小迷宮へ移動
ガタゴトと音を立てる馬車に乗って、小迷宮のある都市に向かっている。
馬車の編成は採取訓練をした時と同じで、カインとネーナの見習いに、アンリを加えた4人で1台を使っている。
いちゃもん君ことレオンの馬車と、4人組の馬車、さらに他の時期に見習いになった人が乗っている馬車が3台の6台編成だ。
ここ馬車を守るように馬に乗ったガドルフ達や、依頼を受けた他の護衛がいる。
「迷宮かー。どんなところか知ってる?」
「教会が語る神話の時代からある、魔力が集まってできた場所って事ぐらいだなー。魔力が多いせいで魔物が生まれて、放置していると溢れてくる」
カインに聞いたら答えてくれた。
正体はよくわからないけど、放置したら危険なものということがわかる。
「魔物が生まれるってことは、普通の生き物もおるん?」
「それが違うんだよ。研究してる人によって言ってることは違うんだけど、迷宮自体が魔物だから子分として魔物を生み出している説と、魔力を使ってどこかにいる魔物を呼び出している説が人気だ」
「ほー。素材は手に入るん?」
「手に入るぞ。あとは、中で死んだ請負人の武器や防具、道具なんかに魔法の効果が付いて宝箱から出てきたりもする。他には今は作れない過去のお宝なんかも宝箱から出てくるらしい」
「なんで宝箱なんかあるん」
「外にいる人間とかを招くためって言われてる。素材だけでも儲かるのに、魔法がかかった道具を手に入れた日には大金が手に入るからなー。俺もいつかは手にしたい」
わざわざ宝箱に入れるあたりに何かしらの意図がありそうだ。
言われている外の人間を誘き寄せる餌だとしたら、カインも欲しがるほどなので効果は抜群だろう。
ウチは手に入るものがよくわからないので、機会があれば見てみたい程度である。
金塊とか宝石のようなわかりやすいものなら想像できるけれど、魔法の効果が付いたものになると想像できない。
炎を出す剣とかだろうか。
剣から炎が出てもそこまで強くなさそうと感じてしまった。
「アンリさんは迷宮に入ったことある?」
「ある。迷宮自体が魔力を持っているから、左目で見づらいけど、何かあれば濃く見えるから何とでもなる」
「魔力が見えるとそうなるんや。想像できへんわ」
薄い色で塗りつぶされた道に、濃い色で魔物がいる感じなんだろうか。
どういう色で見えるかわからないけど、同じ系統の色だと確かに見づらそうだ。
「ネーナは緊張してるん?」
「はい……。迷宮は怖いところだと聞いているので」
カインの幼馴染であるネーナは、家出をして組合の寮で生活している。
同じく寮で生活している先輩の見習いから、いろいろな失敗話を聞いたことで、少し怖くなっているようだ。
どんな話を聞いたのか確認すると、パーティメンバーの倍以上の魔物に追われたり、逃げた先で魔物に遭遇して挟み撃ちにあったり、罠にかかって動けなくなったりなどの散々な目にあったものだった。
生きて帰っているので何とかなっているのだろうけど、本人たちも怖がっていて、一部の人は迷宮より外の方が安全に狩りができると言うぐらいらしい。
「迷宮って罠あるん?」
「向かっている小迷宮にはあるそうです。ある程度進んだところかららしいですけど、軽い落とし穴や躓く程度の段差から始まって、深い落とし穴に槍が追加されたり、床や壁の出っ張りを押したら矢が飛んでくるそうです」
「なんちゅうか、どんどん殺意が上がってくるんやな」
「言われてみればそうですね。請負人の武具を回収するためでしょうか」
「目的は迷宮に聞かなわからんな」
「エルちゃん聞いてみてください」
「もしもし迷宮さーんなんで罠なんか仕掛けてるんー?ってか!答えてくれるわけないやん!」
「そうですよね」
くすくすと笑うネーナと、ウチらのやりとりを見て声を出して笑うアンリとカイン。
賑やかな馬車はいくつかの休憩を挟んで、今日泊まる農村へと到着した。
もう一つ農村を経由したら、小迷宮のある都市に着く。
「おぉ。ドレッシングがある」
「エルちゃんの考えた物が広まってるわね」
「さすが私のエル」
「あら?エルちゃんを助けたのはわたし達よ。だからわたしのエルちゃんなんだけど?」
「また始まった……」
宿の夕食の席で始まるキュークスとアンリのウチを巡る言い争いだ。
請負人の仕事について話す時はお互い尊重し合っているのに、ウチの事となると譲らなくなる。
しいて言えばウチはウチのものである。
「こっちに向かったのはレルヒッポさんやな」
「お嬢ちゃんの予想通りレルヒッポさんからレシピを買ったんだ」
「やっぱり」
ドレッシングのかかったサラダを食べながら、給仕の人と話す。
カバの獣人で商人のレルヒッポは、迷宮のある街に向かったきり未だ戻ってきていなかった。
ウチとはすりおろし器について商談するはずだったのにである。
・・・ウチから行ったら驚くやろうな。それにカツの存在もあるし、交渉はこっちが有利になるはずや!
そんなことを考えながら、潰した野菜を混ぜたこの農村オリジナルのドレッシングでサラダを楽しむ。
肉とパンはいつも通りで、スープは新鮮な野菜なので、採れたて野菜を使うポコナの宿と同じぐらい美味しい。
料理を楽しんでいたら、キュークスとアンリの言い合いはいつの間にか終わっていたようで、黙々と食事していた。
「今回実習でもぐる迷宮について説明するぞー」
2つ目の農村に着いたら、宿の一室にハロルドが見習いを集めた。
全員入ると狭いけれど、話を聞くだけなら問題ない。
「迷宮は洞窟タイプで地下に降りていくものだ。他にの小迷宮では坑道タイプや塔タイプがあって、登るものや上下に移動しつつ奥へ向かうものもある。入る前に情報収集を怠らないように」
迷宮には道だけでなく進み方にも色々あるようだ。
「お前達は1階から地下3階までを探索してもらう。地下2階から転けたり足が沈み込むような罠が出てくるから注意するように。迷宮内で拾った素材や道具は自由にしていい。組合で買い取ることもできるぞ」
馬車で話した罠が出てきた。
1階と地下1階は罠がなく、地下2階から罠が出てくる。
その罠はよく見なくてもすぐにわかるような物から、じっくり見ないとわからないものもある。
足首の位置に張られたロープや、色の変わった地面などに気をつけるように注意された。
「出てくる魔物は獣と虫だ。地下3階までならそこまで強くないが、油断したら大怪我をする。あと、下の階から魔物が上がってくることもあるが、その時は無理して戦わず逃げるように」
出てくる魔物は野犬、ネズミ、コウモリ、蜘蛛、芋虫やダンゴムシなどが魔物化したものらしい。
さらに深いところに行けばカマキリやオオカミ、イノシシにクマやヘビなんかも出てくるそうだ。
もちろんウチと縁のあるウサギも出てくる。
深いところの魔物の一部は食用肉としても重宝されていて、小迷宮都市の食糧供給源でもあるらしい。
さすがにカマキリは食べないそうだけど。
「各パーティ引率者の言うことを聞いて、無事に帰ってくるように。以上、解散」
質問は引率者にということで解散となった。
ウチのパーティは採取訓練と同じくカインとネーナなので、気心知れた仲間にホッとした。
・・・明日は迷宮都市に到着や!頑張るで!




