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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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吐血毒の先へ

 

 エリザが毒を出す植物を焼き払った場所の周囲に風を出す魔道具を配置して毒の流入を少しましにした場所を確保。

 迷宮から取れる木材を使って木の柵を周囲に立てて、簡単な拠点を構築した。

 流石の吐血毒がある場所ではこんなことはできないから、痺れ毒のエリア内に作っている。

 テントの素材にこの辺りで取れる素材を使っているから、中で休む分には問題ないらしい。

 外で活動する時は注意が必要なのは変わらないし、ここで作るスープなどの食事には毒消し薬を入れないといけないから、ちょっと風味がピリピリするけれど結構美味しい。

 それを言ったら苦笑されたけれど。

 どうやらエリザとナーシャは、このピリピリが苦手らしい。

 苦味もあるし。


「それじゃあ明日はエルとネルソンで探索をお願いするよ」

「わかった。少しだけアンリさんに見てもらうんやろ?」

「そう。エルの固有魔法がネルソンにしっかり効果があることを保証してもらわないとね」


 ネルソンはナーシャのパーティで斥候をしている人で、落ち着いた雰囲気を纏ったおじさんだった。

 大ぶりのナイフ2本をメインに、鉤爪のついたロープや投げナイフ、煙玉に毒薬などを使う戦い方で、戦闘よりも生存に力を注いでいるらしい。

 小さなカバンに全く美味しくないけれど腹持ちがいいと斥候職で評判の保存食を入れて、いつでも持ち歩いている。

 寝る時ですら装備一式を近くに置いているのだから、筋金入りだろう。

 そんな常在戦場のような考え方は、ウチには無理だ。


「さて、よろしくな。お嬢ちゃん」

「よろしゅう。ネルソンさん」

「じゃあ、背負わせてもらうぞ?」

「いつでもええで。ばっちこいや」


 勢いよく両手を上げて、いつでも背中に乗れるように構えた。

 シルヴィアいわく、エルの威嚇ポーズらしい。

 いつも受けてる人が言うのだから、側から見るとどうなんだろう。

 このまま背負子に座って腕周りを固定してもらい、その場で数度ジャンプや走り込みをしてもらって調整する。

 今日のところは軽い探索でウチの固有魔法に慣れてもらうのと、アンリの目で問題ないか確認してもらうのが目的だ。


「緩いところはないか?」

「ないで!」

「わかった。アンリの準備は?」

「問題なし」

「わかった。人数が少ないから隠密重視でゆっくり進む。何かあれば声をかけてくれ。小声でな」

「わかった!」

「小声でだ」

「ほーい」


 ため息で返されたけれど、とりあえず進むことにしてくれた。

 痺れ毒エリアは他の人たちが護衛してくれるので素早く移動し、吐血毒エリアに入って少ししてから徐々に人が離れていく。

 アンリの他に魔法を放てる人が2人、最後まで援護してくれていたけれど、積極的に戦った影響でたくさんある魔力を消費して離れていった。

 いざという時はエリザが森を焼き払ってでも助けに来るという言葉を胸に、ウチらは吐血毒が蔓延している森の中を進んだ。

 途中何度も魔物を迂回して、珍しい素材のみ集めた。

 そして、きれいな水場を見つけたから、昼食を取ることにした。


「アンリ。魔力の流れはどうだ?」

「問題なし。まだエルの魔力に覆われている」

「なるほど。やっぱり魔力を通しやすい素材だと効率がいいみたいだな。アンリの体の調子の方は?」

「今のところ問題ない。7割ぐらいある。ただ、戦闘があると帰りが心配かもしれない」

「わかった。できるだけ先頭を回避できるように動き方を教えるから、なるべく意識してくれ。もしも戦闘になったら俺が出る」

「わかった」


 ネルソンは今回のために、耐久性よりも魔力が通しやすい素材の防具に変えて来てくれた。

 一応ナーシャの団にある訓練場で何度か試したけれど、今回のような継続的に影響を受けることは再現できないから、動きの確認だけになっていた。

 もちろん色々な人にボコボコにされて、固有魔法の効果を身をもって体験してもらってもいる。

 その時にウチから遠い所ほど魔力が届かなくなって、効果が薄くなることを話した結果だ。

 アンリは固有魔法の効果を受けていないので、自前の魔力で強化しつつ薬でどうにか凌いでいるので、魔力管理が重要となる。

 薬はどうみても変な味がしそうな濃い黄色の粉だったから、ウチはギリギリまで飲みたくない。

 そんなことを考えながら背負われているうちに今日の探索が終わり、拠点へと戻った。


「お帰り!どうだった?」

「まだ様子見だな。あと2、3日かけてまっすぐ奥へと進むルートを構築するつもりだ。というわけで食ったら寝る」

「お疲れ様。エルとアンリもお疲れ様。警戒とかは僕たちに任せてゆっくり休んでね」


 拠点に戻ったらナーシャに迎えられ、食事と睡眠を勧められた。

 アンリは食べたら疲れを取るためにテントへと寝に入ったけれど、ただ背負われて後方を警戒しているだけのウチはまだ元気だったから、お風呂に入る前に少しだけ体を動かした。

 翌日、さらに翌日と、ネルソンに背負われてアンリや他の魔力が多い人と一緒に森を突き進み、途中で未発見の素材や、道中で出会う魔物と同じ見た目なのに毒が強かったり攻撃方法が異なる魔物にも出会った。


