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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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筋肉痛の休日に軽量袋を買う

文末に稚拙ですがエルのイメージ絵を載せています。

画力不足により軽量袋などはとりあえずになっておりますことをご承知ください。


金髪緑眼の子が関西弁です。



 

「痛てて……」


 ハンマー練習の翌朝、寝返りの際に腕の痛みで起きた。

 跳ね上げ式の窓を上げると、明るくなり始めていたので、いつもよりほんの少し早く起きた程度だ。


「筋肉痛や……」


 窓を閉めながら呟く。

 腕と背中が筋肉痛で痛む。

 足も少し痛いけど歩く分には問題ない。

 筋肉痛の原因を考えたけど、ハンマーを振ったことしか思い浮かばなかった。


「痛てて」

「おはようエルちゃん。どうしたの?」

「おはようポコナ。ただの筋肉痛やから心配せんでええで〜」


 ウチには段差が少し大きい階段を、壁に手をつきながら痛みに呻きつつ降りていると、下にいたポコナから声がかかった。

 ただの筋肉痛だけど、痛いと言いながら降りてきたら心配するはずだ。

 ポコナに答えた後は、昨日のことを話しながら食堂へ向かう。

 初めて自分で魔物を倒したことに、女将さんと同じようにお祝いの言葉をもらった。


「バーガーを3つ!」

「こっちは4つ!」

「こっちは8つだ!」

「あいよ!食後に渡せるようにするさ!ポコナ!手伝ってちょうだい!」

「わかった!」


 食堂に入ると、朝食をとりながら昼食としてバーガーを注文する声が響いた。

 本来昼食を出さない宿だけど、試験的にバーガーを用意することが昨日決まった影響で、今頼んでいる人はレルヒッポを含めたレシピを購入した組だ。

 ちなみにお肉は当日の仕入れ具合によるお任せである。


 ・・・3人組で3つ、2人組で4つなら一人2つまではわかるとして、レルヒッポは一人やのに8個も頼むん?流石にその量だと移動の邪魔になるのでは?どこへ行って何をするかは知らんけど。


 朝食を終えたウチは始業開始である2の鐘を待ってから宿を出た。

 行き先は市場方面で、目的は果物の購入とすりおろし器がないか探すこと。

 そう考えながら大通りを歩いていると、近くのお店から見知った人が出てきた。


「おはよう、ベランさん」

「おや、エルさんではないですか。お元気そうで何よりです。良かったら私のお店に寄って行かれませんか?色々ありますよ」

「ん〜。せやな。お邪魔させてもらうわ」

「では、どうぞ」


 市場の方へ向かっていたからか、ベランのお店に誘われた。

 以前聞いた話では、生活雑貨や旅に使う物を取り扱ってたはずなので、もしかしたら軽量化の魔法が込められた袋も売っているかも知れない。


「1階は日用品です。何か探している物はありますか?」

「調理器具で野菜や果物をすりおろす道具を探してるねんけど、ある?」

「野菜や果物を?すりおろすというとこちらですが、チーズを削るための道具なので違いますよね?」

「せやなー。やっぱないかー」


 ベランが出してきたのは手で握る棒の先が削る部分になっている物で、ウチが探している物とは違う。

 どうやら野菜や果物をすりおろすことはないらしく、これもすりおろすのではなく削る物なので、硬い物専用。

 どうしても細かくしたい場合は、包丁で何度も叩くように潰しているらしい。


「よければ紹介状を書くので、金物屋で作ってもらいますか?」

「ええの?ベランさんに利益は?」

「販売の権利を頂ければ。もちろん、レシピ代はお渡しします。ただし、売上からですが」

「売れなければ少額ってことやね。ウチはそれでええよ」

「では、後ほど」


 現時点で存在しない物を作り出そうとしているので、売れるなら自分のお店で確保したいと考えたようだ。

 品を見ていないのに、言葉だけで売れると判断されたのだろうか。

 抜け目がないところはさすが商人である。


「他に必要な物はありませんか?」

「えっとな、運び屋の人が使う、軽量化魔法が込められた袋が見たいねんけど、置いてる?」

「軽量袋ですか。2階の旅用品のところにありますよ。すぐに向かいますか」

「せやな!早く見たい!」


 というわけで、日用品を買いに来た人たちをかき分けながら2階に向かう。

 階段で手間取りつつも、何とか上がり切った。

 2階の客層は1階に比べて武器を下げた人が多く、たまに商人らしき身なりのいい人がいるぐらいだ。


「2階は請負人の方が多いのです。泊まりがけの依頼や長期間の調査など様々ですが、テントなどの野営道具がよく売れています」

「へー。まぁ、旅といえばテントなイメージあるもんなー」


 他にはみんなでつつく鍋とか、現地で調達した魚の塩焼きとか、季節限定の旬の食べ物とかだ。

 綺麗な景色も見てみたい。

 珍しい動物とか、現地の人の生活も知りたいな。

 そのためにはたくさん移動して、たくさん野営するからテントが必要になるんだろう。


「こちらが軽量化の魔法が込められている魔道具です。値段の安い順に軽量荷車で大銀貨5枚、軽量袋小は金貨1枚、軽量袋中は小の1.5倍入って金貨3枚、軽量袋大は小の倍になり金貨5枚です。軽量箱は大金貨1枚で、袋より丈夫で大の倍入ります」


