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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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ウサカツ

 

 訓練した日から一夜明けた朝。

 今日は依頼をこなすでもなく、むしろウチの依頼をポコナにこなしてもらうことになりそうだ。


「ポコナポコナー!」

「どうしたのエルちゃん」


 朝食を取ったあと、食堂の後片付けをし終わったポコナを捕まえた。

 終わるのを待っていたけど、とても長く感じた。


「ウチ卵が欲しい!」

「えっと、卵なら市場に売ってるよ。パンより高いけど、果物より安い鶏の卵から、果物より高い魔物の卵まで色々。何を作るの?」

「カツを作ろうと思って……って!卵以外にも色々いるやん!ちょっと買ってくる!」

「え?あ、行ってらっしゃい……」


 ポコナの見送りを背に、ウチはハンス金物店へと向かう。

 とりあえずここにきたら、金物関連で欲しいものは手に入るはずやし、無ければ作ってもらえる。

 そのほかに欲しい物があれば、ベランのお店にも行けばいいし、市場で探してもいい。


「まいど!儲かりまっかー?」

「ん?すりおろし器のエルじゃないか。何で儲けの事なんて聞いてくるんだ?」

「景気はいいですかー?っていう挨拶かな。それよりなんなんすりおろし器のエルって」


 ・・・新しい二つ名か!ウサギ狩りのエル、すりおろし器のエル。どっちも迫力ないな。


「独特な挨拶だな。特注品があればそれで覚えるのが職人なんだよ。んで、今日はどうした?」

「そういうもんなんか。えっと、やりたいことがあるねんけど、それに必要な道具が欲しいねん」

「ほう。また何か作るのか?」


 商売人の目になった。

 すりおろし器は、まだ販売まで漕ぎつけていないけど、すりおろしリンゴ水を飲んだ経験から、一部には売れると確信がある。

 なので、ウチが欲しがる物に興味とあわよくば売ろうという魂胆があるらしい。


「無かったら作ってもらおうと思ってる」

「わかった。じゃあ、何がしたいのかを言えるか?それに合わせて用意していく」


 用意できなければ在庫がないか、物自体が存在しないので作ることになる。

 それが売れればお店としてはいいのだ。


「やりたい事は、お肉に衣を付けて熱した油で揚げる」

「料理に油を使うのか……。衣はどういったものだ?食べられる布か?」


 油はランプに使う物という認識のせいで驚かれた。

 宿ではドレッシングのおかげで食べる物として認識されているけど。


「衣はパンをすりおろし器で削って粉にしたやつを、卵を使って纏わせるねん」

「すりおろし器が出てくるのか!それはいいな」


 売れるチャンスがあったからか、上機嫌になるビンス。

 ウチも売るポイントが増えるから、レルヒッポが帰ってくるのが楽しみだ。


「調理手順を言うから、道具を用意してほしいねん」

「あぁ、まかせろ」

「油を火にかけて温めたいから、入れる鍋」

「油を入れる鍋」


 店内を歩き、選んだ鍋をゴトリとカウンターに置く。

 サイズに問題がないか確認したけど、大量に作るわけではないので問題ない。


「パン粉と卵を入れるボウル」

「ボウルは木でもいいか?」

「ええけどあるん?」

「多少はな」


 金属製のものもあるにはあるが、高いのでウチにはすすめないそうだ。

 金属の調理器具は高く、お金持ち向けだ。


「卵をくぐらせて、パン粉をつけるから、お肉を挟むやつも欲しい」

「トングでいいか?」

「それで!」


 ビンスが用意したのはバネを利用したトングで、持ち手は木、挟む部分は金属のものだった。

 肉を焼くために使われるらしく、同じく肉を調理するためなので問題ない。


