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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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55/305

一応仲直りか?

 

 角ウサギと森ウサギそれぞれ1羽ずつに遭遇しただけで、森の外へと出ることができた。

 すでに乗合馬車は到着していて、客の請負人が時間潰しなのか素振りをしている。

 そんな中にアームベアを背負ったアンリさんが見習いを連れて出てきたので、小さな騒ぎになった。

 ホロンの状態を見る人、いちゃもん君の傷に手当てをする人、アンリから事情を聞く人に分かれて、無傷なウチと汚れているけど怪我はないベルは軽い確認の後放置された。


「よーし!出発するぞー!」


 御者の合図で馬車が動き出す。

 時間までに全員が戻ってきたので、それぞれの獲物がわかるように荷運び用の馬車に積み込んでからの出発だった。

 ホロンは大型な請負人のおじさんが抱えて座り、それ以外の人達で揺れても受け止められるように周囲を囲んでいる。

 もしも馬車が揺れて倒れたら、おじさんの壁に突っ込むことになる。


 ・・・そんなことウチはごめんやで。


 ウチは行きと同じようにアンリの膝上で、隣にはベル。

 その隣にはジッとホロンを見ている包帯がいっぱい巻かれたいちゃもん君。

 ウチはベルと色々なことを話しながら、馬車に揺られて街へと帰った。


「それじゃあパーティごとに買取するぞー。買い取られたくないものは個人で持っとけよー」


 街の馬車乗り場で降りた後、素材を乗せた馬車と一緒に組合へ戻ると、買取所の人達が数人出てきて固まりごとに査定を始める。

 ウチは軽量袋を回収して、個別で頼まれていたキノコが入った袋と、アンリが解体した角ウサギの肉が入った袋以外をアームベアの上に乗せた。

 肉は宿屋への持ち込みで、キノコは依頼完了処理をしないといけないのだ。


「怪我した見習いは部屋に連れて行くぞ!医者を呼ぶかはパーティのやつが判断しろ!」

「あ!わたしがパーティメンバーです!」


 ホロンを抱えた請負人が組合の寮へと向かうのを、ベルが追いかけながら医者を呼んだ方がいいのか聞いていた。

 応急処置まではお互い様ということで協力し合うことは可能だし、使ったものについては後で請求することも、物で返してもらうことも同業者であれば簡単だ。

 しかし、医者となると呼ぶのにもお金がかかり、治療や薬で更に高くなる。

 見習いでも払える程度で済めばいい方で、ひどい時には借金をすることもあった。

 そのため、ホロンのために医者を呼ぶほどひどい怪我なのかを相談している。

 結果として、素人判断より呼んで専門家に判断してもらった方がいいということになったようだ。


「見習いがアームベアに遭遇したらしいな」

「奥だから当然」

「自分から行ったなら自業自得だが、素材集めで気づけば奥だったらちと可哀想だな。それに、訓練が中途半端だったし、教育不足も否めない。希望者には訓練のやり直しをするか」


 素材買取の順番待ちをしていると、ハロルドがやってきてアンリに話しかけた。

 奥へ行ったからアームベアに遭遇したと片づけるのは簡単だが、どこまでなら安全なのかを教えられなかった訓練や立ち入りを許可した組合にも責任はあるということで、希望者には再度訓練を行うことになった。

