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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い
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これからのこと

 ウチと両親については、これ以上手がかりがないということで、一旦置いておくことになった。

 領主様に報告した後に行われるはずの調査の結果、何かわかるかもしれないけれど、今はどうしようもない。

 そうなると次はこの先どうするかという話しになる。


「エルさんには3つの選択肢があります」

「3つは多いん?少ないん?」

「エルさんの年齢だと多い方ですね。内容は普通です。大人だと色々な職の選択ができるのですが、エルさんは子供なので」

「へー」


 子供だとできることは少ないので、選択肢が限られる。

 内容が普通じゃない子供の選択肢が気になったけれど、まずは今選択できることを確認する。


「一つ目は子爵領で体調に問題がないか検査した後に、育った村から1番近いこの村に戻り、村の孤児になることです。開拓村が無事で両親が亡くなった場合、その村の孤児として生き、成人の18歳になれば村の人と結婚するのですが、場所がこの村に変更となります」

「村の孤児はどうやって生きるん?」

「村長とその周囲に育ててもらえますが、小間使いとして家のことや畑のことをやらされることになります。その分食事はしっかりと出るのですが、結婚相手も村長が決めるのであまり自由はありません。ですが、今までと同じように生活ができますし、結界の中に居られるので安全です」

「使い勝手のいい使用人を抱えられるチャンスだから殆どの場合受け入れられるだろうな。エルは女の子だから嫁が欲しい家があれば結婚できるだろう。あまりいい関係にはならないだろうが」

「こき使われるのが村長から結婚先の家に変わるだけってこと?」

「そうだ。実家の後ろ盾もないから、ある程度雑に扱っても文句は言われない。エルなら固有魔法があるから直接害されないだろう。反抗的なら食事を抜かれたりするだろう」

「えぇ〜」


 どうしてそうなるのか詳しく聞いたところ、部外者を受け入れるのだから苦労して当たり前という考えらしい。

 育てるのに費やした費用を回収できれば御の字、ダメでも嫁の貰い手がいないところで子供を産めれば後は家で育てるそうだ。

 見目麗しかったり一芸に秀でていれば村長の家系や力のある家に迎え入れてもらえて、大事にされることもあるそうだが、今の時点ではどうなるかわからない。

 この案は全員から渋い表情をされたのと、将来が不安なので却下した。


 ・・・自由もないし、好きでもない人と結婚するのは嫌やなぁ。特に将来何かしたいわけではないけど、もう少し楽しく生きたいわ。


「2つめは子爵領の孤児院に入ることです。孤児院に入れば歳の近い子供と一緒に育ちますし、一通りの読み書き計算や家事などを教えてもらえます」

「ほうほう。この村の孤児より良さそう!」

「ですが、孤児院は良くも悪くも平等なので、固有魔法があると周囲から浮くと思います。固有魔法のおかげで裕福な家庭に引き取られる可能性もありますが、それは現時点ではなんとも言えません。固有魔法の詳細もわかっていませんので」

「子供同士だから喧嘩もするでしょうけど、エルちゃんだけが怪我しなかったら、距離を置かれることになりそうね」

「孤児院の管理人も持て余すだろうな。そういう時は数の少ない方が槍玉に上げられるもんだ」

「めっちゃ面倒やんそれ……」

「そうですね。将来としては学んだ事を活かせる何かの職につく事になります。女性は商会の事務や酒場の給仕、染色や機織りなどの屋内仕事。男性は建築や木工などの主に力を使う外の仕事が多いです。働きながら孤児院から出た後に住む場所を整えて、縁があれば結婚できる生活になります」


 村の孤児として生きるよりは楽しそう。

 安定して育つことができて、教育も受けられる。

 その先にあるのは働いて1人で住み、結婚するかもしれない未来。

 成人していれば当人同士だけで結婚できるそうだが、大抵は近所で一緒に育った誰かや、仕事先から斡旋された相手と結婚する。

 出会いを求めるなら給仕などの人と関わる仕事をするべきで、堅実に仕事をしていい相手を紹介してもらいたいなら屋内仕事になる。


 ・・・結婚は全然わからんからなぁ。色々できることがあるのは嬉しいけど、孤児院での生活がどうなるかちょっと不安や。一旦保留やな!


