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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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ニワカツとボーラ

 

 草原ウサギと草原ニワトリの解体をお願いし、食事処で昼食を取った。

 ウサギとニワトリの肉を持って宿に戻り、いつものように女将さんに渡す。


「今日も差し入れてくれるのかい。しかも草原ニワトリの肉まで」

「草原ニワトリの肉でカツ作ってほしいねん。名前はニワカツでどない?草原ウサギはおまけ」

「さすがウサギ狩りだね。わかった夕食はニワカツにするよ。チーズと普通のやつを小さめに用意して、レモンを添えて出すさ」

「よろしく!」


 夕食の依頼をしたので自由時間だ。

 ちなみに街の外に出るとほぼ毎回ウサギ肉を取ってくるので、ウチの食事は無料になっている。

 普通は毎回肉を取らず色々な依頼を受けるのが請負人だ。

 たまの獲物として珍しい肉を使って食事を作ってもらう程度のはずなのだが、ウチの場合は持ち込みすぎていて、十数人分の肉を賄えている。


「なにしよ。んー、遠距離武器を探しに行くか?」

「なんだ嬢ちゃん。遠距離に手を出すのか?ショートボウでも嬢ちゃんには引くのは厳しいだろう。扱えてもスリングショットかボーラぐらいじゃないか」


 肉も渡し終わったので、食堂でぼんやりしながらこの後のことを考えていると口から漏れてしまった。

 それを聞いた先輩請負人が、ウチを見ながら弓は難しいだろうと判断する。

 たしかにウチの背丈で引ける弓は威力も低くなるはずだ。

 それでは倒すどころか足止めにならないかもしれない。

 それよりも後で名前の上がった2つはなんだろうか。


「その2つはどういうやつなん?」

「スリングショットはこれだ。遠くから痺れ薬や眠り薬を飛ばすのに使えるぞ。ただ、これで倒すには飛ばすものを工夫しないといけないし、近づかれたら剣の方が早い」

「不意打ち用?」

「そう考えてくれていい」


 先輩請負人が取り出したのは、持ち手の先が2又に分かれたもので、分かれた先にはビッグフロッグの舌を巻き付けてあるそうだ。

 その舌が伸縮するので、飛ばしたい物を持ったまま舌を引っ張り、手を離すことで勢いよく飛ばすことができる。

 何も持たずびよんびよんと何度も引っ張って見せてくれた。


「ウチには無理やな」

「大人用のサイズだからな。子供用だと……やっぱり威力は落ちるな」

「それだと武器にならん?」

「薬を飛ばすか、良くて牽制程度だな」

「そうやんなぁ……」


 スリングショットを貸してもらって、ぺいんぺいんと舌を引っ張ってみた。

 大人用なので満足に引けず、持ち手付近まで戻る程度で、先輩請負人みたいに持ち手の向こうまで飛ばない。

 子供用を買っても牽制程度であればあまり惹かれない。

 当てるために結構な技量もいるようなので、もう一つの方を聞いてから判断しようと思う。


「もう一つのボーラ?っていうのはどういうやつ?」

「ボーラはこれだ」


 先輩請負人が取り出したのは短めのロープで、その両端にはそれぞれ石が巻かれている。

 振り回して殴るなら片方にだけ石があればいいので、両方にある意味がわからない。

 まじまじと見ていると、実践してくれるということで宿の外に出て、宿が管理している畑近くに移動した。


「これは勢いをつけて投げて、ロープを絡ませて動きを阻害する物だ」

「石で殴るんやないんかぁ〜」

「もちろん石が当たる時もある。その時は勢いがついているからそれなりのダメージを与えることができるぞ。使い方はこうだ」


 右手でロープの真ん中を、左手で石のついた端付近を持って、右手を回してその先にある石を振り回す。

 ふぉんふぉんと円を描きながら振り回される石。

 じっと見ていると回転している石が正面に来る直前で右手を離し、少し遅れて左手を離した。

 ボーラは横に回転しながら、近くの畑にある柵に向かって横に回りながら飛ぶ。

 柵にロープが当たると、そこを支点にぐるぐると絡まった。

 柵が足だとしたら歩くことはできないだろうし、勢いよくロープが巻き付けば足が閉じて動かせなくなりそうだ。


「こんな感じで相手に絡ませるんだ。投げやすいように左手で短くしたが、右手だけで回して投げてもいいぞ」

「はー。すごいなこれ」

「動きを止めるのには丁度いいぞ。そうだな……お嬢ちゃんに合わせて一つ作ってやろう」

「ほんま?!おおきに!」


 先輩請負人はウチの腕の長さを測ってロープの長さを決め、程よい重さの石を2つ結んでくれた。

 早速振り回して狙った場所に投げられるよう練習する。

 思ったより簡単で、手を離すタイミングである程度コントロールできることがわかった。

 これならウチにも使えると、柵に向かって試したところ、石に部分が当たって柵が折れてしまった。


「やってもうた……」

「あー、まぁ、仕方ないよな。こういうことはよくあるさ。場所をはっきりさせるための柵だし、多分大丈夫だろうけど、説明はしないとな」

「せやな……」

「俺も一緒に謝るからさ」


 2人で戻って女将さんに謝った。


「次からは気をつけなよ」

「ごめんなさい」


 ため息混じりで許してくれたけど、修繕費はウチに払うレシピの代金から引かれることになった。

 ウチがやらかしたのだから、それに対して不満はない。

 この後は組合の訓練場で夕食まで練習して、ほとんど狙い通りの場所に投げられるようになった。

 石が当たるのは仕方がないので、そういう攻撃だと思うことにする。


「それはボーラ?」

「そう。宿におった先輩請負人から教えてもらった!」

「いい案」


 翌日の狩りでアンリにお披露目した。

 昨日の今日で対策をしてくるとは思ってなかったようで、少し驚いていた。

 そして、ウチならば失敗しても攻撃を受けないので、とりあえず最初に投げれば後が楽になると助言ももらった。


「いくで!てや!」

「コケェ?!」


 ウチの投げたボーラが草原ニワトリの首に当たる。

 そして絡みつくロープ、最後に石によるダメージも受けた草原ニワトリは、バランスを崩して倒れる。

 何が起きたのかわからずもがいているところに、ハンマーを振り下ろして倒すことに成功する。

 続けてもう2羽倒した結果、ウチの標準装備に追加することが決まった。

 3羽目は頭に石が直撃して怯んだところに横からハンマーやったけど。


 ・・・もう少し数が欲しいな。外したとしても、もう一回投げたい。縛れたら楽に倒せるし、石が当たってもいい。めっちゃ便利やわ。


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