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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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お勉強とトレーニング

 

 すりおろし器を使ったニンジンドレッシングもポコナに教え、それを夕食の席で使ったウチは、またもやレルヒッポ達にレシピを教えてくれと言われた。

 しかも、既に知っているドレッシング自体にそれほど価値はなく、すりおろし器について聞かれることがほとんどだった。

 すりおろし器は試作品なこと、量産するのかも決まっていないことを含めて話し、一度ハンス金物店にレルヒッポが向かう事で話がついた。

 そこでわかったのが、レルヒッポは獣王国にある大きな商会の子息で、いつか迷宮王国で支店を構えるのが夢な戦える商人だった。

 そのため、すりおろし器の商談も任せることになり、ベランも含めて今度話し合うことになった。


 ・・・話し合いまでに、ウチはもっとすりおろし器の使い道を考えなあかん。商品の価値を上げるために、すりおろした物でいろんなことができると示さないとな。ん?あげる?上げる?何か思いつきそうやけど、ビビッとこんかったわ。


 そんな夕食を済ませた後は、いつも通り就寝して気持ちのいい目覚めと共に朝を迎えた。

 筋肉痛も治った今日は文字の勉強である。

 学ぶことで依頼書が読めるようになれば、自分に合った依頼を選ぶことができるようになる。

 自分で書くことができるようになれば、いつかこの街を離れてもポコナに手紙を出せる。

 ポコナ達街の子供達は、領主の文官が主催するところで文字と簡単な計算を教えてもらい、筋が良ければ引き抜かれる可能性もある。

 勉強のことを考えながらのんびりと歩いている間に、組合へと着いた。


「ミューズさんおはよう」

「おはようございます。今日は見習い証を受け取った部屋です。場所はわかりますか?」

「わかるで」

「では、頑張ってくださいね」


 見習いの説明を受けた部屋の扉を開けて、チラリと中の様子を確認する。

 誰もいないので、ウチが一番乗りだ。


「始めるぞー。木札とペンを使う。使い終わった木札はこちらで削ってまた使えるようにするから、気にせず書く練習をしろよ」


 少しすると全員揃い、それを待っていたかのように大きな板を持ったハロルドが入ってきた。

 その板は文字の一覧が書かれた物で、ウチらは手で持てるサイズで表面が削られた木札にインクで書いて練習する。

 文字は口から出る基本の音45文字で、加えて濁音と半濁音の記号、文章を書く上での各種記号などになるので、覚えるのは50文字を超える。

 更に数字10文字を覚えなければならない。

 初めは自分の名前、次によく使う物の名前と、ハロルドが例を書いて、ウチらがそれを真似て書くことの繰り返しだ。


「エルは筋がいいな。運動ができない分頭がいいのかもしれん。それは長所になるからしっかり伸ばせ」


 勉強中にハロルドから褒められて、頭を撫でてもらった。

 褒められた嬉しさと、両親に褒められた事が思い浮かんでチクリと胸が痛んだ気がした。

 ウチは他の子よりも飲み込みが早く、書くのはおぼつかないけど、時間をかければ読めるようになった。

 両親から少しだけ教えてもらっていたはずなので、そのおかげだと思う。


 ・・・1文字ずつ学んだことを思い出す必要があるけど、数をこなせばすぐに読めるようになるはずや。一度説明して貰えばスッと頭に入ってくるから楽しい。数字に関してはすぐに覚えられた上に計算も一度でできるようになったから、試しに今まで稼いだお金から使った額を引いて、手持ちと一致する事を確認したわ。


