小迷宮都市ライテ
カインとネーナと一緒に迷宮についてアンリに話を聞いているうちに、小迷宮のある都市に到着した。
道中の魔物はガドルフ達護衛が全部倒しており、見習い達は戦い方を勉強するように見ていた。
・・・ウチには参考にならんし、他の人の動きを学ぶ程度やわ。解体も力が足りへんから無理やしな。
到着したのは昼食を取った後なのでまだ明るく、出入りするための門も開いている。
都市を丸々囲っているのか大きな壁があり、道に沿ってある門を通って中へと入る。
なぜか馬車の中を改められることがなかったけれど、その理由は門を通った後わかった。
「壁の内側に畑があるんやな」
門の先に街はなく、遠くにまた壁があった。
周囲には小麦畑が広がっていて、たくさんの人が作業をしている。
「今の壁は畑用。この後もう一つ門を通ってライテに入る」
「その時に確認があるん?」
「そう」
さらに詳しく聞くと街の中にも壁があり、その中に小迷宮への入り口があるそうだ。
小迷宮から溢れた魔物を閉じ込めるための壁、街と畑を区切る壁、畑の外からやってくる獣や魔物に対する壁の3重となり、迷宮都市は全て最低でもこれだけの壁を作ることが義務付けられている。
「ようこそ小迷宮都市ライテへ!迷宮実習頑張れよ!」
「おおきに!」
「頑張ります!」
街に入る門で見習い証を出して確認してもらう。
その時に門番から激励を受けた。
戦闘の馬車に乗っているハロルドが、後ろの馬車の見習いは迷宮実習目的だと告げていたからだった。
「おぉー。人が多い」
「請負人がほとんどだな」
「住民はもっと奥に住んでる」
確認のために馬車から降りて門を潜ったので、幌の間から見る景色とは違い、はっきりと目の前に広がる。
馬車が4台並んで走っても余りある広い道。
左右には請負人向けのお店や宿がずらりと並び、馬車が通れるだけの道を残して、武具を身につけて請負人がたくさん歩いていた。
武具を持っていないのは店員や荷運びをしている人だけではないかと思うほど請負人が多い。
「よーし!全員馬車に乗ってくれ!今からライテの請負人組合本部に向かう!」
ハロルドに促されて、また馬車に乗る。
少しすると小迷宮を囲んでいる壁が見え始め、まだ距離がある状態で、ウアームの街よりも倍以上大きな請負人組合に着いた。
「組合から迷宮まで遠くない?」
「ここは本部。あの壁の向こうに組合の迷宮支部がある」
「街中に2つも建物あるんか〜」
「迷宮の管理に集中するのと、住民の要望を聞いたりするのを分けている」
「なるほどな〜」
着いた請負人組合は住民の依頼や、街の外に対する依頼を管理する本部だった。
迷宮に対する住民からの依頼受付もここで行なっていて、住民がいたずらに迷宮へと入らないように気をつけているそうだ。
そして、迷宮側の敷地はそこまで大きくなく、請負人用の訓練場や寮などは全てこっちに併設されているためとても大きく作られている。
ウアームの街より何倍も大きな街なので、これぐらい広くないと請負人を管理できないのだろう。
「着いたぞー!ここがライテの請負人組合本部で、お前たち見習いがパーティごとに生活する寮が裏手にある場所だ。いいか、本部だぞ本部。迷ったら請負人組合の本部はどこか聞けば先輩たちが教えてくれるからな!」
ハロルドの説明に護衛の請負人達が任せろとかえす。
後輩の指導は先輩の役目でもあるので、嫌がるそぶりはなく、むしろわからないことがあれば何でも聞けという態度だった。
その護衛達の仕事はここまでなので、寮か宿かはそれぞれの判断で決まる。
ガドルフ達はお酒の飲める宿を取ることに決め、指導役であるアンリは組合の寮にある個人部屋を割り当てられた。
「ここがウチらの部屋か!」
「十分だな」
「ウアームの寮と変わりません」
ガドルフ達と分かれて組合の端を通って寮へと向かい、割り当てられた部屋の鍵を受け取って3人で入った。
部屋の中には2段ベッドが2つ置かれていて、間の壁際に引き出しが2つのチェストが2つあった。
