用途不明な魔道具
館の上階ほど高価な家具の魔道具があると説明を受けたが、全員家具には興味が湧かなかったから、予定通り大物や使い方がわからない魔道具を見せてもらうことになった。
後ろでキュークスが高価な家具がどういった魔道具か説明を受けていたけれど、魔道具としての能力よりも見た目が華美な物や、装飾を足した物が多いようだ。
もちろん能力が優れた物もあるけれど、そういった物はまだまだ品不足で、この館ではなくどこかの貴族や豪商が請負人組合から買っていき、なかなか手に入らないみたい。
そんな話を聞きつつナーシャに案内されるがまま、地下へと進んだ。
「ここに使い方がわからない魔道具や、頑張れば使えるけれど普段使いは無理な魔道具を保管しているんだ。普通なら使用人の部屋やワインセラーになる場所だね。だけど、ここの管理は入り口だけだから数人で済むし、上階はそれこそ魔道具で補強しているから簡単には侵入できないようになっているのさ」
「へー。そんなところにも魔道具使ってるんやな」
「そうだね。ここを作った当初は結構危なかったみたいだよ。それも、今となっては極稀に馬鹿な人が魔道具を寄越せと来るぐらいだね」
「そんな人おるんやな」
「厳重に保管していると、貴重な物だと思って商人や一部の請負人がね……」
苦笑いを浮かべるナーシャ。
興味本位でどんな人が来るのか聞くと、横柄に保管している物を見せろと言う人や、大量の金貨を見せながら珍しい物を買わせてくれと言う人、挙げ句の果てに自分の方が魔道具にふさわしいと決闘を申し込んでくる人もいるそうだ。
ウチ以外も呆れながら聞いていた。
・・・見せろと売ってくれはわかるけど、自分の方が相応しいってなんやねん。使うて無いのに俺の方が上手く使えると思ってるのは自信過剰すぎるやろ。そんな奴迷宮でヘマして長生きできへんわ。お調子者や乱暴者なら言いそうやけどな。後は差別する人らとか。嫌いな種族が使ってたら取り上げたくなるんやろか。いじめっ子やん。
「気を取り直して、この地下保管庫には大きな物や使い方がわからない物なんかがあるよ。危なすぎる物は団じゃなくて大迷宮伯のところで管理しているね」
「危なすぎる物?例えば?」
「パッと思いつくのは、魔力を込めると毒の煙が出る玉、人体を溶かす液体が出る筒、人の思考を操る鎖付き首輪、馬車を木っ端微塵に吹き飛ばすほどの爆発を起こす円盤、込めた魔力の分だけ絞めつける布、魔力が尽きるまで暴れ回る人形、切れ味や頑丈さが上がるけれど魔力が尽きるまで吸い尽くす武器や防具、理性を失う兜、人が入れるぐらい大きな穴の空いている石像とかだね」
「えぇ……めっちゃあるやん。そういうもんやと知らずに、宝箱から出てすぐ使って大惨事になったりせぇへんの?」
「そういう事故は起きてると思うよ。ただ、一部のすぐに死んじゃうやつは報告されていないだけじゃないかな」
「あー……そういう……」
事故の報告がないのは、生きて帰れないからという話をどこかで聞いた気がしなくもない。
誰が話していたかすら曖昧だけど、ナーシャの言ったことはそういうことだろう。
むしろ、迷宮から出てくる物の中に、そこまで危険な物があるとは思っていなかった。
剣が危険ではないというわけではなく、使い方次第で大量に被害が出ると言う意味でだ。
「エルは組合に貼られている注意魔道具の一覧は見てないのかしら?」
「え?そんなんあったっけ?言うってことはキュークスも見てるんやんな?」
「そうよ。後はアンリとシルヴィアも更新されてないか、たまに確認しているわよ」
「ガドルフとベアロは?」
「ガドルフは他にも調べることがあるから……。気が向けば見ているんじゃないかしら」
「見てるぞ。詳細までは覚えてないが、どういった物があるかぐらい確認しておかないとな」
「俺は見てない!だから魔道具っぽい物は最初に触らん!」
「えー、ウチ気づいてへんかったから割り切りのいいベアロよりもあかんの?」
