魔力花の魔道具
遅れてすみません。
体調崩したのと仕事が大忙しで手が回ってませんでした。
少しだけ落ち着いたので、できるだけ書きたいと思います。
よくわからない曲が流れることに困惑しながらも、色々と試してみることになった。
暖かな気候を思い浮かべたら、穏やかな音楽と共に川のせせらぎが。
日照りが強くなり、みんなが暑い暑いうるさい日々を想像したら、複数の聞いたことが混ざった陽気な音楽が。
小麦の実りを想像すれば、笛を中心とした何かを祝ってそうな音楽が流れる。
寒い日々を暖かく過ごしていた日を想像すると、荘厳な曲にとても勢いのある波の音が重なって流れた。
そのどれもが聞いたことないはずなのに、どこかしっくりとくる不思議に首を傾げつつ、ナーシャが大体の曲調を覚えるまで流し続けた。
「いやーいい曲を覚えれたよ!これで他の団との交流会で驚かせられるね!」
「あー、やっぱそういうのあるんや」
「あるよ。街に団の拠点を構えている以上、どうしても横の連携は必要になるんだ。パーティ同士で同じ依頼を受けて連携することもあるでしょ?あれの大人数だね。お互いの得意なことを知っていればうまく割り振りもできるし」
「ガドルフはたまに他の請負人のリーダーと情報交換しているのよ」
「俺も酒場で情報交換してるぜ!」
「ベアロのはただの酒盛りだから気にしないでいいわ。それに、エルこうしてパーティじゃない請負人と話をしたり、屋台を通して色々な人と交流があるでしょう?どこの組織も大なり小なり交流は必要なのよ」
「なるほどなー。難しく考えへんかったらできてる気がするわ」
世間話をすればいいだけなら、ウチでもなんとかなる。
しかし、お願いに対してやるやらないもできるけれど、適正な報酬や依頼にかかる労力の計算は無理だ。
なぜなら、ウチがまともな請負人ではないからだ。
とても強い魔物だったとしても、ハリセンさえ当たれば何とかなるし、危険な場所だとしても今のところ高い壁などの物理的な問題以外で止められることはない。
危険すぎたらシルヴィアに影響が出てしまうけれど、途中から1人で行けばある程度探索はできるはずだ。
固有魔法持ちには、それを活かした依頼が来ることがあるから、交渉や情報収集は怠ってはいけないと締めくくられた。
その後もいくつか魔道具を見せてもらったけれど、あまりピンと来るものはなく、昼食を挟んで日が暮れた頃、魔石を消費して光の花を咲かせる魔道具を実演することになり、ナーシャの団の人も含めてぞろぞろと外に出た。
「いいかい?魔石は足場を捻ると取れるから、取った足場に入れる。筒を戻して準備完了」
「簡単やな」
「そうだね。足場は少し捻るだけで取れるから、あまり悩まないで済むよ。それで、次は魔力を流すんだけど、注意するとしたら筒は非常に魔力が流れにくいことかな」
「足場に魔力を流せばええんやな」
「その通り。僕がやるとしたら、指先を足場につけてゆっくりと魔力を流して、魔石が飛ぶんだら止めるんだ。ほら、もうすぐ飛ぶよ」
言いながら話した指先を筒の先端に向けたナーシャ。
何か予兆があるのかと見ていたけれど、いきなりシュポっと音を立てて何かが飛び出した。
その何かは3階建てのナーシャたちが暮らす屋敷の屋根より少し高いところまで飛んでいき、パッと弾けて赤い花のようなものを咲かせた。
赤い花といっても花びらがあるわけではなく、雨粒のような小さな光が四方八方に飛び散って花のような形になっているだけだ。
そして、その光も2階に差し掛かる前にスッと消えて、後には何も残らなかった。
ただただ綺麗なだけだが、惜しいのは夕暮れじゃなくてもっと暗くなってから見たかったということぐらいだろう。
そんな風に考えながら、光が消えたところを見上げていると、アンリが眼帯越しに周囲をキョロキョロしている。
「どしたん?なんかあったん?」
「光が消えても魔力が周囲を漂っている」
「ふーん?魔石が溶けたんやろか。なんか問題でもあるん?」
「わからない。普段魔法を放ったら、その効果がなくなると魔力も消えている。例えば火の魔石を使って炎を放ったとして、放った直後は赤い魔力で空間が満たされる。目標に着弾すると同時に霧散して魔力は消えて、残るのは炎で燃やされた何か。そこには魔力がない。水生みも同じ。魔力を流している間は水が出続けるけれど、コップに出た魔力は普通の水と同じぐらいになっている。でも、さっきの魔道具で放った魔力はすぐには消えていない。今はもうほとんどが散っているけれど、魔力濃度と言えばいいのか、周囲の魔力は使う前よりほんの少しだけ濃くなっている……と思われる」
「お、おう……。なんか普通とちゃうんやな?」
普段寡黙なアンリが勢いよく話すことに驚いて、あまり内容が理解できなかった。
しかし、ナーシャは違ったようで、団の人を含めて色々と話し始めた。
放っておかれたウチらは暇になったから、魔道具をいじってみることにした。
体の中に放ったり、体に触れた状態で放たなければ安全だと、笛っぽい魔道具を紹介された時に聞いていたから。
「結構簡単に取れるなこれ」
「凹みに上手く引っ掛けて固定するみたいっすね」
足場の内側は溝と出っ張りがあって、内側はそこが上手くハマるように溝と出っ張りがいれ違う形で作られていた。
それぞれ出っ張りの先に止めるための突起があり、出っ張りを角度を変えてみると突起が刺さる部分を見つけることができた。
「魔石を入れて魔力を流したら、なぜ空に上がって拡散するのかしら?」
