原因は不明だけど現象は把握
「原因不明やったかー」
「あぁ。原因は不明だ」
「『は』ってことは、他に何かわかったん?」
「そうだ」
原因は不明だけど何が起きたのかはわかったというのは、誰が事をおこしたのかはわからないけれど、何をしたのかはわかったということだ。
ややこしいけれど、何もわからないよりいい。
それに、起きたことを調べることで、類似の事件を調べて原因がわかることもあるはずだ。
「簡単に言うと、あの村のあった土地の周辺から魔力がなくなっていた」
「へー」
「それだけか?」
「生き物や土地にあるはずの魔力がないっていうのはわかったけど、それがどれだけ大変なのかはわからんわ〜」
この世界の生物は、植物も含めて全て魔力を持っている。
体の大きさに比例するわけではないが、成長と共に扱える魔力が増えるので、魔物の場合は大きいほど警戒が必要だ。
そして、生物は死んだ時に体内の魔力が凝縮されて魔石を作る。
小さな植物の魔石は目に見えないほど小さく、少なくとも子供程度の大きさにならないと目に見える石を残さない。
そのため、キノコなどは採取した時点で生物としては死ぬのだが、目に見えない魔石は中に残り続ける。
その魔石ごと調合に使われていることから、効力の一端を担っていると研究結果があるそうだ。
土地の魔力は、その地の植物や生物に影響していると言われているが、多ければ魔力が回復しやすくなったり魔物が生まれやすいということぐらいしかわかっていない。
「生き物にとって魔力は空気のようなものになる。無ければ体に負担がかかってやがて死に至る。土地の魔力がなくても空気は流れるので簡単に死にはしないが、魔力の影響をモロに受ける魔物には死活問題だ」
「ふーん」
「あの村の近くに魔物が少なかったのは、魔力がなかったからということになる」
「少なかった?ガドルフ達と出た時は魔物が出なかったけど?」
「時間経過で土地の魔力が回復したのだと推測している」
ウチが出ていく時は土地の魔力がないせいで、周囲の魔物が生息できず居なくなっていた。
それが次の村まで影響していたということになり、今回の調査の段階で少し魔力が戻っていて、魔物が活動できる状態になっているため、村の近くでも少しは魔物と遭遇したそうだ。
「村人の遺体がなかったのは、魔力がない間に獣が入り、遺体を漁ったようだ。痕跡があったからな」
「獣は魔力がなくても大丈夫なん?」
「体内の魔力が少ないからそこまで影響はないはずだ。あっても多少居心地が悪い程度だろう」
「へー。じゃあ村人が死んだのは魔力がなくなったからなん?」
「そうだと思われる。ゆっくり魔力がなくなったのであれば、魔力を使い果たした魔石が残るはずなのだがそれもなかった。つまり、急激に魔力がなくなったため、命を落としたのだという結論になった」
廃墟を隅々まで探索しても、魔道具の部品はあれど魔石はなかった。
サージェの言うゆっくりと魔力が失われた場合、魔道具は形が残り、魔力のなくなった魔石が嵌っているはずなのだ。
それがないということは、徐々に魔力が失われたのではなく、一気に周囲の魔力がなくなったということになり、生き物はその負荷に耐えられず死亡する。
そして、遺体は獣に食べられるというわけだ。
「獣が魔石を食べたというのはないん?」
「ないな。遺体の分はともかく、魔道具を壊してまで食べるはずがない。そもそも獣では壊せないほど頑丈な魔道具でさえ魔石がなくなっていたのだ」
ウチの予想はすでに検討されていたようで、即座に否定される。
サージェの予想が正しいとしたら、誰がこんな事をしたのか判断しづらそうだ。
「原因の予想はあるん?」
「強力な魔法生物か、周囲の魔力を一気に吸い取って稼働する大型の魔道具だと思われるが……。あくまで予想の範疇を出ない」
魔法生物であれば噂になっていてもおかしくない。
それなのに聞いたこともないので、さっき出ていった役人が過去の文献をあたることになっている。
魔道具が原因であれば、吸い取った魔力で何かしらの現象を起こしているはずだが、そのような痕跡はない。
北にある魔導国の仕業だとしても、とった魔力の行方がわからなければ追跡しようもない。
調べた挙句違っていれば大事になるため、表立って調査できないことも枷になっている。
「ウチが生きてるのは固有魔法のおかげ?」
「そうだろうな。失われる魔力より、生み出す魔力の方が多かったのだろう。魔力路が壊れていなければ一角の魔法使いになれただろうに……」
サージェは小さく勿体ないと呟いた。
魔法使いとして有名になるか、固有魔法で安全に活動できるかで言えば、ウチは後者の方がいい。
強力な魔法を使えたとしても、致命傷を受けたら終わりなのだから。
・・・これで村が崩壊せずに家族といられたら最高やねんけどな。その場合は固有魔法ないんやろうけど。
「つまり、調査の結果原因は不明で引き続き調査中。わかった内容を領主から国に報告して、もう一度開拓するか判断ということになった」
「開拓する人集まるん?ウチならそんなこと起こった場所を開拓するのはごめんやで」
「集まらないだろうから、領主が集めるんだ」
「強制ってこと?」
「そうだな。もちろん人を出した村や家には謝礼金が支払われるし、開拓民には支度金を多めに出したり、兵士の駐屯地を近くに作るなど対策はするだろう」
「へー」
集める方法が強制じゃなくてお金で解決なのはいいと思う。
無理矢理曰く付きの村に連れて行かれて、開拓を命じられてもやる気は出ないはずだ。
お金で納得できた人が集まるなら、それに越したことはない。
「とりあえずウチは今まで通りって事でええやんな?」
「そうだな。請負人見習いとして活動し、請負人を目指すといい」
「わかった!」
「エルちゃんは迷宮実習まだなのよね?」
「せやで。近いうちにやるっぽい事をハロルドさんが言ってたけど」
サージェとの話が終わると、キュークスが迷宮実習について聞いてきたので、ハロルドが言っていた事を伝える。
そうしたらガドルフ達3人で目配せしてから頷いた。
「エルちゃんが迷宮実習で小迷宮へ向かう時、わたし達も行くわ」
「俺たちもそろそろ迷宮に挑戦してみたかったからな。いいきっかけだ」
「迷宮は戦闘が多いからな!腕がなるぜ!」
3人は迷宮に挑戦したことがないらしく、ウチに合わせて付いてきてくれることになった。
ただ、付いてきたとしてもパーティを組めるわけではないので、それぞれで潜って後で報告するだけになる。
・・・迷宮楽しみになってきたわ!




