表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/305

ハンス金物店

 

 思わぬタイミングで軽量袋を手に入れることができた。

 もっと時間をかけて探して、その間にお金を貯めるつもりだったけれど、レシピ代で払えたのも嬉しい。


「お。リンゴある。おじさん3つ頂戴!」

「あいよ。大銅貨1枚と銅貨5枚だ。丁度だな。またきてくれよ!」


 金物店へ行く前に、どういう風にしたいかを説明するための実物として、市場でリンゴを3つ購入した。

 軽量袋に入れるために一度下ろすと、その時点で魔法が切れるので、荷物が多くなった時にどうするかは考え物だ。


 ・・・買い物やったら入れて貰えばええけど、魔物の場合は自分で入れなあかんからなぁ。座った状態で背負って、そのまま立ち上がれるか試さんとな。


 そんなことを考えているうちに金物屋らしき場所へと着いた。

 看板に板とハンマー、そして名前のようなものが彫られているけど読めない。

 近くを通った人に聞いたところ、ハンス金物屋で間違いないようだ。


「お邪魔しまーす」

「らっしゃい!」


 金物屋に入ると、背は少し低めで腕が丸太のように太いおじさんに迎えられた。

 この人がハンスだろうか。


「随分幼いお客さんだが、お使いか?」

「ちゃうで。ひとまずこれを……あった!はい、ベランさんからの紹介状!」

「ベランさんの店から?!」


 おじさんは、ウチが出した羊皮紙を食い入るように読み始めた。

 その間に周囲を見回していると、なんとなくだけどここがどういうお店かわかってきた。

 棚には金属製の鍋や箱、半球の容器に金属飾り、ハンマーやヤスリに木を掘るための彫刻刀。

 受付付近には包丁や、ベランのところで見た削り棒などがある。

 金属を使った商品を売る店で、おじさん自身も何かを加工していたのか、受付の裏にはハンマー釘がある。


「なるほどなぁ。変わった物を欲しがってるのか」

「変わってるかな?」

「そいつは聞いてみないとわからなねぇな」


 ということで、すりおろし器の説明をした後、チーズ削り棒を出してもらってリンゴの試しずりをした。

 もちろん許可を得てだ。

 その結果できたリンゴの削りは大ぶりでとても荒く、果汁も回収できないほどに飛び散っている。

 おじさんが布を用意していなければ大変な状態になったはずだ。


「やりたいことはわかった。だが、どうすればいいのかはわからねぇな。案はあるか?」

「あるで!」


 ビビッときた案があるので、それを伝える。

 錆びにくい金属でできた長方形の板の短辺に持ち手を付ける。

 板の左右を盛り上げて、左右からこぼれないようにする。

 盛り上がった部分の内側に溝を作って液体の逃げ道を作る。

 板の裏から尖った物を叩きつけるかして、板の表面に小さな突起をいくつも作る。

 その突起に果物や野菜を引っ掛けて削り、チーズ削り棒よりも小さな果肉を擦り出す。

 これがウチの頭に浮かんだすりおろし器だ。


「なるほどな。イメージは伝わった。大事なのは突起だよな?」

「そうやで」

「じゃあ、その部分のサンプルを作るからちょっと待っててくれ」


 そう言うとハンスは小さな黒い金属の板を持って、受付からずれた。

 そこにはハンマーや釘、他にも名前のわからない沢山の道具がある。

 その中でハンマーと先の尖った針より太い棒を手に取り、板に打ち付け始めるおじさん。

 しばらくすると、板の表面に大小さまざまな突起ができた。


「どのぐらいが良いかわからんからな。差を作ってみた。何かで試せると良いんだが……」

「ウチが試すわ」

「試すって削る物あるのか?」

「あるで。だから、削った物入れるコップ貸して」

「わかった。ちょっと待ってろ」


 おじさんが受付の裏へと向かう。

 恐らく奥に生活空間があるのだろう。

 その間にウチはリンゴを1つ取り出し、サンプルのすりおろし器を見る。

 左右から溢れさせないための盛り上がりや、液体を流す溝はないけれど、大小で5段階の突起がある。

 一番大きな突起は大きすぎるので使えない。

 その次は削れそうだけど大ぶりになりそうだ。

 試すのは小さい方から3つで十分だと思う。


