エルの魔石を射出
ウチには効かないことがわかってから、キュークスとアンリを中心に、ウチを狙って試射が始まった。
いざという時魔物に放って使う練習らしいけれど、別にウチに対して使わなくてもいいはずだ。
何より見た目が最悪なせいで、たまたま光景を目にしたナーシャの団の人たちがめちゃくちゃ引いている。
中には慌てて出てきた人もずっと居て、効かないとわかっていても棒立ちなのが心臓に悪いと叫んでいた。
何度も繰り返すにつれ、その人が後からやってきた人に説明する係になってしまったのには少し笑ったけれど、魔力が破裂する光の中でニヤリと笑うウチは不気味だと言われた。
あまり容姿に自覚はないけれど、キュークスやシルヴィア、ミミからは可愛いと言われているのに失礼な人である。
子ども相手に不気味だなんて。
「とりあえずエルを囮にして魔力花を放てば、魔物の足止めやらはできそうっすね」
「ウチ囮にしたら逃げられへんやん。ウチが」
「囮じゃなくてもエルは魔物から逃げられないっすよ。魔力花でさらにエルを強調して、そこに飛び込んできた魔物をハリセンで叩くっす。そうすれば他の人がトドメさせるっす」
「それ、いつも言われてる緊急時の対応と変わらんやん」
ウチらが集まって活動する時の、いくつかパターン分けされた内の一つだ。
大抵の魔物はベアロが抑えてキュークスが牽制、ガドルフが急所を狙って切り付け、アンリが魔法で援護、ウチを背負ったシルヴィアが陽動として魔物の前でウロチョロする戦法を取るつもりだ。
しかし、魔物が複数いたり大きすぎて攻撃が当てづらいなどの場合、ウチのハリセンを一部に当てて行動不能にし、どうにかして倒すという戦法も考えられている。
話題に出たのは逃走するしかないほど強い魔物に遭遇したパターンかつ、相手の攻撃をウチの固有魔法が防げる場合だ。
ちなみに、固有魔法で防げないほどの魔物の場合、ウチとシルヴィアのセットで逃すことが決まっている。
抗議したけれど生き残れる可能性が高く、他の請負人と組んでもある程度結果が残せそうな固有魔法持ちを優先するのは普通だと説き伏せられた。
いまだに納得はしていないけど、理解はできる。
「そうっすね。ただ、エルを無視してわたし達の方へ来る可能性もあるっすよ。小さなエルよりベアロの方が食いでがあるっす」
「確かに」
「他には魔力を垂れ流しているせいで警戒されるかもしれないわね。アンデッドドラゴンみたいに」
「あー、それもあるな」
キュークスの言うアンデッドドラゴンは、アンデッド迷宮で新しく出現するようになった階層主だ。
ウチがハリセンを持って走っても、すぐに距離を空けられて叩けず、なかなかに苦戦した。
ナーシャの友人である真っ赤なドレスで迷宮に潜る、鞭使いのエリザによって鞭に巻きつけたウチを振り回して倒すことに成功した。
あのアンデッドドラゴンは、ウチがハリセンを持って近づくだけで距離を空ける臆病者だった。
いや、ハリセンの効果とアンデッドとの相性を考えると、懸命な判断かもしれない。
「それで、これで終わりかしら?他に試しておきたいことがあるなら今のうちよ。外に出たら気軽に放てないもの」
「うーん……ウチはないかなぁ……」
「そうっすねぇ。これを貰うとして、あと試すとすればエルの魔石を放つぐらいっすかね?」
「それや!これでうちも戦える!……はず!」
「いやー、それはどうっすかね」
「無理だと思うわよ。ハリセンを飛ばすならともかく」
「ぐぬぬ」
「ぐぬぬって言うの初めて見たっす」
「エルなら言ってもおかしくないわよ」
「それもそうっすね」
キュークスとシルヴィアが納得しているけれど、ウチはぐぬぬ系女子ではないはずだ。
攻撃に使えないと分かり合っていることに悔しくなって言っただけだし、口癖でもなんでもない。
今まで言ったことがないはずだ。
おそらくきっと。
「とりあえずウチの魔石で試すで!ほんで、どうするん?的はウチ?」
「それもするっすけど、まずは物に対してっすね。火や水と違ってどうなるかわからないっす」
「少しズレるだけだと思うのよ。でも、放たれた勢いで弾かれたら怪我をするかもしれないし、まずは様子見ね。アンリ、しっかり見ておいて」
