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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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57/305

草原ニワトリ

 

 1日休んで疲れが取れたので、今日からまた請負人見習いとして働く。

 とはいっても、今日のところは草原ニワトリに挑戦するので、依頼をこなすわけではない。


「草原ニワトリ?わかった」


 請負人組合でアンリと合流した後、草原ニワトリを狩りたいと伝えたら、二つ返事で了承してくれた。

 そして草原へと向かい、草原ウサギを狩りながら森とは反対側へと進む。


「この辺りから草原ニワトリの縄張り。もう少し進むと虫の魔物が増える」

「虫かー」


 今歩いている草原は、草の高さが足首程度で歩きやすい。

 もう少し進むと徐々に高さが上がってきて、最終的にはウチの背の高さぐらいになるらしい。

 そこには花畑や小さな湖があったり、木がところどころに生えていて、草食動物の休憩場所として活用されている。

 花畑があることからハニービーや蝶々の魔物もいて、栄養豊富な土にはお化けミミズというミミズが巨大化した魔物もいる。

 そのお化けミミズを餌にしているのが草原ニワトリで、普段は短い草原にいるけれど、食事の時は背の高い草むらに入る。


「大きな虫は気色悪そうやな」

「動きは独特。慣れても少し嫌な動きもある」


 アンリが口の前で手のひらを合わせて指先だけをわきわきする。

 それだけで虫の口から出ている何かが蠢いているのが想像できて、少し嫌な気持ちになった。


「あれ?エルじゃないか」

「んぉ?カインとネーナ!」


 アンリとのんびり進んでいたら、後ろから採取訓練で臨時パーティを組んだカインとネーナがやってきた。

 2人はここまで特に戦闘がなかったのか、荷物が増えた様子はない。

 もしかしたら魔石だけ取っているかもしれないが。


「ここまで草原ウサギがいなかったのはエルのおかげか」

「さすがウサギ狩りですね」

「そんなに狩ってへんで。4羽やし」

「移動するだけで4羽狩るのは相当だろ。普通は見習いに持ち帰る方法なんてない数だからな」

「……せやな」


 魔力で中の物の重さを軽減する軽量袋がなければ、ウチも草原ウサギからは逃げるか魔石だけ取るかになる。

 見習いなのに持てたのはレシピが売れたからで、そうそうない幸運なことなのだ。


「それで、エルちゃんはこれからどこに行くのですか?」

「草原ニワトリに挑戦すんねん」

「おぉ。見習い泣かせと戦うのか。頑張れよ!」

「息を吸い込んで溜めを作ったら鳴き声がくるので注意ですよ」

「助言おおきに!気をつけるわ!2人も草原ニワトリ?」

「いや、俺たちはハニービーの巣を採取する依頼だ」

「最近売れ行きがいいそうで、追加のハチミツを仕入れたいそうです」

「へ〜」


 ・・・もしかしてウチの泊まってる宿が原因か?ウチがハチミツ食べたりパンに付けて食べてたから、それが一部に広まってたし。宿ではニンジンハチミツ水作るのにも使ってるからな。


