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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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5/305

訳ありのエル

 野営を1日挟んで、開拓村から1番近い村へと到着した。

 途中で魔物に襲われることなく進むことができたけど、どうやらこの村から先には出るらしい。

 ウチの居た開拓村付近に出なくなっているのがおかしいそうだ。


 野営では、ご飯を食べたらすぐに寝た。

 ずっと寝続けてる気がするけど、思った以上に固まった体を動かすのが負担になっているみたいだ。

 それでもだいぶ身体が動くようになってきていて、もう少ししたら走り回れるとキュークスから言われた。

 これが若さで、いつか失うものらしい。


 ・・・ウチにとってはまだまだ先のことやけど、覚えといた方がいい言葉なんかな?聞いてた御者のおじさんが何度も頷いてたし、深い言葉なんかもしれん。知らんけど。


「ガドルフさん。皆さんとその子は先に宿へ向かってください。宿は行きと同じように部屋の確保をお願いします。その子が増えた分の調整はお任せします。私は村長と話をしたらガドルフさんの所へ向かいます」

「わかった」


 商人が開拓村の件について村長へ話話しに向かう。

 ウチとガドルフのパーティは、この村唯一の宿で商人を待ち、今後について話すことになっている。

 残りの護衛や御者は宿の近くに馬車を移動させて、馬の世話や荷物の整理をするそうだ。

 ウチの世話をガドルフ達に任せてるのは、発見者というだけでなく、馬車に空きスペースがあったからだ。

 他の護衛は5人以上のパーティなので、子供といえども乗せるといざという時の邪魔になる可能性がある。


 ・・・飛び出す時に邪魔になるのもそうやけど、無理やり乗ったら奥の方で固まってるしかなさそうなスペースやもんな。それはちょっと辛いわ。


「やっぱり空いてたな!」

「ここまで来る人も少ないから仕方ないわ」

「とりあえず俺たちの部屋を2人部屋2つにしてもらった。キュークスとエルで使ってくれ。荷物を置いたらこっちの部屋に集合だ」

「わかったわ」

「はーい!」


 宿屋は一階が酒場、2階から上が客室になっている。

 辺境にある村なので、周囲の森から取れる素材を目的にした人や行商人しか訪れないが、大規模な素材収集にも対応できるよう大きな作りになっている。

 普段は村人が集まって飲める酒場が主な収益となり、宿泊客がいれば大きな臨時収入になる。

 部屋も毎日使えるようにしっかりと手入れをされていて、エルとキュークスの部屋はベッドと椅子が2つずつ、テーブルと小さな棚が置かれた部屋で、とても綺麗に整っている。


「お待たせしました。いろいろ話し込んでたもので」

「いえ、それじゃあ話をしよう」


 割り当てられた部屋から椅子を持ってガドルフの部屋に移動してしばらくすると、村長のところへ話に行った商人が椅子を持ってやってきた。

 今からウチと開拓村について話が始まる。


「その前にまずは自己紹介を。私はヘリオス商会のベランと言います」

「ウチはエル!」

「よろしくお願いします」


 ベランはガドルフ達のような獣ではなく、ウチと同じ人間で、護衛をするような人と比べると細いものの、姿勢が良くて柔和な笑顔を浮かべた青年だ。

 髪は茶色で目は赤みがかっているため、見た目のインパクトがない。

 その分丁寧な言葉遣いが合っていて、とても優しい印象を受ける。

 自己紹介の後はガドルフからわかっていることについて話した。

 固有魔法については驚きより納得の方が勝った。

 子供だけが生き残ったので予想していたそうだ。


「私は何度かあの開拓村に訪れたことがあるのですが、覚えはないですか?」

「う〜ん……見たことないなぁ……」

「私が向かうようになる少し前に子連れの猟師が開拓村にやってきたと聞きました。直接話したことはないのですが、物資を運んだ時は小さなお祭りのようになります。その時に私のことを見たことがあるのではと思ったのですが、無いようで残念です。覚えがあれば打ち解けやすいのですが……」


 困ったような微笑みを浮かべるベラン。

 本当に覚えがないのでどうしようもない。

 ウチは家の中かその近くでしか遊んではダメだと言われていたから、たまに村の中心が賑わっていても近づいたことはない。

 もう少し大きくなったら一緒に行こうと言われていたけど、それは2度と叶うことはない。


 ・・・あかん。気分が沈んできた。しっかりせんと!


「エルの家族は開拓メンバーじゃなかったのか」

「他所から来たのね。道理で少し変わった話し方をすると思ったわ」


 ・・・やっぱりウチの話し方はほんのちょっと変わってるんか。ガドルフ達と少し違うなーとは思ってたけど、特に何も言われなかったからそこまで気にしてへんかった。ウチとしてはずっとこの話し方のはずやねんけど、どこで覚えたんやろか。父上と母上は違ったような気がする……上手く思い出せへんわ。


