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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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47/305

屋敷の掃除依頼

 

 ウサカツの翌日、朝食の後は請負人組合に来た。

 雑事の依頼を受けるためだ。

 ウサカツは厨房の主である女将さんの旦那さんが、提供に待ったをかけたので味見以外で食べられることはなかった。

 どうやらもっと研究してから出したいらしい。

 付け合わせとか色々。

 ドレッシングも、毎回安定した味を出せるまで試作を繰り返し、今はすりおろし器による改良に手を出している。

 納得できるのが楽しみだ。


「おはようミューズさん」

「おはようございます。エルちゃん」

「何かいいの入ってる?」

「ふふっ。何ですかその聞き方?そうですね、こちらなんてどうでしょう」


 市場で顔馴染みなのか、とても楽しそうに言っていた人の真似をしてみたのだ。

 それをわかったミューズは、ウチのお遊びに付き合ってくれて、1枚の依頼書を出してきた。


「えっと……なになに、使わない屋敷の家具出しと掃除?どういうこと?」

「売りに出す中古の物件なのですが、家具を入れ替えたりするそうです。古い家具も壊すのではなく、綺麗にして市場で売ったり使用人に譲るので、掃除対象なんです」


 以前まで住んでいた人が家具を置いて引っ越したので、家具付きの屋敷になった。

 その家具の中で、古いものは新しいものと交換して売りに出す。

 市場で売っている高級な食器などは、こういった出どころが多いそうだ。


「エルちゃんは掃除に適性があるんですよね?以前の依頼で高評価でした」

「せやで。ウチに合ってるやろうし、これを受けるわ!はい、請負人証」

「はい。受理しました。では、同じ依頼を受けた2人を呼んできますね」

「はーい」


 大きさはわからないけど、屋敷というぐらいなので、1人で掃除できるわけがない。

 ましてや子供ばかりの見習いに対する依頼である。

 当然複数人で手分けするので、受注した人がある程度集まるまで待っていたようだ。


「あれ?エルじゃん」

「おはようございます」

「おはようネーナ、カイン。2人もこの依頼を受けたん?」

「ミューズさんに勧められたから」

「ウチと同じ理由やな」


 食事処からカインとネーナを連れてきたミューズに勧めた理由を聞く。

 すると、この依頼はしばらく放置されていた依頼で、依頼主からも急かされているらしい。

 見習いが森へいけない状態なので、これ幸いと面倒そうという理由で避けられていた依頼を、消化しようという組合の動きだった。


「なんで放置されてるん?」

「行けばわかるのですが、この依頼の屋敷は少し外れにありまして、前は複数の請負人が共同で借りていたんです。その結果、綺麗な部屋と汚い部屋が混じっていて、手をつけにくい状態なんです」