「それじゃあまたな!」

「気をつけてくださいね」

「そっちもな〜」


 2人はアームベアを見たことから、今の自分達では遭遇したら逃げられないと判断して、草原でできる依頼を中心にお金を貯めて、個別指導を受けているそうだ。

 身体強化が今よりも強く発動できるようになったら森に挑戦するらしい。

 そんな2人と分かれて草原を歩いていると、巨大なニワトリに遭遇した。


「目付き怖ない?」

「鋭いのは否定しない」


 やっぱりウチより大きい草原ニワトリは、鋭い目つきで周囲の土を素早く確認して、時たま鋭い嘴で突いている。

 嘴が大きいので、周りが穴だらけになっていた。

 大きさと目付き以外は普通の鶏と同じで、白い羽に赤いトサカがある。

 足の爪は鋭く尖っていて、軽く引っかかれただけで結構な傷ができそうだ。

 掴まれたら爪が食い込んで酷いことになりそうだけど、ウチの場合は固有魔法があるから問題ない。


「先手必勝やぁ!!!」

「コケェ?!」


 振りかぶって全力で振り下ろしたけど、避けられてしまった。

 大振りすぎたかもしれない。


「隙をつくなら声はいらない」

「気合が入ってもうてつい……」


 声が原因だった。

 気を取り直して草原ニワトリを見る。

 羽を広げて大きく見せようとしているけど、閉じていてもウチより大きいので、きっとアンリに対して威嚇しているのだと思う。


「いくでぇ!」


 ハンマーを短く持って小さく振るう。

 だけど、草原ニワトリは羽ばたきながら後ろに飛び下がり、難なく避ける。


「コケッ!」


 そして地面を滑る力を溜めて、勢いよくウチに向かって足を出しながら飛び込んできた。

 普通なら攻撃の隙を突かれているはずだけど、ウチなら問題ないので何もせず受け止める。

 咄嗟にできることがないだけなんだけど。


「コケェ?!」


 硬いものを蹴ったような反動を受けた足は、爪がポッキリと折れていた。

 若干変な方向にも曲がっていて、地面に付かせず片足で立つようになった。


「チャンスや!」


 勇んでハンマーを横に振るう。

 しかし、またもや羽ばたいて後ろに下がられる。

 バランスも羽ばたきで取っているようで、距離が空いても何度か羽をパタつかせている。


「はぁ、はぁ、逃げんなー!」


 何度も追いかけて振るうも結果は同じで、ずっと避けられ続けた。

 その結果、先に力尽きたのはウチだった。

 草原ニワトリは最初の攻撃以降ずっと避けに徹しているので無傷。

 片やウチはハンマーを振りながら追いかけるので息は上がって、ハンマーを持つ手もプルプルし始めた。

 こうなったら痺れ薬を使った自爆しかない。

 そう考えてポーチに手を伸ばしたところで、草原ニワトリの胸が大きく膨らみ、痛めた足すら地につけた。


「コケェェェェェェコッコォォォォォォォ!!!!」

「うっさいわ!」


 ビリビリとした振動を感じるほどの鳴き声が放たれた。

 思わずハンマーから手を離して耳を塞ぐほどだったが、それだけで済んだのは固有魔法のおかげだろう。

 アンリに至っては遠く離れた場所で耳を塞いで顔を顰めているほどだ。

 固有魔法がなければ気を失っているのだと思う。


「コケッ!」


 両手で耳を押さえているウチに向かって、草原ニワトリの嘴が突っ込んできた。

 ウチを鳴き声で弱らせたと考えているのだろう。

 残念ながらただうるさいだけだった。

 それでもハンマーから手を離しているので、なす術なく嘴を受けるしかない。

 腰につけたナイフを抜いて何かする余裕もないほど、素早く突っ込んできたのだ。


「コッ!コケェ〜……」


 しかし、草原ニワトリは嘴をウチに強打して頭を揺らしたからか、そのまま気を失ってぽてりと横に倒れた。

 あっけない最後やったけど、ウチの勝ちに変わりはない。

 随分消化不良ではあるけれど。


「とりあえず、首を切れば、ええんやんな?」

「そう」


 いつの間にか近くに戻ってきたアンリに聞いて、首を切りしばらく血が流れるのを待つ。

 その間に反省点を上げていくのだけど、ウチの攻撃が当たらない時点でもっと早くに対策を考えるべきだと指摘されて、何も言えなかった。

 結果として石を投げるなど、距離を空けても攻撃できる手段を探すことになった。


「消化不良やからウサギも狩るわ」

「わかった」


 もう一度草原ニワトリと戦う気は起きなかった。

 でも、一度も攻撃を当てれなかったモヤモヤがあるので、八つ当たり気味に草原ウサギを倒してから街に向けて移動する。

 遅めの昼食を取ってから解散することになった。


 ・・・草原ウサギ6羽に草原ニワトリ1羽じゃ、ウサギ狩りは健在やな。むしろウチには合ってるのかもしれん。少なくともニワトリを倒す方法が出てくるまでは。


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