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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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33/305

非力なウチの荷運び方法

 

 街に戻っている途中にお昼の鐘が鳴った。

 草原ウサギを組合で解体してもらっている間にお昼が食べられると思う。


「解体をお願いします!」

「ん?なら組合証も一緒に出してくれ」


 組合に併設されている素材買取所。

 おおきな素材は窓口ではなくこちらで買取なのだけど、そこで解体もしてもらえる。

 もちろん費用はかかる。

 受付の人に買取をお願いすると、組合証の提示を求められたので、腰のポーチから取り出す。


「はい!」

「お。見習いか。初めての獲物だな?」

「そうやで!」

「わかった。素材は全部買取か?」

「それで!」


 素材が必要になれば、もう一度狩ればいい。

 問題は持って帰る方法だけど、後でアンリに相談しよう。


「草原ウサギなら、解体費用を差っ引いて大銅貨1枚だ。ただ、初めての獲物だから肉を持って帰ってもらう。後で焼いて食いな」

「どういうこと?」

「初めて倒したんだ。その獲物の肉を食らって強くなれってこった」

「へー。わかった。おおきに!」


 倒した獲物の肉を食べることで、その獲物が持っていた力を付けろというゲンを担ぎだった。

 他にも生きるために狩るのはいいけど、無闇に狩るなとか、命をいただくんだからできるだけ素材は持ち帰れとか話してくれた。


「解体はどれくらいで終わる?」

「今の待ちだと……昼食後には終わってるはずだ」

「わかった。昼食を取ってくる」

「おう」


 受付の人は、素材の受け取りと費用の受け渡し担当なようで、アンリから草原ウサギを受け取った後、うちと話をしていた。

 そこにアンリが割り込み、先にお昼を食べることになった。


「アンリさん。今日ウチが作ったやつあるねん。一緒に食べへん?アンリさんの分もあるで」

「わたしの分も……。わかった。食堂へ行こう」


 ウチの持つ皮袋を叩きながら誘うと、しばらく考えた後、了承してくれた。

 アンリと組合の食事処へ向かう。

 お水は無料で、お酒は夜限定。

 特に食事を頼まなくても待ち合わせに使ってもいいので、見習いは水だけで過ごすこともあるそうだ。

 その場合、混んできたら優先的に追い出されるけど。


「はいこれ。塩漬け肉バーガー。宿の人は美味いって言ってたで」

「パンで野菜と肉を挟んでる?いただく。……美味しい。野菜に別の味がついている」

「それはドレッシングって言うねん。ウチがレシピを売って、宿の周りで流行り出してるねんで」

「そう。エルは凄い」


 会話の後から黙々と食べているので、ウチも自分の分に手を出す。

 ウチの口には大きいけれど、頑張って口を開けば齧れなくはない。

 ハーブが入っているドレッシングなので、焼いた塩漬け肉がいい風味で食べられて、新鮮な野菜によってさっぱりとする。

 野菜の水分をパンが吸収したことで少し柔らかくなっているので、ウチみたいな子供でも噛み切りやすい。

 長時間持ち運んだらどうなるかわからないけど。


「ご馳走様。美味しかった」

「それは良かった」


 ウチが一つ食べる間に、アンリは2つペロリと食べた。

 この後宿まで送った時に、ドレッシングの作り方を教えてほしいそうだ。

 レルヒッポ達に大銀貨1枚でレシピを売り、作り方を見せたと伝えたんだけど、ためらいなく払うと言われた。


「アンリさん。ウチが草原ウサギを持ち運ぶ方法あるかな?」

「身体強化できない場合……」


 アンリが考えだす。

 普通は運ぶ時だけ身体強化を使う。

 大きな袋に入るだけ詰め込んで、強化した体で持ち上げれば運べるからだ。

 子供でも魔力を持っているので、草原ウサギぐらいなら背負えるし、スジが良ければ2、3羽入れた袋を背負える。

 だけど、身体強化を使えないウチの場合、草原ウサギを持ち帰るだけで手間だ。

 今回はアンリが持ってくれたけど、ウチがウチより大きい草原ウサギを持とうとしたら、全く盛り上がらなかった。

 背中に置いてもらった時には、重さでウチが潰されそうになったところで、固有魔法が発動して地面に滑り落ちた。


「荷物は商人や運び屋が使う魔道具があれば……」

「どんな魔道具?それと運び屋って何?」

「詳しくは知らないけれど」


 アンリが話してくれた魔道具は、軽量化の魔法が込められた道具で、使用者の魔力か魔石の魔力で発動する。

 袋や箱、荷車などの荷物を持ち運ぶものに付与されていて、運べる大きさは入れ物の大きさまでだが、魔法によって軽くなるので身体強化と合わせるととても沢山の物が運べるようになる。