「なぁなぁ、森広ない?全然探索終わらんやん」

「森の広さは誰にもわからんな。迂回して遠くに行くことができるから、海や山に行く請負人は森に入らずぐるりと周っている。それでも、この森の周囲を回り切ったとは聞いてないし、それをするぐらいなら、どこかの狩場で狩らないと食糧や体力が持たないはずだ」

「そう言うぐらい広いんやな。あと、ここ行かんかったら海行けたん?」

「そうだ。草原が広がっていて、ところどころに林。そこからさらに進むと森や山が出て来て、その先に海になる。とは言っても、山の所々は森だし、海につながる川も流れている。森もいくつかあって、入り口に近いほど魔物が弱い傾向にあるから、木材などはその森から取っているな」

「ほーん。この森は入り口から一番遠いん?」

「いや、海の近くにも森がある。そこが一番遠いんだが、そこは粘ついた物が多いぐらいでここほど状態異常が溢れているわけではないな。コツを掴めば動き回れるほどの森だ。あと、魔物に虫が多いか」

「ここみたいな花やキノコちゃうんやな。デカい虫はちょっと怖いわ」

「虫はしぶといし、力もあるから強いぞ。エルの固有魔法には敵わないだろうが」

「はー。いつか行ってみたいわ」

「ナーシャたちに頼めば連れて行ってくれるだろう。まぁ、請負人なら自分で行きたいと言う気持ちもわかるが……」


 この他にも休憩中に背中合わせのネルソンと色々な会話をした。

 海エリアは魔物と戦いづらくて探索が進んでいないことや、山エリアでは洞窟から良質の魔鉄や魔銀が掘れること、美味しい魔物の料理を出している店など多岐にわたる。

 中でもウチが興味を持ったのは、海エリアで獲れた魚を樽に入れて運んで料理する店だ。

 もちろんそんな手間をかけているから一見さんお断りな超高級店で、ある程度の名声がないと予約すらできないそうだ。

 ウチの大迷宮都市での目標が決まったかもしれない。

 そしてさらに調査を進めること半日。

 ナーシャたちの目的が達成されるかもしれない現象が目の前に広がった。


「なんだこれは?」

「あの部分の魔力が薄い。ほんの僅かしか流れていない。何かが覆っている?」

「2人だけずるいで!ウチにも見せてや!」

「あぁ、すまない。だが、できるだけ静かに頼む」

「それはごめんやで」


 ネルソンが反転して見ていた先にウチを向けると、そこにはやっぱり森が広がっていた。

 しかし、その木や草、葉が灰色に覆われている部分があり、それはここまでの吐血毒を放つ赤や紫ではなく、石のようにも見える。

 アンリの目には他の葉っぱや木の幹などに比べて流れている魔力が少ないようで、詳しく聞くと1/10よりも少ないほどしか流れていなかった。

 そんなアンリだからこそ、流れがおかしい風景から灰色の部分を特定できたと言える。

 ウチとネルソンだけだと、石っぽい何か程度にしか思わなかっただろう。


「こういう時ってどうするん?帰るん?それとも触るん?」

「触るのは論外だ。せめて棒や何かで突つくところからだが、エルの嬢ちゃんはあれに危険な感じはしないのか?」

「うーん。特に何も感じへんな。岩とか地面、普通の木と同じで反応なしや」

「そうか。なら、襲いかかってくる何かではないようだな。だからといって素手で鷲掴みにしたりなどしないが」


 ネルソンは戦闘用から採取用の革手袋に付け替え、さらに棒を取り出して灰色の部分に当てた。

 何度か軽く叩いた後、音を聞いたり強く叩いたり、叩く角度を変えたりと随分慎重だ。

 途中やけにリズミカルになった時は楽しんでいるのかと思ったけれど、一定量の振動に反応するかもしれないと言われたら何も言えなかった。

 じっくりと思いつく限りのことを試したら、最後は出っ張りに棒を引っ掛けて灰色の部分を剥がし、その下がどうなっているかを確認する。

 その結果、灰色の下は木の皮を剥がしたときに見える白い部分で、他のところに比べると随分みずみずしく、まるで今皮を剥いだかのような新鮮さだった。

 灰色の石みたいな物の裏側に、木の皮は付いていなかったので、これが脆い皮のような役割を果たしていたのかもしれない。


「表面を覆っているわけではなく、表面が石になったのか?落ちたところから同じようになるわけではないから、触っても問題なさそうだが……。やはり問題なかったか」


 ネルソンが剥がした灰色の物体を手に取った。

 革手袋越しのそれから灰色が伝染するわけでもなく、ただの変わった形の石にも見える。


「なぁ。ウチ背負ったままで持ったら固有魔法の影響で弾くこともあるんちゃうん?」

「……確かに」


 沈黙が降り、さわさわと風で葉が揺れる音だけが残る。

 ちょっと気まずくなったウチのことを気にしてか、結局アンリが触って問題ないことを確かめた。

 アンリの目には魔力が周囲に伝わっていないことが見えていたようだ。

 最初からアンリが調べれば良いのではと思ったが、魔力を見るのにも魔力を消費するため、帰りの魔力のことも考えて温存する必要がある。

 気を取り直していくつかの灰色の物体を採取し、今日のところは帰って調べることになった。

 このまま突撃するのは2流の請負人らしい。

 ウチは行けば良いと思っていたのでまだまだ2流だった。


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