「んで、衣がついたら油に入れて揚げるやろ……。じゅわーってしたら取り出して、油を切るから金網と、油を受ける器やな」

「金網はあるが、料理用じゃないぞ」


 出てきた金網はウチなら手を突っ込めそうなほど、編み目が大きかった。

 金属の棒を編んで作るので、あまり細かい物は置いてないそうだ。

 それでも、肉がウチの手の倍以上ばかりだから置く分には問題ない。


「それで大丈夫やと思う。お肉大きいし」

「わかった。油を受ける器に合わせて成形するから、先に器を選んでくれ。金網のことを考えると、浅くて四角い器の方がいいな。これとこれどっちがいい?」


 ウチの顔ぐらいと、それの倍大きい、金属製の浅い蓋のような物が出てきた。

 布を染める時に使う容器だそうだ。


「こっちの大きい方で!」

「よし。できるだけ網目を小さくしてやるよ」

「ほんま?!よろしく!」


 ビンスは小さなハンマーで金網を叩き、網目を小さくしてくれた。

 そのかいあって、ウチの手は入らないぐらい縮まる。

 ちなみに、金網は布を乾かした際に、壁や床につかなくするための物で、多少穴が大きくても布が突き抜けなければいいものらしい。

 他にも色々な物を乾燥させるための土台として使うこともあるけれど、食べ物を乾燥させるときはザルを使う。

 ナッツやキノコは小さいので。


 ・・・縮められた金網は小さいお肉も乗りそうやな。他の揚げ物にも使えると思う。何か思いついたらええなぁ。


「これでいいか?」

「バッチリや!じゃあ並べてもらったやつ全部貰うわ!」

「わかった」


 お金を支払って、全部を軽量袋に入れた。

 後は油と卵だ。


「作った物の感想聞かせてくれよ!上手くいったら金網も量産しなくちゃいけないからな!」

「せやな!すりおろし器と一緒に売り出せたらええな!」


 ハンス金物店を出て、油を買った。

 ここ数日で油がよく売れるようになった、店主が喜んでいたので、もしかしたらもっと売れるようになるかもと伝えておいた。

 驚いて目を見開いていた。


「たっまっご〜。たっまっご〜。卵は〜どこやろ〜」

「お嬢ちゃん卵を探してるのかい。人とぶつからないよう向こうの奥の方にあるよ」

「おおきに!」


 買いたい物がどんどん揃っていく嬉しさが、歌になって口から飛び出していた。

 それを聞いた市場の入り口に店を構えるおばちゃんが、卵を取り扱っているお店の場所を教えてくれた。

 中央などの人通りが多い場所では、万が一ぶつかったり転けたりすると一気に割れてしまうので、壁際の奥の方に構えているそうだ。

 人通りも少なくなるのであまり人気のない場所だから、欲しい人だけが来るので丁度いい場所になる。


「卵や!」

「いらっしゃい。今日の卵は鶏の卵と草原ニワトリの卵だ」


 鶏の卵は、ウチのてのひらに乗るくらいの白い殻に包まれた楕円形で銅貨3枚。

 草原ニワトリの卵は、鶏の卵を5倍ぐらいにした物で、値段は大銅貨1枚。

 リンゴの倍する理由は、採取の面倒さにあるそうだ。

 草原ニワトリと戦う時に、後ろから近づいて驚かせると、卵を産んで逃げようとする。

 逆に正面から挑むと、卵を産まずに逃げようとする。

 驚かせる必要があるので、取りに行くときは細心の注意が必要なだけ高くなるが、その分味はとても濃厚らしい。


「こっちの鶏の卵を5個ください!」

「あいよ!」


 卵自体を味わうわけではないので、民家で育てられる鶏の卵にした。

 卵料理を作るときは草原ニワトリの卵にしたい。


「ありがとよ!」

「おおきに!」


 おじさんから他にどんな卵があるのか聞いてから、市場を後にした。

 鳥系の魔物かはら味しい卵が手に入ることが多く、解体の時に出てくることもあれば、巣にある時もある。

 なかなか市場には出回らず、組合に納品されても貴族やお金持ちがこぞって購入するそうだ。


 ・・・お金がある人たちはええな〜。ないウチはほしければ自分で取りに行けってことや!


