歩数を忘れるという欠点があるので、慣れてくると大体の数値で書くようになるらしい。
ウチらは見習いでお金がないから歩数と方向を書く方でいい気がするけれど、パッと見てわからないのは困るということで、ネーナが一定数歩いたら書くことになった。
「補足。組合である程度の階層まで地図は売ってる」
「わざわざ書かすのは、書くのも練習ってことやな!」
「正解。読み解く練習もすること」
「はーい」
組合で売っている地図は、見習い相手に販売されていない。
購入するためには、見習いを卒業していなければならないのだ。
これは、地図を元に無謀にも奥へと突き進む見習いを止めるための措置で、自分で書いた地図を利用して奥へ行く分には問題ない。
そこまで安定して潜れるなら、少し先に行っても対応できるはずだからだ。
「じゃあ行くで〜」
「おう」
「お願いします」
ウチが先頭で歩き出す。
少し直進していると二股の分かれ道になった。
そこではいちゃもん君ことレオンのパーティがいて、地図に線を書きながらどちらに行くか話していた。
ネーナも同じように地図に線を書き始めたけど、支えるものがないので書きづらいようだ。
紐を通した板でも首から下げるのがいいだろうか。
紙を固定できれば更に良さそうだ。
「よし!前のパーティと違うこっちに行こう!」
「なら、ウチらはこっちに行こか」
「あ!エル!どっちが先にハロルドさんのところに着くか勝負だ!」
「えー……面倒やから嫌や。のんびり確実に行きたいねん」
「お嬢ちゃんの考え方の方が正しいぞレオン。無茶はするな」
「わかりました……」
レオンの宣言に対して逆に進むと決めたら、なぜか勝負を挑まれた。
面倒だから断ったらレオンの指導役が注意してくれたので、揉めることなく終わった。
「じゃあな。気をつけろよ!」
「そっちもな!」
お互いの地図に分かれ道を書けたことを確認してから分かれた。
話している間に、後ろから次のパーティが近づいているのもあったので、素早く移動する。
まっすぐな道を少し進むと、丸まったウチより少し小さいぐらいのネズミが3匹現れた。
「大ネズミだ!」
「体当たりと噛みつきに注意です!」
「とりあえずウチが足止めや!」
ライトスティックを壁側に転がし、肩に担いだハンマーを勢いよく振り下ろす。
が、ネズミ故の素早さで避けられる。
振り下ろした体勢を隙だと見た別のネズミが、ウチに向かって突進してくる。
それを固有魔法が弾いて、動きが鈍くなったネズミにカインの剣が突き刺さる。
ウチはハンマーを斜めに振り上げて、再度最初のネズミを狙うもまた避けられる。
そこにネーナの剣が振るわれて胴体に傷をつけた。
動きが鈍くなったところをウチのハンマーが捉えて、嫌な音と共に潰れる。
その間に残りの1匹をカインが倒して戦闘は終了した。
・・・慣れたつもりやったけど、やっぱり肉が潰れる感覚は慣れへんな〜。
「何が使えるん?」
「肉ぐらい」
「毛皮は?」
「弱いから鞣しても膝掛けぐらい」
「そうなんや。どうする?」
「とりあえず肉だけ取っていこうぜ」
「了解や!」
大ネズミの皮はあまり使い所がなく、爪や牙も鏃に加工できるほどではない。
裁縫の針などには加工できるが、わざわざ大ネズミの素材を使う必要もない程度だ。
肉はさっぱりしていて少し筋張っているらしく、格安の肉として売ることができる。
もちろん買取値段も格安だ。
塩を振った肉を串に刺して屋台で売るには十分な味になるらしく、駆け出しやお金のない人、少し口淋しい人に人気があるようで、いくつもの屋台が出ているそうだ。
「残りはそのままでええの?」
「放置でいい。時間経過で迷宮が吸収する」
「人間の死体も?」
「そう」
「うへぇ……」
つまり、迷宮の中で殺人を犯しても証拠隠滅できるということだ。
ある程度防ぐために門番を配置して、請負人証を持っている人しか入れないようにしているのだろうけど、完全に防げるわけではない。
「よし!終わったぞ!」
「ほい。入れ終わったし先に進もう」
受け取った肉を収納袋に入れて進む。
干し肉とパンに生の野菜そのままという味気ない昼食を摂った後も、大ネズミを倒しながら迷宮を進んだけど、地下2階へ降りる階段は見つからなかった。
ウチの体力が低過ぎて、寝そうなのもあって早々に迷宮を出たのもあるけど。
・・・ただでさえ休憩が多いのに、疲れて眠なるのは申し訳ない。2人は壁になってくれてるから十分って言ってくれてるけど。




