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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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幼かったナーシャのお気に入り

 

 部屋に入ってきたナーシャは2つの何かを手に持ち、背中に袋を背負って持ってきた。

 それは棒状の何かで、片方は大人の腕ぐらい長く、先端が尖っていて逆側が花のように開いている物。

 もう一つは設置するための足場から棒が伸びているけれど、長さは手首から肘よりも短く、中に何か入れるのか穴が空いている。

 つまり、両方とも形は違えど筒だった。


「エルが気に入りそうな物を持ってきたよ!これとこれ!」

「また筒やん!魔道具は筒が多いん?」

「そんな訳ないよ。たまたま持ち込んだのが筒だっただけさ」


 言いながらナーシャが足場付きの筒を机に置いた。

 その横にいくつもの魔石を並べている。

 足場にある出っ張りを引っ張ると、小さな引き出しのようになっていて、そこに魔石を入れたり出したりして使い方を見せてくれた。


「ふっふっふ。この筒はね、僕が魔道具に興味を持つきっかけになった物だよ。まずはこの足場が付いた立てて使うやつだ。これは魔石を入れて魔力を流すと、その魔石が上に飛んで光の花を咲かせるんだ。一応攻撃にも使えなくはないんだけど、体内で放たれない限り少し痛い程度だね。密着すればその限りじゃないけど。色々試した結果だけど、花にするために細かく分散させているから威力が下がるんだ。一応弱い魔物の口に突っ込んで使った時は、口から頭にかけて破裂したし、跳ね返ってきた魔法で使用者の腕もズタズタになったから注意が必要だよ。もちろん何かに密着させても同じようなことになるよ」

「えぇ……危ないやんそれ。まぁ、包丁とかも危ない使い方できるし、人に向けへんかったらええだけか」

「そうそう。道具は使い方次第さ。頭の硬い連中はそれを分かってないんだよねぇ。……というわけで実際に使って見せてあげたいんだけど、流石に室内では使えないから、こっちの説明をするよ」


 次にナーシャが指で示したのは、足場のない白くて長い筒。

 先端が尖っていて末端が少し膨らんでいるから、一応立てることができるけれど、安定はしなさそうな見た目だ。

 その魔道具を手に取り、先端に口をつけるナーシャ。

 すると、末端から音が鳴り始め、やがて楽しげな音楽になった。

 ちょっと体がそわそわして踊りたくなるような音色だ。

 ウチは踊れないけれど。


「なんで音なるん!吹いてるん?吟遊詩人の笛みたいな穴ないけど」

「これは流した魔力で音が変わる魔道具だよ。素材が音で獲物を誘き寄せる魔物の角。それを切り出して形を整えているのさ。笛の形にしているのは音を響かせやすくするのと、この先端部分が魔力を吸い出すように別の素材をつけているから。手持ちの棒だと格好がつかないのもある。一応作る時にいろいろ試したみたいだけど、両手で剣のように持っても掲げるように持っても、音を出すと間抜けに見えるんだよね。だから、元から音が出る物に形を似せた訳さ」

「おー。なんか便利そうに感じるけど、なんで普及してへんのやろ。シルビアさんわかる?」

「魔道具は高いっすから。あと、魔力をどれだけ消費するかわからないのと、主に歌でお金を稼ぐ吟遊詩人は、口が塞がれたら話せないっす。そうすると各地で起きたことを歌にして稼げないから、仕事なくなるっすよ」

「そういうもんなんか」


 各地を回って稼ぐ吟遊詩人は、英雄譚だけでなく地方で起きた事件などを歌にしている。

 楽器は弦を張った物や、叩いて音を出す物が多く、笛を使うのは楽団規模の人たちや、お金を持っている人が多い。

 魔道具として見ても戦闘に使えるわけではなく、音を鳴らして楽しむぐらいにしか使えない。

 使う魔力も普通の人なら数曲吹けたら良い方で、街に住んでいる大半の人は1曲吹けば魔力不足でぐったりするぐらいに消費するらしい。

 つまり、欲しがる人が少なく、使い勝手も悪い魔道具ということだ。


「シルヴィアさんの言う通りなんだ。だから、この魔道具は娯楽品になっていて、作ったは良いものの売れないから僕の団で買ってここにあるんだ。持ってきたのは余っているうちの1本だから、気にせず持って行って良いよ」

「とは言われても、使ったらどうなるかわからんしなぁ……」


 ウチは魔力を垂れ流しているから使えるかどうかもわからない。

 そもそも曲をほとんど知らないから、楽しめないだろう。


「使えるかは試してもらうとして、まずはどうなるか見てもらおうかな。これは僕が使ってるやつだよ。自分の物だから少しだけ手を加えてもらったんだ」


 ナーシャが袋から取り出したのは、形は同じだけど真っ白ではなく色鮮やかに塗られていて、所々に宝石のような石まで付いている。

 こういった魔道具を自分好みに飾り立てるのは普通らしい。

 剣の魔道具を手に入れたら、握りや鞘を拵えるのと同じ考えとのこと。

 剣を持たないウチはなんとなくで理解しておいた。


「それじゃあ使ってみるね」


 そう言ってナーシャが先端に口をつける。

 穴の空いていない胴体部分に手を添えているだけなのに、下側から流れてきた音は鳥の鳴き声だった。

 村の宿に泊まった時に、目覚ましがわりの朝を告げる音だ。

 想像していなかった音にぽかんと口を開けてナーシャを見ているのはウチだけじゃなく、ミミとシルヴィアもだった。

 キュークスとガドルフは目を見開いているけれど、ベアロは気にしていないどころか興味がないようでぼーっとしている。

 アンリは魔道具を凝視しているけれど、音より魔力の流れに集中している時の顔だ。

 そんなふうに周りの反応を伺っていると、流れてくる音が川の音や風の音、雨の音に雷の音、そしてようやく食事処でたまに演奏している人たちが使っている弦楽器や笛の音に変わった。