「わかった」
ナーシャと話し込んでいたアンリを巻き込んで、ウチの魔石を使った実験が始まった。
もちろん隣で話を聞いていたナーシャや、ナーシャの団の人も一緒だ。
そんな集団の前でなぜまた自分がと首を傾げたシルヴィアが筒を持って構え、的として置いた木箱に向けてウチの魔石を放つ。
夕焼け色の光が木箱へと飛び、他の魔石の時と同じように破裂する。
音もなく周囲に飛び散った光が木箱をガタガタと揺らし、地面の小石がコロコロと転がる。
光が当たった草は押しのけられるように曲がり、後から戻ってくるかのように突風が吹いた。
「なんで風吹くん。風の魔石の時もこっちには吹かんかったのに」
「魔力で押しのけられたところに風が入ってきたのときっと。奥からこっちに戻ってくるのは……光の塊が大きく空間を空けるからかしら?散ったら一つ一つが小さくなるから、勢いも減るのよきっと。アンリ、合ってるかしら?」
「魔力の動きは合ってる。風は魔力で発生していないから見えない。押しのけられているか確かめるために、直接受けてみる」
キュークスと話したアンリが何の気負いもなく木箱があったところまで進み、シルヴィアと対峙する。
別に戦うわけではないけれど、普段通りのジトッとした目片で見られると妙な迫力があり、シルヴィアもどこか落ち着かなそうだ。
眼帯に覆われているせいで失った目の瞼が開けにくくなり、残った目をしっかり開こうとすると力を込めなければならない。
以前その話を聞いた時に、ウチも片方の目を閉じた状態でもう片方を開こうとしたからわかる。
別にアンリは眠かったりやる気がないわけではなく、むしろ今のような魔法や魔道具が絡むことは楽しんでいるはずだ。
「いくっすよ」
「いつでも」
ウチの魔力が入った魔石を魔道具にセットし、魔道具を使ったシルヴィア。
いつの間にかナイフを手にして構えていたアンリに向かって光が放たれ、少し手前で破裂する。
飛び散った光の一部がアンリへと降りかかるも、ナイフを高速で振り回して弾こうとした。
数発は弾くことができたけれど、足や肩に当たった瞬間バランスを崩し、後は当たり続ける光に押し出されるように後ろへとずれ、やがて転んだ。
ゴロリと転がって受け身を取ろうとしていたみたいだけど、そこにも光が当たるせいでうまくいかず、光が収まるまでビクビクと震えるだけになった。
「えっと……、他にも受けてみたい人おる?」
「あれを見たらやりたくないわよ」
「せやんな」
「いや、今のうちに色々試すべきだね。ということで僕の団から盾を使う人を集めてくるよ」
誰も好き好んで転がされたくないだろうけど聞いてみたら、キュークスは断ったけれどナーシャがやりたがった。
実際にはナーシャ自身ではなく、実験をしたいだけのようだが。
そうしてナーシャの団の人が集まるのを待っている間にアンリから話を聞き、飛び散ったウチの魔力のせいで何度も押されたせいだとわかった。
弾く力が自分から向かってくるのだから、そうなるんだろうなと理解しておく。
押される力は小さいから、しっかりと身体強化をかけていれば耐えられる程度みたいだけど、魔力同士がぶつかって維持しづらくなるらしい。
最初当たった時はそれに気づかず、ナイフへの反動が出てきた時に魔力を見る力で見たら普段通りじゃなかった。
そのことに一瞬動揺して避け損ない、後は光をたくさん浴びて転がされたということだった。
「お待たせ!団の前衛を数人読んできたよ!みんなはあっちに並んで盾や武器で飛んでくる魔力を防いでね!」
「おう」
「いつもの実験だな」
「任せて」
「酒を振る舞ってくれよな!」
呼ばれた男女が口々にナーシャへと返しながら指定された場所へと向かい、それぞれが距離を空けて半円に広がった。
防具を着ていないけれど、武器や盾などの手に持った物で弾く実験だと言われているらしい。
しかも、なぜかアンリの説明を受けずにいきなりやらせる無茶振りだった。
迷宮の中で不慮の事態に陥った時の訓練にもなると、ナーシャからこそっと伝えられたから、一応納得しておいた。