「待たせたな。ほらコップ。それで何を削る……ってリンゴか!果物は高価なんだぞ!」

「うちが買ってきたんや!知ってるで!パン5個分や!」


 リンゴ1個でパンが5個買える。

 それだけ高級ということで、削るために袋から取り出していたリンゴを見たおじさんは、目を大きく開いて驚いている。

 そんなおじさんの反応をよそに、ウチはリンゴを掴んですりおろし始める。


「おぉ……。細かい果肉ができてるな」

「せやろ。これが欲しかってん」

「ワインはブドウの果汁で作っているが、果肉は入ってないからな。俺は作り方も知らねぇ」

「飲めたら良いもんな」

「違いない」


 その通りだと笑うおじさん。

 ウチはドレッシングの味付けを大きく変えるために果肉が欲しい。

 そのためのすりおろし器だ。

 果汁だけなら獣人にお願いすれば搾れる。


「うーん。こことここがすりおろしやすいなー」

「真ん中とひとつ小さいのか。大きいのはダメなのか?」

「引っかかるねん。それに、果肉が大きいわ」

「そうか。それじゃあその2つを基準に作るのでいいか?」


 おじさんがすりおろし器を眺めながら、突起の大きさを確認する。

 後はどのぐらい突起を付けるかだけど、同じ大きさで集めて、擦りおろせる大きさを変えられるようにお願いした。

 両面に1種類ずつ突起を付けることは可能かも聞いたけど、それをするなら突起ごとに作ったほうがいいと言われた。

 わざわざ両面にするために板をつなぎ合わせる必要はないからだ。


 ・・・片面に突起を作った時点で裏面に凹みができるもんな。なんとなく一つで色々できる方がいいと考えてしまったんや。突起の中心に穴を開けて、削ったものが下にくっつけた器に落ちるとか色々。でも、やりたいのはすりおろしやから、そういった改造は後回しや!


「材料は端材で何とかなるな。作業も単純だ。……よし、銀貨1枚でどうだ。売れるとわかればしっかり値を付けるが、今は試作品だからな」

「ウチはええで」

「わかった。じゃあ今からちゃちゃっと作るわ」


 そう言っておじさんは作業を始めた。

 ウチとしてはそこまで急ぎじゃなくてもよかったんだけど、今日できるなら待っていよう。

 帰ったらポコナにもリンゴをすりおろしてあげるんや。


「ところで、その果肉と果汁はどうするんだ?」

「そのまま飲んでもええし、水で薄めて飲んでもええやつやで」

「そうか。じゃあ水とコップを追加で取ってくる」


 少し待つとおじさんが水とコップを持ってきてくれた。

 分量はわからないので、直感で薄めたものを2つ作った。

 どちらか足りなければ追加で入れればいい。


「んまっ!」

「美味いな。なんというか果汁を薄めた物より味がしっかりしてるというか、風味が強い。果肉が喉を通る感じも気持ちいい。果物が高くなければ売れるんだがなぁ。これだけだとちょっと難しいな」

「薄める量にもよるんちゃう?1杯銅貨1枚で売っても、5杯売れば元は取れるやん。6杯売れたら利益やで」

「そうだな。果実水が売れるようになれば、すりおろし器?も売れるから、頼んだぞお嬢ちゃん!」

「ぼちぼち頑張るわ〜」


 ・・・果実水売るために作ったんやないねん。まぁ、ありかなしかで言うとめっちゃありやけども。ただ、果実水売りは請負人の仕事ではないわ。


「そういえば」

「ん?」

「ウチはエル」

「あぁ、名乗ってなかったな。俺はビンスだ。よろしく!」

「よろしく!ハンスやないんやね」

「ハンスは8代前の創業者の名だ」

「そうなんや」


 おじさんの名前がビンスだとわかった。

 それ以降は会話もなくリンゴ水を楽しみ、ビンスは試作品の作成へと戻った。

 ウチは展示されている商品を眺めていたけど、それほど待たずにイメージ通りのすりおろし器が完成した。

 それを使って、残っていたリンゴをすりおろしたけど、最初よりもずいぶん無駄なく集まったので、薄めても利益が得られるぐらいリンゴ水を作れることもわかった。


 ・・・どうせ果実水売るなら食べ物も売りたいな。屋台では肉や野菜が多かったし、バーガーとリンゴ水のセットやったら売れそうや。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