 ベランに説明されてもピンとこない。

 荷車は大人が引けるぐらいの大きさだが、各軽量袋は紐で縛っているため、ほとんど大きさが変わらない。

 収納箱は大人が10人ほど入れそうなほど大きいので、なんとなくはわかる。

 荷物を運ぶという観点から考えると、一番運べそうなのは荷車に見える。


「小はどれくらい入るん?草原ウサギで言うと」

「草原ウサギですか?12羽ぐらい入りますね。この紐を緩めると袋が広がります。全部緩めて12羽程度です」

「中は18羽で、大は24羽。箱は48羽やな。袋はどんだけデカくなるねん……」


 1羽がウチぐらいの大きさなので、単純に考えてもウチ48人分の箱になる。

 それはもう家だ。

 むしろ屋敷かもしれない。


「軽量箱は騎士や兵士の食糧や武具、雑貨などを積み込んで荷台のない馬車で運ぶことに使います。後は、仮の住居や倉庫といったことにも使われます。恐ろしく魔力を消費するので、常に軽量化するには大きな魔石が必要になります。主な使い方としては積み込む時だけ発動します。そういったものなので、一般の運び屋はまず使いません。こちらにあるのも宣伝のようなものです」


 この軽量シリーズは、上に乗せた物や入れた物の重さを含めて軽くしてくれる。

 ただし、中に入れた物の大きさは縮められないので、袋や箱に入る大きさまでで、袋なら口、箱なら蓋が閉まって初めて魔法が発動する。

 手で持ち運ぶなら袋、馬車で運ぶなら箱、移動範囲が狭いなら荷車という住み分けがされている。

 街の人が使うのは荷車なので一番安く、効果もそれほど高くない。

 袋は大きさの違いだけで、外で活動するなら大きくてもいいけれど、迷宮に行くなら中か小を勧められた。

 箱は最初から候補にすら入っていない。


「この袋は肩にかけるようになっていますが、要望次第で背中に背負えるようにも変更できます」

「背中か……ん?」


 ウチは背中から魔力が漏れ出てる。

 つまり、背負ったら自動的に発動するのではないだろうか。

 いい品だったら魔石を集めてから買おうと思っていたけど、魔石無しで使えるなら、それに越したことはない。


「魔法が使えるか試してもええ?」

「もちろん大丈夫ですよ。小を試しましょう」


 ベランから折り畳まれてぺしゃっとなっている軽量袋を受け取る。

 底と左右、上にも縮めるための紐があり、それとは別で口を縛るための紐もある。

 そんな袋を背中に当たるように背負った。


「おや、発動しましたね。あれ?肩の方にズレたら発動が止まりました。魔力を流すのをやめましたか?」


 見ていたベラン曰く、ちょうど背中の真ん中や、片方に寄るくらいまでは魔法が発動して、薄らと光っていたらしい。

 だけど、肩に担ぐように背中から大きく離れたら止まった。

 ウチが意識したのは魔力じゃなくて、持ち方だけだ。

 つまり、担ぐよりも背負えるようにした方がいいということになる。

 勝手に発動してくれるのも、別のことに意識を向けられるのでとても良いと思う。


「実はな……」


 ベランにウチの魔力路について話した。

 その結果、持ち方を変えただけで発動しなくなったことに納得してくれた。


「もしお買い上げいただけるなら、背負えるようにする加工費は無料にしましょう。その代わり、たくさん組合に納品してくださいね」

「そこまで言われたら仕方ない!買うわ!」


 ベランが楽しそうに言ってきたので乗ってあげた。

 元から魔石を集めてでも買おうと思っていたので、加工費が無くなる分お得だ。

 軽量袋がないと、草原ウサギを頑張って倒しても持ち帰れないので、ドレッシングのレシピ代が吹っ飛ぶのも仕方がない。


「金貨1枚ですよ?大丈夫ですか?」

「大銀貨やけど10枚あるで、ほら!」

「確かに。では、すぐに加工しましょう」


 ベランとしては今日売るつもりではなかったようだ。

 もう少し経って、お金を貯めてから買う時に加工費をサービスしようと思っていたらしい。

 別れて数日の請負人見習いが、金貨1枚分をポンと出してくるとは考えないのが普通なので、この場合おかしいのはウチになる。


 ・・・まさかの結果やけど、欲しい物は手に入ったからよしとしよう。お金の出どころは聞かれなかったし、たぶんキュークス達からお小遣い貰ってると思われたんやろか。お小遣いとしては高額すぎるけど。


「では、こちらが背負えるようにした軽量袋小です。中に金物屋への紹介状を入れていますので、時間がある時に聞きに行ってみてください。恐らくオーダーすることになると思います」

「おおきに!この後行ってみるわ!」

「大通り沿いに市場方面へ向かい、市場への道を通り過ぎて少ししたところにあるハンス金物店です」

「わかった!」


 軽量袋を背負って階段を降りる。

 思わず「痛てて」と口から出たけど、筋肉痛だと話したらベランにくすりと笑われた。


 ・・・それにしても、この袋は背負ってる感じが全くせんなぁ。いい買い物したで。いっぱい狩れるかどうかはウチ次第やけど、何ならドレッシング作りまくって売ればええし!



挿絵(By みてみん)


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