森の異変収束
「エル。森へ行こう」
ウチが首を傾げたからか、もう一度言われた。
何度言われても首を傾げる以外の反応はない。
「いやいやいやいや。まだ行っていいって言われてへんし」
「すぐに言われる」
「それでもや!もうすぐ閉門の4の鐘のはずやで!」
「じゃあ明日」
「明日なら……まぁ、ええけど。許可出てたらな」
「わかった。ハロルド、許可を」
いつの間にかハロルドが近くに立っていた。
受付の前でやりとりしていたので、色んなところから見られている。
ミューズすらも苦笑いだ。
「はぁ〜〜〜〜〜〜。明日から許可する」
「行ってええんや」
長い長いため息の後、許可を出すハロルド。
少し疲れた顔をしているのは、探索の帰りだからだろう。
きっとそうだ。
「森の状態がいつも通りに落ち着いてしばらく経った。よって、明日から解禁する。この魔法バカについては頼んだぞエル」
「ウチが頼まれる側なんか?!」
ウチの担当教官がアンリなのだが。
「仕方ないだろ、アンリとサージェは魔法が絡むとこうなるんだ。満足すれば治るんだがなぁ……」
「森へ行くしかないってことやな」
「そうだ。そんで、スライムを倒してこい。ある程度取れたら満足するだろ。スライムも勝手に増えるし、問題ない」
「わかった。で、森はどういう状況やったん?」
許可が出たからはいそうですかと行けるわけがない。
状況によってはウチで対処できなくなるかもしれないし、今度は護衛がいるわけじゃないので、倒せないからと逃げた先で他の人に被害が出るかもしれないのだ。
アームベアが出てきたら、ウチでは倒すには至らない。
前回も逃げようとしていたし、護衛がいなかったら追い詰めることもできない。
アンリがいれば倒せるのかも知れないけど、数が多くなると一気に危険になるはずだ。
「森の奥……というか西の方だな。そっちから魔物が移動していたようだ。その結果、東側になる訓練した所まで押し出されたってわけだ。今は殆どが住処に戻って行って、森の状態もほぼ元通りってわけだ」
「ほぼなんやな」
確実にと言えないのは、森が広くて全てを確認できないからだ。
戦力も人員も足りなければ、食糧や薬などの備品も足りない。
少数で一機に確認したのは、見習いや駆け出しのためで、請負人として一人前のパーティであれば油断しなければ問題ない程度の荒れ具合だったそうだ。
「あぁ。さすがに強い魔物が移動したことで荒れたところは簡単に戻らねぇからな。弱い魔物も食われて減ってるぞ」
「なるほどな〜。ちなみに魔物が移動してきた原因は?」
「それは分からん。調べるにはもっと西に行かないとけないが、そこまで調べる余力はねぇからな。いつも使う森が安全になったかどうかが重要なんだ」
「はー。なるほどなー」
・・・つまり、原因は不明やけど強い魔物が移動してきたせいで、他の魔物が追い立てられたと。ほんでウチらは運悪く追い立てられた魔物に遭遇したんやな。で、今はいつも通りになってるから立ち入りを許可すると。
「とりあえず気をつけながらスライムを探せばええんやな」
「そうだ。もしかしたらまだ住処に戻ってない魔物もいるかもしれん。だが、少なくとも森ウサギや森オオカミたちは以前と同じ場所に戻っていた」
「了解や」
話は終わったと判断したハロルドが去って行く。
そのハロルド含めて調査していた人が安全と判断したのだから、見習いとしては受け入れ、警戒しつつ森の探索をすればいい。
「それで、アンリさんは明日からで大丈夫なん?」
「今から行く?」
「そういう意味ちゃうわ!休息いらんの?」
なぜ今からになるのか。
そこまでしてスライムの魔石が欲しいのか。
いろいろ言いたいことは浮かんだけど、全て飲み込んで聞きたいことだけにした。
10日以上調査をした帰りなのだから、数日は休みたいはずだ。
「問題ない」
「疲れてたらミスするかも知れへんで?」
「そこまで疲れてない。身体強化の応用で疲労も早く回復する」
「そういう使い方もあるんやな」
その使い方は身体活性というらしい。
身体強化は魔力で筋肉を補強するような使い方で、身体活性は体内を流れる魔力を緩やかにして披露した部位を集中的に回復させる。
強化は体に合わせて使うことができても、活性はイメージしづらく、使えない人の方が多いらしい。
・・・ウチはどっちも使えんけど。
この身体活性では、肉体的な疲労を急速に回復させることができるが、精神的な疲労は回復しない。
ならば余計に休息がいるのではないかと聞いたけど、そこまで難しい仕事ではなかったので精神的にも疲労はないと言い切った。
・・・ハロルドは疲れてたけど?アンリさんは精神が頑丈なんか?
「それじゃあ明日は森へ」
「わかった。2の鐘にここでええ?」
「いい」
「了解や」
アンリと組合で別れた。
宿まで送らなかったことから、やはり疲れていたんだろうと思ったけど、外に出る前に後ろを振り返ると食事処に向かっていくのが見えた。
そして、すぐさまお酒に手を出していたのだ。
・・・お酒飲むとかめっちゃ元気やん。そんなに飲みたくなるもんなんか?
成人は15歳なので、ウチが飲めるようになるまでまだまだ時間がかかる。
いつか飲むお酒の味を想像しながら宿へと帰った。