 ただし、アームベアに攻撃されてもびくともしないウチは除外された。

 アンリと森へ入って自由にさせた方が効率がいいとも言われた。


 ・・・攻撃はアンリさんが、採取はウチが担当すればええもんな。それに、面倒な素材の採取を難なくこなせると買取所の中で話題になってるらしいし。


「おーいエル。頼んでたやつは採れたか?」

「あったで!これに入れてる!一応他にも色々取ったから、それはアームベアの上に乗せてる。美味しいやつ以外買取で!」

「助かった!あっちに入ってるキノコで焼いたり煮たりすれば美味いやつは返せばいいんだな。じゃあ、検品してくるわ」


 渡した袋の中身をさっと確認して依頼完了のサインをもらった。

 依頼品以外は検品の上で美味しいものだけ帰ってくることになったので、宿で何か作ってもらえたらうれしい。


「ひとまずアームベア以外の精算は終わったぞ。あれは解体をしてからになるから時間がかかる。一休みしてきたらどうだ?」

「せやな。何か飲んでのんびりしとくわ」

「おう。終わったら声かけに行く」


 アームベア以外の報酬を受け取って、食事処で休憩する。

 ウチはリンゴの果汁が入った水で、アンリはエールを飲む。

 もう仕事は終わったから、飲んでも問題ないとのこと。


「ウチの弱点についてやけど……」

「速さと攻撃力」

「そうそれ。どうすればええと思う?」

「簡単なのはパーティ」

「でも、ウチは体力もないし、身体強化できへんから難しいんやろ?」

「遠出しなければ問題ない」


 体力については、活動しているうちに付くものだから、気長にやればいいと言われた。

 そもそも子供なのだから、無理せず自分のできる範囲で依頼をこなせばいい。

 生活しつつ、いくらかお金を貯めることができれば上等だ。

 身体強化は長距離を歩いたり、悪路を進むときにも使うため、遠出しないという選択をすることで、弱点を潰すのはどうかと勧められる。


「遠出しないのはええけど、今日みたいにウチに取ってきてほしい素材があるって言われたらどうするん?遠いかも知れへんで?」

「強い請負人を雇えばいい。難しい依頼なら報酬も高い。そこから出せる範囲で大人を呼ぶ」

「なるほど……」


 ・・・ウチが行くと言うより、連れて行ってもらうんやな。それなら悪路も身体強化持ってる人におぶさって進んだりできそうや。


「後は迷宮」

「迷宮」

「外より魔物や貴重な素材も多い。慎重に進まないといけないから、エルに向いているかも知れない」


 慎重に進まないといけないのは、いつどこから魔物が襲いかかってくるのかわからないのと、落とし穴などの罠があることから、警戒が必要だからとのこと。

 小迷宮は洞窟型なので警戒もしやすい分、襲われた時に通路の幅で戦わないといけない。

 中迷宮は森や丘、山などの迷宮ごとに違った環境になっていて、全方位警戒しないといけないけれど、広くて戦いやすい。

 大迷宮は一つしかなく、洞窟から始まって森や草原、火山に海などいろいろな環境に行くことができるそうだ。

 その分とても広大で、日々探索を進めていても全容が全くわからないところらしい。


「迷宮なぁ……」

「少ししたら迷宮訓練があるから、そこで判断すればいい」


 いまいち想像ができなかったので呟いたら、アンリから訓練で行くことになると言われた。

 ある程度戦え、素材採取もでき、自分の身を守れるようになった見習いを、ベテラン監督の元迷宮に連れて行って経験させるそうだ。

 その前に一泊する訓練や近隣の町まで護衛する訓練があるけれど。


「エル。アームベアの精算が終わったぞ」

「おおきに!じゃあ、これを3分割して、はいアンリさん」

「ん」

「残りはどうするんだ?」


 ウチの分をポーチに入れて、アンリさんにも渡したら1/3が残る。

 それを見た解体担当が聞いてきた。


「ん?いちゃもん君に渡すねん」

「いちゃもん君……レオンのことか。まださっきの場所にいたぞ」

「わかった!行ってくるわ!」


 倒したのはウチとアンリだけど、見つけたのはいちゃもん君達だ。

 助けたのだからと全部もらうことはできるけど、いちゃもん君の攻撃でアームベアは傷ついていた分は払いたい。

 何より、武具がボロボロになっていたので、このまま別の依頼に行くのは危ない。

 少しでも安全に依頼をこなす足しにしてほしいのだ。


「おった!」

「なんだ?お前の解体は終わっただろ」

「せやで。ウチはあんたに用があるねん。はいこれ」

「この金は?」

「アームベアのお金。ウチとアンリさんとあんたで分ける」

「はぁ?!受け取れるわけないだろ!」


 いちゃもん君がお金を返してきた。

 手を離せば落としてしまうので、一旦受け取る。


「見つけたのも、ダメージを与えたのもあんたや。その報酬や」

「倒したのはお前達だろ!」

「ええから黙って受け取れ!武具ボロボロやねんから足しにせい!どうしても気になるなら借りにしとき!ウチが困った時に返せばええねん!」


 有無を言わさない勢いでお金を押し付ける。

 今度は返さず受け取ってくれた。

 小さく「助かる……」って呟いたのは聞こえないふりした方がいいのだろうか。


「俺はレオンだ。その……初めて会った時に絡んで悪かった」

「ウチはエル。推薦もらえた理由もわかったやろうし、許したるわ」

「あぁ……」


 納得しているようだけど、殊勝ないちゃもん君改めレオンは落ち着かない。

 とりあえず用も済んだのんで、アンリのところへ戻ることにする。

 でも、とりあえず軽口を言ってからだ。


「じゃあ、また今回みたいなことがあったらウチが助けたるからな!」

「はぁ?!次は倒すから助けなんていらねーし!絶対お前より強くなってやるからな!」

「楽しみにしとくわ!」


 そう言ってアンリのところへ向かう。

 レオンの買取はまだ終わってないようで、買取場に残っていた。


 ・・・とりあえず仲直りにはなったけど、やっぱり軽口を叩き合える方がええわ。レオンはそう言う相手や。


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― 新着の感想 ―
[一言] 腐れ縁、悪友、喧嘩友達? レオン君も言うて子供だものね。
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