「エルは次に進んでいいな。全員明日も今日と同じ時間に集合だ。解散!」


 ウチは今日だけで基本の勉強は合格になった。

 次は文章を書く練習と簡単な計算だ。


「終わった?」

「アンリさん。ウチ今日で合格したで」

「それは凄い」

「勉強しかできねーくせに」

「ふふん。そういう自分は勉強もできへんくせに。べーっだ」


 部屋を出てすぐのところでアンリが待っていた。

 合格報告をしていると、通り過ぎながらいちゃもん君がボソリと捨て台詞を吐いた。

 すかさず勝ち誇った顔で言い返し、挑発もしておく。

 一緒にいる2人に止められながら外に連れていかれるいちゃもん君を見て、いきなりの難癖にイラッとした気持ちが落ち着いていく。


「エルも大変」

「そうやねん。なんか突っかかってくるねん。面倒やわ」


 ウチはため息をつきながら返事をした。

 それぞれで自由にやってるのだから、無理に関わってこなければいいと思う。

 昼食を取った後は街の外に出て、草原ウサギとの実践トレーニングだ。

 アンリを昼食に誘うつもりだったけど、誘う前に既に食べたと言われたので、いつものように屋台で買い食いした。


「今日は前回の復習と、2羽を相手に戦ってもらう」

「複数かー。気をつけるところはどこ?」

「普通なら1対1になれるよう立ち位置に注意、周囲を見る」

「ウチなら?」

「早めに1体倒す」


 ウチは固有魔法のおかげで普通じゃない。

 例え前後を取られたとしても、目の前の獲物に集中すればいい。

 攻撃を受ける時に大丈夫じゃないと感じた時は全力で逃げるだけだ。

 逃げ切れるかはわからないし、どういう相手だと大丈夫じゃないと感じるかもわからないけれど。


「早速1羽」

「行ってくる!」

「収納は?」

「これは軽量袋やから大丈夫!」


 ハンマーを短めに持って、いつでも戦えるように移動していると、アンリが草原ウサギを見つけた。

 ウチは示された方向に駆け出したんだけど、袋は下ろさないのか確認された。


 ・・・重くないから大丈夫やねんけど、もしかして動きの邪魔にならないかの確認?それとも攻撃されたら破けるから置いて行けってこと?あかん。考えてもわからんし、もう駆け出してる。固有魔法のおかげで破けへんし問題ないやろ。


「やぁっ!」


 走った勢いのまま振り下ろしたハンマーは地面を叩くだけだった。

 そして、隙だらけのウチに突っ込んでくる草原ウサギ。

 だけど、ウチに当たる直前に固有魔法に弾かれ、地面に転がる。


「はっ!」


 体制を崩した草原ウサギを素早く叩き、地面に倒す。

 後は逃げられないように早めにとどめを刺すだけ。


「いい動き」

「おおきに!それじゃあ早速軽量袋に入れて、入れ……入れ…………て!口をしっかり閉める!ほんで、背負ってから立ち上がる!っと。おぉ〜。草原ウサギを背負ってるとは思わんぐらい軽いな!!」