ベッドの位置でチェストの位置も決めるらしい。
他にはマントや服を引っ掛ける出っぱりのついた板が壁に付いており、椅子も4脚ある。
武器を立て掛けるための台座は一つしかないけど、大きいものがあるので槍も問題なく置けそうだ。
これがネーナの生活している寮と同じというのは、なかなかの設備な気がする。
「宿より狭いけど、武器置く場所あるのはええな」
「請負人に特化した結果だそうです」
「へー。ネーナはウアームでは4人部屋で生活してるん?」
「そうです。わたしより前に見習いになった人達と一緒の部屋です。色々お話しを聞いて役立ててます」
「それは重要やな」
行く先の情報は馬鹿にできないどころか必須である。
情報収集の効率的なやり方はわかっていないけど、その重要性は理解しているつもりだ。
「迷宮での立ち回りはどうする?」
「ウチが先頭でええんちゃう?魔物の動きが速かったら捉えられへんけど、その時は2人に任せるわ」
「ボーラが使える相手かもわからないし、そうなるか」
「わたしが後ろを警戒します。カインは真ん中でエルちゃんの補助をお願い」
「わかった」
椅子に座って明日のことを話したけれど、組んだことがあるメンバーなのですぐに終わった。
基本的にウチが魔物の足止めをして、カインが隙をつく形になる。
ネーナは数が多ければ参戦し、少なければ周辺警戒を中心にする。
カインとネーナは疲れたら役割を交代するけど、ウチは先頭でボーッとすれば自ずと役割を果たしつつ休憩できる。
・・・棒立ちのウチはいい的になるらしく、魔物に襲われる率が上がるねん。何で判断してるんやろ。構えてるかどうかというより意識が自分に向いてるかどうかとかやろか。見られてるかどうかは目が向いてる方向でわかるし。
「これからどうする?」
「特に何も言われてないですよね」
「ウチは観光がしたいけど」
「観光?ここの名物は小迷宮だから明日になったら見れるぞ」
「いやいや、なんかこう美味しいもんとか変わった置物とか、思い出に変わる何かとかあるやん」
「最後のやつはよくわかんねぇ……」
「街を見たいってことですか?」
「そう!そういうのでええねん!ぶらぶらしたい!」
「今からだと難しいと思いますが、聞いてきますね」
ネーナが部屋から出て行った。
すでに夕方で、もうすぐ閉門準備で各店が閉店の4の鐘が鳴る。
さすがに夜の街を見習いだけで歩くのは危ない。
酔っ払いに絡まれたり、知らないうちに治安の悪いところへ入ってしまえば戻れなくなるかもしれない。
「戻りました。もう少しすると寮の食堂で夕食になるので、外に出るとしても訓練場までだそうです。街を回るのも、迷宮実習に慣れてから各パーティごとにするようにと、明日伝える予定でした」
「おおきにネーナ」
「まぁ、暗くなるしそういうもんだろ」
夕食まですることがなくなった。
ごろごろして寝てしまうと眠れなくなるので、3人で訓練場へ行き、軽く体を動かしていると夕食の時間になった。
夕食は茹でた芋と野菜、焼いてサイコロ状にカットされた肉、硬いパンと野菜スープで、どれも塩味だ。
「みんなはドレッシングいる?」
「もらう」
「俺もほしい」
「ほい」
「わたしもいいですか?」
「ええで」
途中の村ではドレッシングがかかった状態で出されていた野菜。
でも、ここでは塩が薄く振りかけられているだけだった。
念のために持ってきていた小瓶に入ったドレッシングをウチの野菜にかけた後、アンリにも渡す。
戻ってきたドレッシングをカインとネーナにも回した。
まだ商品として出回っていないので、レシピ代が払えない2人は自前のものを持っていない。
「それじゃあおやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみ〜」
食後は男女別の洗い場で体を拭いて、それぞれ明日の準備を見直し、就寝となった。
どきどきと少しの不安を抱えたまま眠りについた。
・・・迷宮向けの意味がようやくわかるで!