「貼られている場所がエルの見えるところじゃないのよねぇ。結構高いところにあるの。そもそも見習い上がりがすぐに危険な魔道具に遭遇することが稀だから」
「あー……深いところに出るんか」
それならば見習い上がりに危険は少ない。
様々な依頼を受けながら地力をつけて、先に進めるようになったらその場所の情報を仕入れる。
普通ならそういったやり方だけど、ウチらの場合は情報収集がシルヴィアで、ウチは盾であり剣であり杖でもある。
ウチに頭脳労働を期待するのはやめてもらって正解だろう。
みんなと比べて圧倒的に知識が不足しているから、ゆっくりと教えてもらえばいい。
かと言ってベアロのような割り切り方もどうかと思うけれど、ウチの場合は固有魔法任せの強行もできるから、周りから見ればあまり変わらないかもしれない。
脳筋なベアロと同じかと少し肩を落とした後は、気を取り直してナーシャの説明を聞きながら魔道具を見せてもらった。
「これ何なん?筒やん。他にもゴミばっかやん」
いくつか見せてもらっている中で、ウチでも両手で掴めるぐらいの太さで、長さが大人の背丈ぐらい、中身が空洞の棒が置いてあった。
他にも色々な形の塊も隅っこにまとめられていて、地上階と違って飾られていないせいでゴミにも見える。
「エルはまだまだだね。これは全部ゴミじゃないよ。魔力を流すと何かしらの効果があるから魔道具さ。エルが気にした筒は、魔力を流すと両端に吸着効果が発生するんだ。高いところにある物を取るのに便利だね。他には……例えばこれ筒の中に筒があるんだけど、魔力を流すと中の筒が上下する。これを使って水路を作れば、遠隔で小さな水門の開け閉めができる。人が直接した方が早いけど……」
「結局使い道無いやん」
「宝箱から出た物のはずなんだけどね。組み合わせたらこうなるよ」
ナーシャがくっ付く筒を持ち、中の筒が上下する部品に先端を付けると、筒の先で中の筒が出たり入ったりし始める。
かしゃかしゃ音がなっているけれど、だからといって何ができるのかわからないことの変わりはない。
他には魔力を流すと勝手に転がる球、3方向がぱかりと開く三角錐、中に板が入っていて中身を勢いよく押し出す箱など、色々動くけれど使い道が思いつかない物ばかりだった。
大きな金属の手のような物が気になって詳しく聞いたところ、魔力を流すと7本の指を自在に動かすことができるけれど、手自体が非常に重くて使い物にならなかった。
腕や体、足などが見つかれば組み立てられるかもと考えているそうだが、今のところ出てきていないらしい。
「うーん。ここにウチが欲しい物ないわ。もっとわかりやすいのがええな」
「武具以外で?」
「武具でもええけどな。でも、みんな欲しい物あった?」
ガドルフたちに聞いても、みんなあまりピンと来ていなかったようで、ほとんどが首を横に振った。
武具は貰ってもすぐに使いこなせるわけでもないし、ガドルフは斬撃を飛ばす剣、ベアロは重さを増す斧を最近手に入れている。
キュークスはアンデッドドラゴンの骨で棍を作ったし、アンリは魔道具より素材に興味がある。
シルヴィアのために投げナイフに、ウチとミミで使えそうな調理用の魔道具にするかと考えていると、ナーシャがもう一つ提案してくれた。
「ここはあくまで保管庫だから、使いづらい物が多いって伝えたよね?だから、僕が持っている使いやすい物の中で、渡してもいい物をいくつか用意してみるよ。戦闘に使う物じゃないけどね」
保管庫の中にある応接室へと戻り、ナーシャを見送る。
残ったのはウチらに加えてナーシャの団の人が2人と管理人で、ナーシャが説明しなかった魔道具や、団で運用している物を教えてもらった。
当然ここにある物より使いやすい物が多く、中には効果が劣るけれど使いやすい物などもあった。
ナーシャが悪いわけではないけれど、ある意味この人たちの方が説明に向いているのではと思いながら話を聞いていたら、駆け足でナーシャが戻ってきた。
考えたことがことなので、ちょっとだけ視線を逸らして迎え入れた。