 そんな運ぶこと専門の人達が運び屋と呼ばれ、街から村へ物を運んだり、逆に村から大量の物資を運ぶこともある。

 請負人と契約して迷宮に入り、たくさんの戦利品を運ぶこともあるので、外で活動する時と合わせて、自衛できるぐらいの戦力は求められる。


「運び屋が使う魔道具は商店で売ってる」

「請負人は使わんの?」

「荷物の持ち運びしながら戦うのは面倒」


 軽くなるとはいえ、大きな袋や箱を持って戦うのは、動きが阻害されて戦いづらい。

 荷車であれば手を離すだけで済むのだが、そちらを狙われて壊されたら持ち運べなくなってしまう。

 であれば、最初から持てる量を制限することで、取捨選択を判断しやすくしている。


「はー。運び屋も請負人なん?」

「請負人もいれば、独立している人もいる」

「なるほどなー。ウチが魔力を使えたら運び屋もありやったかもなー」


 ウチの身につけている物は固有魔法の対象になる。

 掃除や旅をして服や靴が汚れないのがその影響だ。

 それが背負っている袋にも影響するので、魔道具の袋になっても変わらず守られるはず。

 そうなると、敵の攻撃を受け付けない運び屋が完成するわけである。


「それなら普通に身体強化をして請負人ができる」

「確かに!」


 魔力を普通に使えるなら運び屋じゃなくても身体強化でいい。

 そうすれば戦いやすくなる。


 ・・・でも、それなら運び屋の方が戦わなくていい分いいかもしれへん。草原ウサギは頑張って倒せたけど、オオカミは無理なんちゃうかな。怖いし早いから。知らんけど。


「混んできた。肉を受け取って宿へ行こう。送る」

「せやな〜。ドレッシングの作り方も教えるで」


 食事処が混んできたので、素材買取所へ行き、捌いてもらったお肉と、報酬の大銅貨1枚を受け取った。

 その足で宿へと戻り、お肉を女将さんに渡すとお祝いの言葉をもらい、夕飯は豪華にすると言われたので、ウサギ肉バーガー用にお肉を焼いてほしいとお願いした。

 普通にパンを食べるより食べやすいのだ。


「これがドレッシング」

「の基礎やね。色々加えて味を変えたりすんねん」


 食堂の机でアンリにドレッシングの作り方を教え、女将さんにもらった試食用の野菜を試してもらう。

 満足そうなアンリを見つつ、ウチは加える物について考える。


 ・・・チーズを削る棒だと、果物やパンは削りづらいやろう。そうなると削るための道具が必要になるな。何となく形は浮かんでるんやけど、ほんまにこれでできるんやろか。どっかで試作してもらわないと判断できへんわ。


 頭に思い浮かんだ道具を探すか、作ってもらわないと色々な味のドレッシングが作りづらい。

 明日は休日なので、市場をぶらつくのもいいかもしれない。


「明日はお休み。明後日は勉強だから、次は3日後」

「明日や明後日はええの?」

「一人で草原ウサギを狩れたから、ひとまず問題ないと判断した」

「そっか」


 宿の入り口でアンリと今後のことを話した。

 次に会う3日後までに、何をするか考えておくそうだ。

 今のところ採取になる予定と言われた。


 ・・・まずは薬草で、慣れてきたら毒草やキノコ類。魔物の巣にある物や分泌物など、採取方法を覚える必要があるものになっていくんか。大変やな。書いて記録できる物が欲しいわ。


 アンリと別れたら、今後のことを考えつつ柔軟をして、夕食後に身を清めて就寝だ。

 ウサギ肉バーガーは塩漬け肉バーガーより美味しかった。

 お肉の油が甘くてとてもジューシーだった。


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