 ウチは昼食を取ってから宿へと戻る。


「それで、今日は何を作るの?」

「ウサギ肉のカツ!」

「勝つ?ウサギ肉は何と戦ったの?」

「ん?ウチと?」

「エルちゃん負けた?」

「ウチが勝ったけど?」

「じゃあウサギ肉の負けじゃないの?」

「あぁ!そういうことか!勝ち負けじゃなくてカツって名前をつけてん」

「あ!カツって名前なんだね」


 えへへと笑うポコナが可愛い。

 名前に納得してもらったので、ポコナに料理の説明をした。

 肉を捌かないといけないし、火で油を熱さないといけないし、更にはその油が飛んでくる可能性もあるということで、調理は女将さんがすることになった。

 ウチらがやるのは卵液とパン粉の作成だけである。


「なるほどねぇ。肉を油で揚げるのかい。しかも、周りにはパンを粉にしたものがついてると」

「せやで!キャベツの千切りとかを添えて出したら、あっさりとこってりを交互にできてええで!」

「いいね。それも試させてもらおうか」


 ガリガリとパンを削っている横で、女将さんが手順を再確認していた。

 キャベツの他にも切ったトマトやきゅうりも良いと勧め、カツ自体の味付けは塩を軽く振るだけとも伝える。

 女将さんが作った段階で少し味見をしてから持ってきてくれることになっているので、塩加減は問題ないと思う。


「できた!」

「こっちもや!」


 パン2つを削り切った。

 卵液も作ろうとしたけど、ウチとポコナでは力加減がうまくいかず、1つ無駄になり、1つは殻がたくさん入った。

 よって、卵を割ってかき混ぜるのも女将さんの仕事になった。


 ・・・一番面倒なパン粉はウチらで作ったから!それで許して!


 ウチらのできる事を終えたので、調理を女将さんに任せて使った物の片付けをした。

 やはりポコナが拭いたところよりも、ウチが拭いた所の方が綺麗になるし、布巾も汚れていない。

 そして、汚れの塊ができている。

 前回は勢いよく机を拭いたので、これに気づかなかったようだ。


「なにそれ?黒い……ゴミ?」

「そうみたい。後で捨てよう」


 ポコナに汚れの塊を見られた後、拭く場所を代わって全体を綺麗にする。

 驚かれたけど、固有魔法の効果だと言ったら納得してくれた。

 最後に残った汚れの塊は、ポコナが捨ててくれた。


「じゅわぁぁぁぁって音がしたよ。じゅわぁぁぁぁって!」

「ん?そう?」

「うん!いつもはじゅうぅぅぅなんだけど、さっきはじゅわぁぁぁぁって音がした!」


 ウチには聞こえなかった音がポコナには聞こえていて、厨房の方へ耳を向けてピクピクさせている。


 ・・・耳触りたいな。


「お待ち!味見をしたけど、こいつはいいね!メニューに加えるかは旦那と相談だけど、高額メニューとしてはありだと思うよ!」

「それは良かった!じゃあ早速食べるで!」

「うん!」


 夕飯の前なので小さく揚げられたウサギ肉カツを、ポコナと2人で分けて食べる。

 あらかじめ切られていたので、フォークで刺して食べるだけだ。


「ん〜!サクッとしてジューシーやわ!」

「おぃひぃ!油が!油が甘いよエルちゃん!」


 ポコナ大興奮である。

 野菜と交互に食べることで、口の中をさっぱりさせた後、再度油を味わえる。

 気がついたらほとんどポコナが食べていた。

 ウチはそこまでお腹空いてなかったから全然いい。

 商品になるかどうかのほうが気になる。


「ポコナの反応を見る限り、商品にはなりそうやな」

「なるね。ただ、油と卵を使ってるからちょいと値段が高くなるよ」

「それでも美味しいんやんな?」

「あぁ。ウチの客でもお金を払って食べる奴は大勢いるさ」


 豪快に笑う女将さん。

 これですりおろし器の商品価値は上がった。


「それで、この料理の名前は?」

「ウサギ肉カツ……は長いから、ウサカツかな」

「ウサカツ。今の言い方だと別の肉を使えば名前が変わるのかい?」

「豚ならトンカツ、牛ならギュウカツやな」

「なるほどね。何肉かわかるようにしてるんだね」

「そうやな」


 というわけで、宿の夕飯メニューにウサカツが追加された。

 道具はウチが払った分と同じ費用で買い取ってもらい、しばらく出した後にレシピ代を別でもらう。

 ウチの道具がなくなったけど、火を使う場所もないし、大きな問題はない。


 ・・・ビンスにご馳走するぐらいはしてあげてもええかもな。


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