「開拓村の殆どが子爵領から集まっているので、私と同じ話し方ですよ。エルさんのご両親がどこから来たのか知っているのは、開拓村の方々だけだったようです」

「どういうことだ?」

「開拓村へ行く途中にあるこの村を通っていないようですよ。村長や周囲の方々は子連れで開拓村へ向かう夫婦を見たことがないそうです」

「エルは何か覚えてないか?」

「んー……なんか色々なところを歩いたり、森の中とかをうっすらと覚えてるような気もするようなないような……」


 他にも草原や山の中、どこか高いところから遠くを見たような景色、大きな水たまりに台地が割れたような谷。

 同じような壁が等間隔で並んでいたり、それよりも高い塔のようなものが建っている景色。

 かと思えば暗い洞窟のような場所をうっすらと緑の光が照らしている場所など色々浮かんできた。

 でも、どれも現実的な光景に思えない。

 はっきりと思い出せるのは家の近くの道や森ぐらいだ。


「覚えてないか。ベランがあの村に行くようになってどれくらいだ?」

「もう少しで1年になります」

「そうするとエルは5歳以前に来たとして、それより前の移動は覚えてなくて当然だな」


 ウチは6歳なので1年前は5歳。

 旅の途中をしっかり覚えていなくても仕方がなく、それよりも、そんな歳の子供を連れて開拓村へと向かう理由の方が気になってくる。

 もしかすると開拓村へ行くことが目的で、途中で産まれた場合もあるだろうけれど。


「ご両親が開拓村へと移動したのは何か理由があったんだろうけど、簡単に思いつくのは貴族や名家の駆け落ちね。エルちゃんの容姿は整っているから、可能性はあるんじゃない?」

「そうだな!埃を落とせば髪も綺麗になるだろうし!」

「やはりそういった事情ですよね。あるいは迷宮王国とは違う所からやって来た可能性もあるのですが、この村を通ってないということは東の獣王国か北の魔導国……獣人ではないので北でしょうか」


 ウチが今いる迷宮王国は3つの国に囲まれた小国で、迷宮ができるぐらい魔力が溜まりやすい土地にある。

 そのため魔物も多く魔力の影響を受けた様々な物で交易を行い、周辺3国といい関係を築いているそうだ。


 北にあるのは魔導国マギストス。

 魔法が盛んで、一定以上の実力者に与えられる称号『魔導師』達によって運営されている。

 北国のため一年の殆どで雪が降っているが、魔法を道具化した魔道具によって生活が保たれており、迷宮王国には技術や魔道具を提供して、魔石や魔物の素材を得ている。

 国境には険しい山がそびえ立っていて、山頂は一年中雪に覆われているので、生半可な覚悟では越えられない。


 東にあるのは獣王国アニメール。

 様々な獣人が集落を築いており、最も強い者が獣王を名乗り国を率いている。

 力こそ全てと思われそうな政治方法だが、頭脳派の獣人が細かいところまで整備しているため、少し力に対する感情が強いことに目を瞑ればとても気のいい国らしい。

 獣人という大きな括りの中で沢山の種族があり、その種族同士で争うこともあれば、とても仲が良くて家族のような付き合いをしていることもある。

 獣王国に危機が訪れば獣王が先陣を切って戦う国で、迷宮王国とは広大な砂漠を隔てている。


 南東にあるのは海洋国家郡マリニカ。

 複数の島国から成り立っていて、一際大きな国がそのまま国家郡の名称になっている。

 海洋生物や水性の魔物との戦いに長けており、迷宮王国経由して魔導国から海で生活する上で必要な物や、あると便利になる物を取引している。

 迷宮王国とは海を隔てていて、迷宮王国にある大きな港町が主な交流場所となる。


 迷宮王国の北東端にある開拓村に行くとすれば、北の魔導国か、東の獣王国か、国内からの移動になる。

 ウチは獣人じゃないし、話し方にも違和感があるぐらいなので、獣人の国である獣王国は候補から外れる。

 子供を連れて砂漠越えはとても厳しい。

 この村に立ち寄っていないとすれば、迷宮王国側から街道を大きく迂回したか、しっかりと準備して魔導国から険しい山を越えたかになる。

 子供を連れて魔物との遭遇率が跳ね上がる迂回をすることは非常に危険なので、大人の結論は魔導国側に落ち着いた。


「何か身分がわかる物があればいいのですが……」

「エルちゃんの持ち物は見つけた時に着ていた服と、ネックレスぐらいね」

「ネックレスを見せてもらってもいいですか?」

「ええで!はいこれ!」


 崩壊した家を隈なく調べれば何か見つかるかもしれないが、保護された時点で持っていたのはネックレスだけ。

 服が変わっていれば気を失っている時点で分かったはずだが、特に変わった服ではなかったようだ。

 ウチが母上から受け取ったネックレスを手袋をつけて色々な道具で見るベラン。


 ・・・ポケットから鑑定用の道具をサッと取り出すところは、さすが商人って感じやな。こういう自分の仕事をきっちりこなす仕草は格好いいと思う。こう、プロって感じで。


「これは魔道具でも魔石でもありません。魔物の一部だと思いますが、これだけでは何か判別できません。調べるならしっかりとした設備が必要です」

「魔道具だったら魔導国説が濃厚になったかもしれないが、魔物だと難しいな」

「そうですね」


 ベランからネックレスを返してもらったので、ウチも気分で眺めてみたけどただ綺麗なだけでなにもわからなかい。

 魔物の素材らしいが、加工されているので普通の道具ではわからず、そうなると今すぐウチのことを知れそうな手がかりはなくなったことになる。


 ・・・ウチはこの後どうすればええんやろか。まぁ、生きてたら何とかなるというかなるようにしかならんというか……どないしよ。


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