「プロの掃除屋とかに頼まんの?」

「頼む前に請負人の方である程度綺麗にしてほしいということです」

「ふーん」


 掃除や模様替えを専門にしている人達は、技術がある分費用が高い。

 そんな人達に汚い部屋を整理させればその分お金がかかる。

 なので、その前に見習いを使って簡単な掃除とゴミ出し、使えない家具の搬出をしたいそうだ。

 その後に改装したり、掃除のプロが綺麗にする。


「なんか面倒そうやな」

「その分見習いとしては高額報酬です。頑張ってくださいね」

「はーい」

「それじゃあ行ってきます。エルは俺たちに着いてきてくれ」

「了解や!」


 この街出身であるカインの先導で目的地まで向かう。

 組合を出て領主の館がある方の大通りを少し進み、請負人向けの商品を売るお店側に曲がってまっすぐ進む。

 中規模の道なので馬車も通り、武具のお店や宿屋に飲食店が並んでいた。

 その道をしばらく進むとお店が減り、空き地や畑が見えるようになる。

 畑を管理するための小さな家もあるけれど、その中で一際大きな屋敷が目的の場所だった。


「ここだな」

「はぁ〜。でっかいな」

「大きいです」


 依頼書には住所と屋敷の間取り、以前使っていた請負人のパーティについて書かれていた。

 間取りは1階にリビング兼キッチンと2人用ぐらいの部屋が6つ。

 2階に4人用の部屋が4つあり、使っていたパーティは4パーティ。

 そのどれもが迷宮のある都市に向かっていったそうだ。


「資料によると1階が応接室、倉庫が1部屋、2人で使う部屋が4つ。2階はそれぞれのパーティで1部屋ずつみたいだ」

「そのうちのどれだけが汚いかやな」

「庭も生い茂ってます。ここも対象ですか?」

「あぁ。草刈りも含まれてる。ゴミは一箇所にまとめておけばいいそうだ」


 ネーナの言葉通り、屋敷の周囲を覆う木の柵の内側は、雑草で生い茂っていた。

 屋敷までの道は残っているけど、少し外れただけで草に足を取られるだろう。


 ・・・ウチは足取られへんから、草むしりが割り振られるやろか。


 固有魔法のおかげで、障害物の影響を受けない。

 ウチが歩けば草が押しのけられるので刈りやすいのだ。


「とりあえず中を見るか」

「せやな」


 依頼書と一緒に受け取った屋敷の鍵をカインが取り出し、扉の鍵穴に差し込む。

 回すとカチャリと音がして、問題なく解錠できた。


「リビングはまぁまぁ汚れてるな」

「そうか?これくらい普通じゃね」


 至るところに埃が積もっていることを除けば、床には土汚れ、壁には何かを擦ったような跡、キッチン周りは水汚れと油汚れが見て取れる。

 パーティ単位で食事を取るためか、複数ある机も同じような汚れだった。

 そこから各部屋を覗いたけれど、基本的には同じような汚れがあり、その規模が大きいか小さいかだった。

 2階の部屋には床や壁に切り付けたような跡があったけど、カインいわく武器の手入れや素振りをして付けた傷だろうとのこと。


 ・・・手入れはともかく素振りは外でせい!


 寒くなったら利用する暖炉は煤汚れが目立ち、倉庫には何かをこぼしたのか一部の床が腐っていた。

 家具は埃をかぶっているだけのものから、汚れがついているものなどさまざまで、どれが残すものなのかよくわからなかった。


「それじゃあ今日は全員で草むしりだな。外が片付かないと、家具を出す場所がない」

「わかった」


 ウチは軽量袋に入っている、組合から借りたお掃除セットの中から、手で持てる鎌を3本取り出した。

 刃の部分に掛けられていた布を取り、それぞれ腰のベルトに巻いて準備完了だ。

 屋敷への道を基準に、それぞれ手の届く範囲を柵まで刈り進める事になった。


「お昼やで」

「屋台で済まそう」

「水分はしっかり取りましょうね」


 お昼の鐘が鳴り、それを合図に全員腰を上げる。

 食事処に入るより安く済む屋台で昼食を済ませ、水分補給用に井戸から水を汲んでから再開する。


「疲れた……甘いもん食べたい……」

「贅沢だな……」


 疲れた体に甘いものが染みるのだが、あいにく甘いものは持ち合わせていない。

 カツの材料を探した時にハチミツを探せばよかったと、今更後悔した。


 ・・・今度行く時絶対探したる。


 そんな気持ちを確固たる意志でねじ伏せ、何とか屋敷の前面に生い茂っていた草を刈り取ることができた。

 側面と裏側は手付かずなので、明日からも誰かが担当する必要がある。

 身体強化して家具を運べない以上、その担当はウチになるだろうけど。


 ・・・それにしても、甘いもんが食べたい。


「よし!今日はこんなもんだな!」

「そうですね!」

「あぁ〜疲れたぁ〜」

「エルはもうちょっと鍛えたほうがいいな」

「それはウチも思った」


 2人はまだ余裕があるけれど、ウチはもう帰って寝たい。

 普段から稽古している2人と比べると、明らかに体力が少ない。


「とりあえず組合まで一緒に行くぞ。そこからは帰れるよな」

「大丈夫や」

「じゃあ行くか。ネーナ、手を繋いでやってくれ」

「わかりました」


 ネーナに手を引かれて組合まで戻った。

 借りた道具を返して、明日も組合に集合することを話しているうちに目が覚めたので、宿までは一人で帰ることができ、夕食を取って身を清めたら即座に寝た。


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