 地面に置いて口を大きく開けているとはいえ、ウチより大きい草原ウサギを軽量袋に入れるのは苦労した。

 しっかり口を締めて、背中が袋に当たるようにしゃがんでから立ち上がると、入れるのに苦労したことが嘘のようにスッと立ち上がれた。

 軽く走ってみたけど、重さは全然気にならない。

 後は、たくさん入れた時に動きの邪魔になるかを確かめなければならない。


「入れるのがエルの課題」

「せやな」

「最初だけは袋を被せれば入れやすい」

「でも、それやと背負いにくくなるからなぁ〜。ウチが逆さまになるやん」


 草原ウサギを包むように入れようとすると、口が下になる。

 そのまま地面まで下ろせたとしても、魔法を動作させるためには口を閉じる必要があり、浮かせるか転がすしかない。

 転がせば背負えるけど、浮かして口を閉める場合袋が逆さまの状態で持ち上げるか、ウチが逆さまになって頑張るかだ。

 袋への負担を考えるとウチが逆さまの方がいい。

 できるかどうかは別として。


「それにしてもよく買えた。高いはず」

「レシピを売ったお金で何とか買えてん。ドレッシング様様やで」


 逆さまになったウチが袋を背負う姿を想像したのか、微妙な表情から気を逸らすかのように話を変えるアンリ。

 ウチも想像を振り切りたいので、レシピ代で払った事を伝えた。


「見つけた。3羽いるけどどうする?」

「やってみる」

「危なくなったら助ける」

「よろしくやで!」


 いつか最大まで入れて、ウチでも持てるか試さないといけないという話をしていると、アンリが草原ウサギの集団を見つけた。

 1羽だけ減らしてもらうこともできたけど、どこまでできるのか知りたいのもあって、ウチ1人でやることにした。

 いざとなれば助けてもらえるし。


「いくでぇ!」


 先ほどと同じようにウチから攻撃する。

 今度は勢い任せでも振り下ろしじゃなく、足を止めた勢いで横に振った。

 ウチからしても結構な速度で振れたと思ったけれど、草原ウサギは軽々と後ろに飛び退き、グッと力を溜めると体当たりをしてきた。

 固有魔法で弾かれる草原ウサギ、その隙を逃さず攻撃しようとするウチ。

 そのウチの攻撃の隙を左右から狙う残りの2羽という構図になった。


「構わず叩く!」


 横に振った勢いを活かして回転し、ハンマーヘッドを頭上に持ってきた。

 重力に引かれるように振り下ろすと同時に、左右からも体当たりがきたけれど、問題なく固有魔法で弾く。

 普通なら今の攻撃で吹っ飛ばされて、攻撃が中断するはずだけど、ウチの場合は問題ない。


「やぁ!」


 ゴキっと音を立てて首が変な方向へ曲がる。

 気にせず短く持ち替えて左の草原ウサギを殴りつけ、転がったところを更に叩く。

 動かなくなったので、残りの1羽に突っ込むと、向こうも全力で体当たりしてきた。


「うぇっ?!」


 何もしてない時の倍以上の勢いで弾かれる草原ウサギ。

 既に地面に転がりピクピクしているので、簡単にトドメをさせた。

 相手の勢いにウチが突っ込んでいく力が加わったことで、勢いよく吹っ飛んだようだ。


「いいカウンターだった」

「狙った訳やないねんけどな」

「絶対に壊せない壁が勢いよく迫ってくるようなもの。初見ならまず気づかない。とてもいい反撃。対人戦でも使える。これからはカウンターをメインに使えるよう練習するべき」


 魔法のことだからアンリの口数が多くなっている。

 想定外の結果だけれど、これを活かすことができれば、攻撃を受けたように見せかけて大ダメージを与えることができる。

 剣で攻撃された場合、振り払うために動かした手の勢いが足されて、相手の手に衝撃が伝わる。

 運が良ければ剣が吹っ飛び、手が痺れるだけで済むが、アンリの予想では剣は折れるし、恐らく腕も無事では済まないだろうとのこと。

 ウチにくる衝撃全てが返るので、壁を切り付けた時の比じゃないダメージが腕にくるからだ。


 ・・・どう考えても武器が持たへんやろそれ。折れた刃が相手に突き刺さるかもなんて怖い予想もいらなんねん!でも、確かにこれを使いこなせたら便利やな。でも、それって自分で相手の攻撃に突っ込めってことやろ?それは怖いわ。


「とりあえず、ウサギ拾おう」

「入れる練習」


 考えるのは後にして、倒した草原ウサギを拾うことにした。

 背負っていた袋を下ろして口を開け、袋を小さくするための紐を緩めて広げる。

 大きく開くようになったところへ、頑張って草原ウサギを1羽ずつ入れる。

 戦うよりも時間がかかったけど、何とか1人で入れることができた。


「今日はもう帰ろ。疲れた……」

「わかった」


 ウチの限界宣言で帰ることになった。

 4羽入っている軽量袋は問題なく背負え、街まで楽に歩くことができる。

 袋が膨らんでいるので、混んでる場所を歩くときは注意が必要だけど、大通りを歩く分には全く問題はない。


「明日は勉強の後カウンターの練習」

「はーい」


 4羽の草原ウサギを組合で解体してもらい、内1羽の肉を宿へのお土産として持ち帰り、入り口でアンリと別れた。


 ・・・疲れた。戦うのも草原ウサギを袋に入れるのも疲れた。パーティを組めればその辺を協力してくれたりせんかなぁ。ウチは荷運び中心の役割で。


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