訓練だから内容を知らされていてもいいのではと、ちょっと引っかかりつつ実験を眺めることにした。
「それじゃあいくよ!」
シルヴィアに変わってナーシャが魔道具を使い、ウチの魔石を使って魔力を放つ。
魔石を渡した時若干動きが止まったのは、ウチの魔力入り魔石が欲しいからだと思う。
放たれた光はアンリの時と同じく、団の人たちが固まっているところよりも前で破裂し、ウチの魔力を撒き散らす。
団の人たちは魔道具のことを知っているから、しっかりと構えていた武器で光を逸らしたり、逆に迎え撃って叩きつけたりしている。
ウチの目では追いきれない速さで振るうせいで、若干気持ち悪さを覚えるほどだ。
・・・遠いせいもあるんやけど、なんか腕や持ってる物がぶれて見えるねん。避けながら振ってるせいで体勢も変な感じやし、気持ち悪いわぁ。どっしり構えて対応するには細かく散ってるんやろうけど、やっぱ気持ち悪いわ。何やねんあの動き。
一番目を引いたのは、両手でナイフを振るう細身の女性。
キリッとした目は真剣で、そこだけ見れば格好いいのだけど、動きがぐにゃぐにゃしているせいで不気味さが勝つ。
曲がり角からぬるりと出てこられたら、悲鳴を上げること間違いなしだ。
そんな奮闘する人たちへ、ナーシャはみう一発放った。
今のままだと防ぎ切られそうだったからだろう。
そして案の定2発目の光を弾いているところでバランスを崩し始めて、やがてアンリと同じようにゴロゴロと転がされてしまった。
盾を構えている人だけがなんとか耐え切ったけれど、最後の方は持っていかれそうになる盾を意地でも話すものかと言わんばかり押さえつけていた。
「魔物と戦う時も武器に魔力流して強化するんやろ?魔物の魔力とぶつかっても消えへんの?」
「戦う時はより魔力が多い方が勝って、負けた方に傷がついたり折れたりするっす。だけど、その時に魔力を消費する訳ではないんすよ」
「打ち合ったら少しは散るわね。だけど、その分は追加で流せばいいのよ。アンリの説明だと、流していた魔力そのものが剥がされるかのように散ったようだから、いつもの感覚で弾いていたらいつの間にか魔力が流れてないことになるわ。そうするとエルの魔力を防げなくなって、一歩的に弾かれるのね」
「あの盾の人が耐えれたのはなんでなん?」
「途中で盾に魔力を流していたし、身体強化も追加していた」
「アンリさんは見えるもんな。なんで気づいたんや?」
「周りが倒れたからでしょうね。普通あんな状態になったらまずいと判断して防御に専念するものよ」
キュークスの言葉に周りの人が頷いていた。
危なくなったら身体強化と武具への魔力強化が身を守る時のやるべきことらしい。
ウチにはできないけれど、丸まって固有魔法を全面に押し出せばいいと言われているから問題はないけれど。
「それじゃあ続けるよ!」
「え?!まだやるん?!」
「やる!こんな攻撃をしてくる魔物がいるかもしれないからね!できる時に色々な訓練をするべきなんだ!」
「ふむ。そう言われると俺も参加したいな」
「わたしもした方がよさそうね」
「2人がするなら俺もやらないとな!」
「これはわたしもっすね」
「やる」
「えー。みんなやるやん。じゃあウチも」
「エルはやらなくていい」
「せやんな」
アンリに拒否されたので、ウチは大人しく見学になった。
武具に魔力を流した場合、流れが悪くなった時点で止めるらしい。
その後はそれぞれの感覚で魔力を追加しながら戦い、強い攻撃をする時だけ入れづらくても一気に流したりもする。
常に魔力が流れるか確認しながら戦うのは、集中できていないから一歩間違えれば危ないことになる。
それをできるようにするのが日々の訓練や実践で、ガドルフたちよりもナーシャの団の人たちの方が戦い方が上手く、立ち回りも綺麗だった。
だけど、そんな人たちも至近距離でウチの魔力が詰まった魔石を魔道具で放ったら、耐えることなく吹っ飛ばされるほどだった。
これはいい武器を手に入れたかもしれない。
ウチは魔力を流せないので使えない
しばらく不定期になります。
仕事終わらせた数より始まる数の方が多い。