「3つ目はガドルフさん達のように請負人になることです。エルさんは子供なので見習いとして雑用や訓練になりますが、住む場所はあります」

「請負人は何するん?」

「請負人は請負人組合に登録された依頼を請け負って実行する者のことだ。魔物や獣を倒す討伐。指定された物を取りに行く採取。指定された場所や地域を調査する探索。村や町の細々とした仕事をやる雑事。指定された人や物を守る護衛。領地争いに駆り出されたり商会や地域に雇われる傭兵の6つだな。これをどれだけこなしたかで0から10まで信用度があがる」

「おー」


 請負人のことは請負人に聞けばいいとガドルフに聞いた。

 いろいろな仕事を請け負って稼ぐ人達で、請負人が仕事を受けやすいよう、依頼や納品された物を管理する請負人組合が存在している。

 依頼として出しているわけではなく、常時持ち込み可能な素材や魔物の討伐報告も受け付けているらしく、自分に合った依頼がなくても稼ごうと思えば稼ぐことができる。

 雑事などの誰でもできる仕事に関しては駆け出しや見習いに割り振り、空いた時間で野営の仕方や戦い方をベテランから学ぶ。

 それでも消化できないほどの依頼が溜まっている場合は、組合から仕事が割り振られることもある。

 そうならないように孤児や農村で仕事がない子供を請負人組合に斡旋するのも、現役の請負人や各地に赴く商人の仕事でもあるらしい。


「依頼は気分が向いてる事を中心に受けるのよ。満遍なく受ける人もいれば討伐しか受けない人もいるわよ。そこに」

「おいおい!俺は採取と護衛もしてるぜ!」

「私たちが受けなかったら討伐しかしないでしょ」

「まぁな!戦う方が楽しいし、生を実感できる!」


 ベアロは戦うことが好きで、パーティを組む前までは討伐ばかり行っており、ついでに素材を集める程度の採取しかしていなかった。

 ガドルフ達とパーティを組む事で、1人ではできなかった護衛も受け始めている。

 今回の護衛もキュークスとガドルフが経験のために受けたいと言ったので、ベアロも参加となった。

 ベアロとしては強い魔物と戦えるのではと期待していたそうだが、僻地では戦闘がなくて内心ガッカリしている。


「エルさんの場合組合寮に住みながら請負人見習いとして雑事と近場での採取を中心に仕事をします。ある程度大きくなったら戦闘方法を学び、討伐の仕事を受けても良くなります。戦えないと討伐、護衛、探索、傭兵はできません。エルさんの場合探索だけなら固有魔法でできるかもしれませんが」

「攻撃を受けなければ深い場所に採取も受けられるな。魔力が尽きたらすぐに死んでしまうが……」

「それは嫌や!」


 ・・・死ぬかもしれない仕事はやりたくない!危険な仕事の方が稼ぎもいいらしいけど、死んだら全部終わりやからな。やるとしても固有魔法の使い方やどこまで耐えられてどれだけ保つかがわかってからや!


「請負人の将来はどうなるん?」

「戦いで死ぬ事以外だと、請け負った仕事から懇意になった商会で傭兵として雇ってもらえたり、何か売れる商品を考えて商会を構えたりしてるな」

「田舎に家を構えて畑をのんびり耕す人もいれば、街中に宿屋を作って請負人を支援してる人もいるわよ」

「戦闘方法を教える仕事に就いたやつもいたな!他にも猟師として村に所属したり、探索ばかり行って学者になった奴もいる!運が良ければ貴族のお抱えになれたり、騎士や兵士の募集に参加できるぞ!」

「色々あるんやな〜」

「おう!請負人は自由だ!実力があればどこにでも行けるしな!」

「依頼を受けるのも、しばらく休むのもね」


 請負人がどの仕事を受けるのか、どれだけ休むのかは基本的に自分で判断して決める。

 護衛をしたくないなら他の仕事を受ければいいし、稼ぎがあれば数日休んでも問題ない。

 将来についても手に職がない分不安があるけれど、選択肢は多い。

 依頼の伝手から起業してもいいし、誘われた場所で護衛をし続けるのもありだ。

 成功も失敗も自己責任なので子供には厳しいが、見習いならある程度の教育と雑事の斡旋もしてもらえる。

 なによりも自由だ。


 ・・・上手くいくかわからんけど、請負人が1番楽しそう!自由ってところにも惹かれるものがある!ダメだったらその時考えるしかないけど、その時は普通の仕事につくこともできるらしいし、孤児院より気は楽そうや!


「ウチは請負人見習いになりたい!」


 そう言ったらベランはとてもいい笑顔になった。

 請負人として活躍できそうな固有魔法があるエルを勧誘できたとあれば、組合からの評価が良くなり、商会へ貴重な素材を売ってもらうなどの融通が通りやすくなるそうだ。

 ガドルフ達が勧誘するよりも商人の方が評価の影響があるので譲っている。


 ・・・もしかしてウチは誘導されたんか?!否定的なこと言われへんかったし!……まぁ、3つの中からやったら請負人一択やからええけどな!


 ちなみに、子供に対する普通じゃない選択肢は貴族や商会の養子となることだった。

 さすがに何も伝手がない状態では候補にすらならないし、ベランもあったばかりの子供を養子にするつもりはなかった。


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