採取訓練に出発
勉強と草原ウサギで実戦訓練をする日が何日も続いた。
文章を読み書きできるようになり、依頼書を自分で読めるようになった。
書かれているものの名前だけでは何かわからないものも多いし、難しい言い回しの文章は意味がわからないけれど、日常生活をする分には問題ないと、見習いの勉強は全部合格となった。
これ以上は、個別の講義を受講したり、図書コーナーで本を読んで自主的に学ぶしかない。
戦闘に関しては、草原ウサギ相手なら問題なくカウンターを決められるようになった。
最初は怖くて目を瞑っていたけれど、ウチにダメージがないのだからと開き直った結果、簡単に前に踏み出せるようになった。
ハンマーの使い方も少しは慣れて、自分を軸に回転して攻撃できるようになっている。
ハンマー自体もウチが持っている物なので、固有魔法の対象になっていて、ガンガン使っているけど劣化はほとんど無い。
相変わらず荷物を入れるのは苦手だけれど、これについては成長を待つことにして諦めた。
宿の方はドレッシングとニンジンハチミツ水が話題となり、夕食だけのお客さんが増えたり、ドレッシングの販売が始まった。
ポコナのお父さんや、存在を知らなかったお兄さんが料理好きのため、今ではウチより美味しいドレッシングを作れるようになっている。
ニンジンハチミツ水はドレッシングに比べると売れてはないけれど、昼過ぎから夕食までの間にポコナが作った分だけしか販売されないことが原因だ。
ハニービーのハチミツは、ポコナ個人の持ち物なのと、お小遣い稼ぎと客商売の練習に丁度いいということでこうなった。
たまにウチも手伝っていて、ウチもいる時だけリンゴが加わるので、一部のお客さんには待ち望まれてたりする。
そんなニンジンハチミツ水が広まらないのは、レルヒッポのせいだ。
比較的近くにある小迷宮都市へと出かけたレルヒッポ。
そのせいですりおろし器の交渉ができていないため、ウチの分が追加で作られただけになる。
ベランのところにレルヒッポから交渉する話だけは通っているため、交渉決裂前に売ると後が面倒になるので動けないでいる。
そんな日々を過ごしていると、請負人組合の受付担当のミューズではなく、見習い教育を担当しているハロルドから呼び出しがあった。
3日後にハロルドが担当する見習い全員を連れて森へ行き、採取の訓練をすることに決まったようで、その連絡だった。
見習いそれぞれに請負人が付き、基本的な採取物や森の歩き方を1日がかりで教える訓練で、移動と獲物の持ち帰りは馬車を使う。
ウチの担当はアンリのままなので安心である。
「何がいるん?」
「いつも通りでいいぞ。泊まりじゃないから特に必要なものはない。昼食はこちらで準備するから、武器と収納するものがあればとりあえずは問題ない」
「わかった!」
「アンリもいいな」
「大丈夫」
このやりとりの後も特に変わらず草原ウサギを狩り続けた。
組合の解体担当たちからウサギ狩りのエルと呼ばれているという、衝撃の内容を知ったころ、採取訓練の日になった。
開門の合図でもある2の鐘の前に組合に集合して、4台に分かれて馬車に乗り込む。
いちゃもん君とは別の馬車になったので、とりあえず出だしは好調である。
「よぅ。こうして話すのは初めてだな。俺はこの街に住んでるカイン。こいつが幼馴染のネーナだ」
「初めまして。ネーナです」
「ウチはエル!よろしく!」
同じ馬車に乗るのは、剣を下げて盾を持った男女2人組。
カインは黒味がかかった茶髪で、短い後ろ髪を紐でくくっている男の子。
ネーナは暗い赤色の髪で、癖っ毛なのだろうウェーブした髪を自由にさせた女の子。
2人とも服は違うけど、ブーツや木の胸当て、手袋のデザインは一緒だ。
「エルはハンマーか。その体格で大丈夫か?」
「背負い袋も大きいし、戦いになったら逃げるの?」
「これでも草原ウサギはたくさん倒せてるんやで」
「もしかして解体のおっちゃんが言ってた、毎日やたらと草原ウサギを狩ってくる見習いってエルのことだったのか」
