カツの改良
アームベアと戦った翌日。
疲れが溜まっていたようでお休みにした。
体の芯が重く、なんとなくぼんやりしていたので、この状態で戦うのも掃除をするのも大変だからだ。
ひとまず請負人組合へ行ってアンリに休むことを伝えた後、市場でリンゴを買ってから宿へと戻る。
ハニービーのハチミツはまだ残っているので、かけられた声にまた今度と返事して市場を後にする。
「おや?お嬢ちゃん、今日はお休みかい?」
「せやで。ちょっと疲れが溜まってて。だいぶ良くなってきたけど、今日はのんびりや」
「そうかい。だったらちょうどいいね。ウサカツの件で相談があるんだよ」
「ウサカツで?」
宿に追加された一番高いメニューだ。
パン粉作りがポコナの仕事になったそうで、硬いパンをゴリゴリと削るのが楽しくて仕方がないとこの前話してくれた。
「ウサカツなんだけどねぇ。数が出ないんだよ。味が悪いわけじゃなくて、重いみたいでね。何か解決策はないかい?」
「重い?ウチは普通に塩で食べてるけど」
「お嬢ちゃんは1枚だけだからね。ステーキなら5、6枚食べる人がカツだと3枚で終わるんだよ」
ウチは美味しく食べていたけど、そもそもの基準が違っていた。
油で揚げたものをたくさん食べたら重くなるのは当然だけど、量がでないことが気になっているそうだ。
「衣がパンからできとるし、油で揚げてるから重くなるのは仕方ないと思うけど……うーん。味付けを変えるとか?」
「味付け?ドレッシングかい?」
「いや、ドレッシングは合わんというか、油をかけるからさらに重くなるで」
ウサカツにドレッシングをかけた姿を想像しただけで胸焼けしそう。
ハーブを入れたドレッシングとはいえ、油に油だ。
どう考えてもさらに重くなるだけで終わる。
「レモンってある?」
「レモン……少し値段が高いけどあるよ。レモンをどうするんだい?」
「絞った果汁をかけたらさっぱりして食べやすくなると思う。後は、パン粉にハーブを混ぜるとか、お肉でチーズを挟んで揚げるとかかな」
「そんな方法があるのかい。後で試してみるよ」
レモンは市場で見かけなかったけどあるようだ。
チーズは牛乳を取り扱っているお店の近くでよく売られていて、柔らかいチーズと硬いチーズが並んでいた。
その硬いチーズをお肉で挟んで揚げてもらうことになった。
「後は肉を変える方法だけど、牛も豚もこの辺りでは多く出回ってなくてね。何か他にいないかい?」
牛や豚は農村で育てられており、食べるのは農村の村民かお金持ちが買取るかになる。
街の人が食べる肉は基本的に魔物の肉になる。
豚や牛の魔物が出てくるところであれば、その肉を使うこともできるのだが、あいにくこの街の近くには出ない。
「この辺の食べられる魔物って何になるん?」
「お嬢ちゃんがよく狩ってくれるウサギの他にニワトリの魔物だね。後は森の中でヘビや鳥、イノシシやクマってところだけど、狩りやすいのはヘビとニワトリだ」
「ならニワトリやな。ヘビは……できるやろうけど美味しいかは分からん」
「そうかい。なら、草原ニワトリの肉も試した方がいいようだね」
「草原ニワトリ……」
確か草原ウサギを倒せるようになった見習いが、次に戦う相手として有名な魔物。
さらに見習いに対する魔物の洗礼を浴びせてくることも広まっている。
草原ウサギは大きな体による体当たりに気をつければ楽に倒せるけれど、草原ニワトリは跳び回ることで素早く動き、鋭い足の爪で切り裂いてくる。
さらに大音量の鳴き声で耳を攻撃してきて、運が悪ければ気を失うことになる。
そこを攻撃されたら命を落とすことにつながるので、パーティで挑む練習としてもいい相手だ。
「そろそろお嬢ちゃんもパーティ組んで、草原ニワトリに挑んでもいいんじゃないかい?」
「そうやな。それもありかもしれん」
・・・ニワトリ狩ればウサギ狩りから脱せる気もするし。そのかわりニワトリ狩りとか呼ばれそうやけど。ウサギ狩りの方が語感がええな。
「休みのところ色々ありがとね。これから買い物にいってくるよ」
「行ってらっしゃーい」
女将さんが買い物に出かけた。
ウチはそのままのんびりと食堂で過ごし、ポコナがきたら2人でリンゴを食べた。
そのうちに女将さんが戻ってきて、草原ニワトリのカツを作り、レモン果汁をかけたものを試食として出してくれた。
やはり、レモンをかけるとさっぱりして食べやすいようで、他にも試食をした人たちが、これならステーキ並みに食べられると盛り上がっていた。
・・・なんとなくカツ用のソースがあればいいと頭に浮かんでるねんけど、それの作り方まではわからん。作り方がわかれば用意するねんけどなぁ。
ふと頭に浮かんだことを考えているうちに夜になり、ウチの休日は終わった。
明日はせっかくなので草原ニワトリを倒しに行ってみようと思う。
・・・ウチなら大声で鳴かれても大丈夫やろ。たぶん。