「筒見ても普通の円柱っすね。足場も変わったところはなさそうっす。発射される瞬間を見たら何かわかるかもしれないっすけど……」
「危ないわよ」
「でも、エルなら見れるんじゃないっすか?火傷するぐらいの攻撃なら弾くっすよ?」
「それは……そうね」
「えー、顔にあの破裂する光当たるかもしれへんやん。危なない?」
「もう一回放ってどう感じるか確認したら良いっすよ」
「せやな。それならなんかわかるかもしれへんわ」
魔力について盛り上がっているアンリとリーシャを尻目に、団の人へ使っていいか確認すると、使わずに報酬として貰うのはよくないと、積極的に使うことを勧められた。
水生みの魔道具のために携帯している水の魔石を底に入れ、しっかりと固定する。
後は魔力を流すだけというところでウチは下がってシルヴィアに任せた。
ウチの背中に触れさせれば使えるかもしれないけれど、その確認は後回しだ。
「魔力を流すのは苦手なんすけどね」
「ウチよりはできるやん」
「エルの場合はずっと流れてるようなものっすよ」
「垂れ流しやけどな」
軽いやり取りをしている間に魔力を流せたようで、少し待ったらシュポっと青く光る玉が空に放たれる。
出ることがわかっているからしっかりと意識でき、いつもの直感はあれが当たっても怪我をしないと判断した。
それはそれとして空に広がる青い花は綺麗だった。
「どうっすか?」
「問題ないで。あれがウチに当たっても怪我せぇへんわ」
「まぁ、そうっすよね。あの花がアンデッドドラゴンのブレスや攻撃より危ないようには見えないっす」
「問題はエルに当てた時にどうなるかね。跳ね返ってこっちにきたらわたし達が大変よ?」
「頑張って捕るわ」
「そういうところ、エルには期待してないから無理よ。運動能力は普通の子だもの」
「っすね。身体強化できない分、見習いの子よりも動きは遅いっす。料理とか細かいことは問題ないっすけど、早く動いたり体を使わないといけないことには向いてないっすよ」
散々な言われようだけど否定できない。
せめてウチが運動能力のある獣人なら、もう少し可能性があったかもしれないけれど、ただの人だから考えるだけ無駄だ。
結局、料理に使うボウルを持つことになった。
これの方が中でくるりと回って跳ね返りそうだけど、ある程度軌道がわかる方が避けやすいと返ってきた。
運動できる人たちの考え方は理解できない。
向こうも固有魔法を理解できないからお相子だけど。
「それじゃあいくっすよ。しっかり受け止めてほしいっす」
「頑張るけど期待せんといてや。そっちはちゃんと避けられるように準備いるで」
「身体強化はしてるっす!放つっすよ!」
シルヴィアが言い切るとほぼ同時に、青い魔力の塊が飛んできた。
ボウルをしっかりと掴んで構える。
ある程度距離を空けていたけれど、打ち上がるのを見るのと自分に向かって飛んでくるのは全然速さが違う。
慌てて上下左右に振ることはなかったが、ボウルに入った魔力の塊は止まることなく跳ね返り、シルヴィアへと向かった。
「やっぱりこうなったっす!」
予想していたシルヴィアは、すでに放った場所から横にズレていた。
ウチの固有魔法で守られたボウルは傷一つ付かず、つるりとした面に魔力の塊を滑らせている。
若干軌道が変わっているものの、誰にも当たることなく弾けた魔力の花は、横から見ても綺麗だった。
離れたにもかかわらず少し飛んできたせいで、青く照らされたシルヴィアが変なポーズで飛び上がっていたところを目にして、少し笑ってしまった。
「いやー、酷い目にあったっす。空で弾けたのを見てるっすけど、思った以上に飛び散ってるんすね。遠いせいでわかってなかったす」
「怪我はないん?」
「ないっすね。水の魔石を使ったからか、ちょっと濡れたくらいっす」
見せてもらった服に、若干水滴がついていた。
シルヴィアの髪靴にも掛かっているから、想像以上の範囲に魔力が飛び散るようだ。
「怪我ないならええんやけど、実験どうする?」
「エルの足元を狙って放つのが良いんじゃないかしら」
「跳ね返れへん?」
「なら、少し窪みを作ってみるのも良いかもしれないわ。時間はあるのだし、色々試してみましょう」
「せやなー」
キュークスの言う通り、思いつく方法を色々やってみることにした。
ウチを遠くに置いて、狙って放った魔力花は、破裂するまでの時間がうまく計れずに何度も跳ね返してしまった。
その度に周りの人が濡れたり、風に吹かれたり、火で炙られそうになったので断念。
魔石の大きさで破裂する規模や時間が変わることがわかった。
ナーシャは空に放ったり、遠くの魔物に向けてはなったことはあつけれど、近距離でこんなに細かく試したことはなかったから興味深そうにしていた。
次に地面に放つ方法を試したけれど、やはり地面で跳ね上がり、そこに石があれば軌道が大きく変わってウチが跳ね返すよりも被害が増えたせいで2回で断念。
結果、上からウチを狙って放つことで実験できた。
館の屋根に乗ったシルヴィアが、開けた場所にポツンと佇むウチを狙って放つ。
多少地面で跳ねるけれど、放ってすぐほど威力はないようで、数回ポンポンと跳ねるだけだから狙いやすいようだ。
魔力花の光に包まれたウチだけど、もちろん固有魔法の感覚どおり無傷。
ウチのことを知らない団の人が大慌てで建物から出てきたのを止める方が苦労した。
大人が寄ってたかって子どもに向けて魔道具を放ち続けているのだから、知らない人からしたら大事だろう。
気持ちはわかる。