「ウサギ狩りのエル……同じ名前ですね」
「知ってるん?」
・・・ウチは最近まで知らんかったで。
2人によると少し前から話題に上がっていたらしい。
最初は1羽、次は4羽と見習いでも狩れる数だった。
その次から12羽となり、更に1日に12羽を2回、3回と回数が増えていった。
そのおかげで草原ウサギの肉が多く出回るようになり、解体担当の中でも新人の練習が何度もできることで上達が早くなっているそうだ。
「数がおかしいん?それとも回数?」
「どっちもだな」
「あと、同じ獲物をひたすら狩るのもおかしいです」
「アンリさん……」
「……」
訓練の内容を決めたアンリさんを見ると、馬車の外を眺めて視線を逸らしていた。
草原ウサギはすぐに増えるので、いくら狩っても問題がない。
そのため、まずは軽量袋に最大まで入れて運べるか試し、問題がなかったので狩る速度を上げることになった。
そうすると1日の納品回数が増えて、結果として噂になった訳だ。
「草原にはウサギだけじゃなくてオオカミやニワトリ、イモムシなどの虫の魔物もいます」
「ウサギばかりでも稼げるけど、普通は他の獲物も狙うもんだぜ」
「そうなんや。じゃあ帰ったら他のにも挑戦してみるわ」
「それがいいぞ。色々経験しないとな」
この後も他愛のない会話を続けた。
ネーナは4女で、将来どこかと繋がりを作るために、見知らぬ人のところへと嫁がされる話を聞いた結果家を飛び出した。
カインはそれを聞いて一緒に見習いになったらしく、それならと好きなのか聞いたけど、お互いに兄妹としか感じていなかった。
他にもウチの袋が軽量袋なことやお世話になっている請負人の元で生活していることを話した。
開拓村に関して話していいのかわからなかったので、そこは話していない。
「よし!今回は馬車の見習いでパーティを組んでもらう。とは言っても、エルとカインのところが組むだけで、残りはいつも通りだ」
森の近くに馬車を止め、降りたウチらを待っていたのはハロルドのパーティ宣言だった。
ウチとカインの二人組以外は、いちゃもん君の3人組と4人組だ。
1人のウチが人数の少ないカインのところに入ることでバランスが良くなる。
そして、ウチにはアンリが付いているので、残りの2パーティに1人ずつ請負人が付き、馬車の周囲にハロルドを含めて4人が待機する。
「お前たちには今から配る羊皮紙に書かれた物を探してきてもらう。数は見習いの人数分だ。つまり10個ずつだな」
代表して受け取りに行ったカインの羊皮紙には、【薬草、痺れキノコ、眠りキノコ】と、それぞれの絵が描かれていた。
これを10個ずつ森の中で集めるのが、今回の訓練内容だ。
「時間差で出発するぞ。見習いにつく請負人は、何かあったら笛で知らせろよ」
ハロルドの合図で4人組のパーティから森へと入っていった。
その次はいちゃもん君で、一番足の遅いウチがいるパーティが最後になる。
「最後だと見つけるのに苦労するなー」
「アンリさんがおるから大丈夫やろ」
「どうして?」
「アンリさんは魔力が見れるし、こういった素材は魔力で育ってるんやろ?だったら魔力の多い場所とかに行けば見つかる可能性上がるやん」
「エル、正解」
「ふふん」
ない胸を張った。
ポコナのおかげで野菜は魔力で育つことを知った。
請負人に有用な素材も魔力で育っていることも勉強で知った。
薬効のある草が魔力で育つと薬草になるように、少し痺れる程度のキノコが魔力で育つと、効果が増大された痺れキノコになる。
それを見つけるためには魔力が見えるアンリのいるウチのパーティが有利なのだ。
「わたしは助言だけ」
「まぁ、せやろな。でも、何もないよりあるだけ助かるやん」
アンリは教官として参加しているので、積極的に手伝ってくれるわけではないことはわかっている。
それでも他の請負人よりも魔力に関する情報が増えるのだから問題ない。
・・・頑張って探すで!ウチがどれだけ役に立つかはわからんけどな!