「一つの魔道具で色んな音出せるんか……すごいやん……」

「ふっふっふ。それだけじゃないよ。『今日はいいお天気ですわ』」

「え?!エリザさんの声やん!」


 ナーシャの持つ魔道具から、アンデッド迷宮でウチにムチを巻きつけて振り回した、赤いドレスを着ていたエリザの声が流れた。


「他にも『エルはもう少し大人しくするっす!』」

「シルビアさんや!」

「慣れたら『酒が飲みてぇな!』『宿に帰ってからだ』」

「ガドルフとベアロやん」

「いろいろ出せるんだ。これで人を騙し放題だね。『なんでやねん』」

「最後のは誰なん?」

「あれはエルの声っすよ」

「ウチってこんな声なんか。自分に聞こえてくるのとちょっとちゃうんやな」


 シルヴィアと盛り上がっていると、アンリが魔道具の元になった角が取れる魔物について、ナーシャに詳しく聞き始めた。

 その魔物は大迷宮にある山岳エリアの外れに生息していて、角から様々な音を出して獲物を誘き寄せたり、大きな音を出して動けなくしてくるそうだ。

 今のところ騒音角と呼ばれていて、正式な名前は決定していない。

 どうにかして音で惑わせてくることを名前から連想できるようにしたいと組合が頭を捻っているらしい。

 そんな騒音角はサイのような分厚い皮と鋭い角があり、角から水の音や他の生き物の声を出して獲物を誘き寄せ、体当たりや踏みつけで仕留めてくる。

 人と遭遇した時は、その時対峙している人の声を真似て場をかき乱す戦い方をする。

 そんなふうに魔道具化しても魔力消費の激しい角から好き放題に音を出すことができるということは、魔力を大量に保有していて、戦闘にも使えるということになる。

 つまり、強い魔物で肉も美味いということになる。

 魔力が込められた食べ物は美味しくなるから、機会があれば食べてみたい。


「気に入った?」

「めっちゃおもろそう!でも、ウチに使えるかわからんからなぁ……」

「試しに吹けばいいんだよ。ほら。口をつけたからと言って、絶対に引き取れなんて言わないから大丈夫。むしろ合わない魔道具を渡す方が嫌だからね」

「なら、せっかくやし」

「口付けて、息を吐く感じで音が出るけど、その時に流したい音を意識すると良いよ。練習すれば色々な音が出せるようになるから」


 渡された装飾のない、白い魔道具を受け取る。

 てに持っても音は鳴らず、ナーシャの持ち方を真似て両手で持ち上げ、先端に口に近づけた。

 すると、まだ加えていないのにのに、ぴっぴっぴと規則正しい音が鳴る。

 慌てて離すともちろん音は止まり、口というより体に近づけると鳴る。


「なんやねんこれ」

「勝手に魔力を吸ってる」

「漏れ出た魔力を使っているのかな?じゃあ口をつけたら?」


 口を付けると、聞いたことがないけれど陽気な音楽が勝手に流れた。

 なんとなく座った人たちがお題にそって笑えることを言い合うような、それでいてお互いをいじり合うような曲だ。

 なぜそんな事が思い浮かんだのかはわからないけれど、ミミとナーシャの団のうちの1人が音に合わせて体を揺らしているのが面白い。

 この曲は一体どこから出てきたのだろうか。

 首を傾げて考えても、誰も答えてくれなかった。

 聞いたことがない音で構成されたテンポのいい曲。

 それをウチのような子どもが奏でるのだから、唖然となるのも仕方がない。


 「ま、まぁ、たまに音楽の天才がいるし、エルもそうなんじゃないかな!僕は聞いた音を奏でるのに数年かかったから、歌の天才かもしれないよ!」

 「いやー、それはないな」

 「ないっすね」

 「ないわね」

 「ない」

 「な、なぜ?」


 ウチに続けてシルヴィア、キュークス、アンリに否定されて、ナーシャが狼狽える。

 口に出してないけれど、ガドルフとミミも頷いている。

 ベアロは寝てた。


 「ウチな。音痴やねん。歌うの下手やねん」

 「エルは声量の調整が下手なのよ。独特のリズムも刻むから、酒場の音に合わせて踊るのも無理だったわ」

 「一つ一つの動作が力強いんすよね。普段はそうでもないけれど、音楽に関わると一気にダメになるっす」


 散々な言われようだ。

 しかし、酒場で食事をした時に、奏でられた曲に合わせて踊ったり、教えてもらいながら歌った結果だから仕方がない。

 なんというか、体が動くリズムと奏でられるリズムがどうしても合わない。

 どちらかというと、さっき勝手に流れた曲の方が上手く動けそうな気がするぐらいに。

 そんなウチが音楽の天才とはどうしても思えなかった。

2025/6/24追記

後出しで申し訳ないですが、少しの間更新が止まります。


風邪を引いたのと、仕事が忙しく書く時間が取れません。

休日も在宅で資料作ってます……。


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