森の異変と撤収
痺れキノコを手に入れた後、薬草を見つけて目標数の10本になった。
痺れキノコも追加で3本、薄い青で濃い青が斑点のような模様を描いている眠りキノコを1本手に入れた。
そして、少し奥に入ったからか、草原ウサギよりも一回り大きく、足の筋肉が発達した森ウサギや、全身黒ずくめで目が赤く光っている黒フクロウなどの魔物に襲われた。
黒フクロウは夜に出会ったら驚きそうな見た目である。
「また森ウサギだ!今度は4体!」
「エルちゃんお願い!」
「了解や!」
ウチが前に飛び出し、ハンマーを大きく振って森ウサギの注意を引く。
ウチを攻撃してきたら構わず受け、弾かれた所を2人が攻撃する。
2人に向かう相手にはウチから積極的に攻撃して、注意を引き続けるのがこのパーティの戦い方になった。
相手がウチらと同じ数の場合は最初から1対1に持ち込み、少ない時は2人が倒しに向かう。
こっちより相手が多い時の負担が大きいウチを休ませるためだ。
・・・一番体力ないし、身体強化もできへんからな。
それに、倒した獲物の素材は全部ウチの軽量袋の中に入れているのもある。
2人の収納に入れることもできるけど、動きを阻害するのを避けるためだ。
ウチの場合は軽量袋も固有魔法の影響を受けるから、戦う時に背負っていても破れることはないし、むしろ防御に使える。
たくさん入れればその分大きくできるけど、森の中では邪魔になるので、魔石と少しのお肉だけ入れている。
お肉は昼食用だ。
「おかしい」
「どうしたんアンリさん」
「魔物の数が普段より多い」
「へぇ〜。普段はどれくらいなん?」
「この辺りだと森ウサギ2羽ぐらいがいいところ。あと、虫や草の魔物がいない」
芋虫や蝶、草花に鳥といった生き物が魔力によって魔物化したものが、森に入って最初に襲いかかってくるはずだった。
しかし、そこにはスライムしかおらず、少し進むと出てきた森ウサギもいつもより数が多い。
今回の訓練を行うにあたり事前調査もされているはずで、その時にこの状態だと実施される事はない。
つまり、ここ数日でこのような状態になったということになる。
「撤退した方がいいんじゃないか」
「数は不足しているけど、採取はできています。今度またやればいいですよ」
「危ないなら戻るのも手やで。ウチらは普段のここがわからんから、いつもと違うと言われても、そうなんやとしかならんし」
「わかった。撤退する。先頭はわたし。カイン、ネーナ、エルの順。エルの鞄を広げて、そこのウサギを入れて大きな壁にする」
「後ろからの攻撃に備えるんやな」
「そう」
ウチは急いで軽量袋を下ろして口を開く。
カインとネーナが1羽ずつ持ってくるので、紐を緩めて袋を広げて待つ。
4羽を入れたら口を閉じてしゃがみ込み、背中を袋につけてから持ち上げる。
すると4羽入ったにも関わらず、入れる前と同じように持ち上がる。
・・・ウチも身体強化が使えたら、2人みたいに軽々入れれるんやけどなぁ。
そして移動を開始した。
カインが通りながら木につけた傷を確認することなく、進む道を決めているアンリ。
チラリと木を見たら、しっかり傷がついていたので、通った道なのは確かなようだ。
アンリが何を判断して通っているのかは全然わからないけど、迷っているわけではないので問題ない。
「森ウサギ3」
「いくぞ!」
アンリの索敵で魔物を感知し、カインの合図でウチらが飛び出す。
戦闘もアンリがすれば早く終わるけど、出来るだけ学ばせるために譲ってくれている。
ウチらが窮地に陥っているわけではないので。
「そこに痺れキノコ、あっちに眠りキノコが群生」
「ほんまや!」
「凄いです!」
「魔力を見るってすげー!」
進みながら周囲を確認しているアンリが足を止めて指差す。
その方向には痺れキノコと、眠りキノコが群生して水色になっている場所があった。
アンリの魔力を見る魔法のおかげで、少し見ただけで何かがあることがわかる。
後は右目で実際に見れば、何に魔力が宿っていたのかがわかる。
おかげで指定素材が集まってしまった。
・・・ズルいやろうけど、帰り道やから時間かければウチらでも見つけられると言われたら、何も言い返されへんわ。複雑な場所じゃなく見たらわかる場所のやつしか言わんし。たしかに時間かければ見つけられるわ。
「半分戻った。後半分だから少し休憩する」
「ふぅ〜」
「疲れました」
「明日は筋肉痛やな」
「今のうちに昼食取ろうぜ!」
「食べられる時に食べないとダメですよね!」
「せやな!」
「じゃあ昼食を出す」
手頃な木の根に座り、足を揉んでいるとカインの号令で昼食になった。
アンリが持っていた袋から、保存に優れたカチカチな大人のてのひらサイズのパン2つと、干し肉の塊が、1人分として取り出される。
パンは水でふやかしながら、干し肉はナイフで切り込みを入れて、裂いて食べることになる。
・・・しかし!ウチはこうなることを見こして、ウサギ肉バーガーを用意してきとる!それも4つあるから、全員に1個ずつ配っても大丈夫や!アンリさんには足りないかもしれないけど、ウチ1個、アンリさん2個、予備1個のつもりやったから仕方ないんや。
「なんだそれ?」
「パンにお肉が挟まってます。あ、野菜もですね」
「さすがエル」
アンリはパンと干し肉を袋にしまい、袋ごとウチに渡してきた。
そして、代わりにクリアの葉に包まれたウサギ肉バーガーを取って、周囲の警戒をしながら食べ始める。
ウチはカインとネーナの2人にも渡して、自分の分にかぶりつく。
「ん〜。やっぱりウサギ肉が美味い。もっと色んな味付けしたいところやな〜」
「なんだこれ?!美味ぇ!」
「美味しいです。ちょっと食べづらいけど」
「大きいもんな」
パンはもう少し小さければ食べやすいんだけど、わざわざ焼いてもらうと地味にお金がかかる。
自分で焼く技術はないので、小さく齧りながら食べるしかない。
カインとアンリは大きく口を開けてかぶりついているけど、ウチとネーナでは無理だった。
2人はドレッシングも気に入ってくれたけど、レシピは高くて買えない。
なので、商品として売り出されたら買ってくれることになった。
・・・すりおろし器の話の時に、ドレッシングを見せて商品になるか確認しよう。売れるならレシピを買ってもらえばいいし。
今は宿で希望者にだけ売っているためまだまだ高く、見習いがおいそれと買える値段ではない。
ベランなら大量生産して値段を落とせるだろうし、混ぜるもので味が変わることを伝えたら、商品のバリエーションのために色々試してくれると思う。
商人だし。
「そろそろ行く」
「はーい」
「よし!腹もいっぱいになったし、後半分で終了だ!」
「頑張りましょう!」
食事の後片付けをして立ち上がり、隊列を組んで進もうとした時、甲高い音が森に響いた。




